第63話 真の勇者
俺は千曲川を無量大数で、廃人にしてやった。
「ダーリンっ!」
今まで黙って、俺のやることを見ていたエリスが飛びついてきた。
「エリス。悪かったな。ひやひやさせちまってよ」
途中、俺が千曲川のあほに、能力で操られていたふりをしていた。
でも、エリスは俺を信じてくれた。大丈夫だってな。
……とはいえ、心配させてしまった。
「ううん、ダーリンは無敵ですもん! 絶対大丈夫って信じてましたぞ!」
……なら、ちょっと震えてるんじゃねえよ、ったく。
……ぽんぽん、と俺はエリスの頭をなでた。
エリスが頬を赤らめ、唇を突き出してきた。
外だから嫌だったんだが、まあ、こいつには心配させちまったしな。安心させるためにも、俺はキスしてやった。
顔を離すと、エリスがエヘヘとあほ面をさらしながら笑っている。
次からは、こいつの前で危ないことはしないようにしよう。まあ、理想はそもそも危ないことしないほうがいいんだが。
「ダーリンこれからどうしよう?」
「とりあえず情報は抜いた。シロを回収し、リナリーゼのあほに連絡をしたら、すぐにずらかるぞ」
と、そこへ……。
「あ、あのぉ……」
「あ?」
見慣れない連中が俺たちの前にやってきたのだ。
なんだ、敵か?
邪魔するなら倒す……と思っていたのだが。
バッ! と連中が一斉に頭を下げてきたのだ。
「あ?」
「ありがとうございます! 勇者を倒してくださり!」
……ありがとう、だぁ?
なんで勇者倒して、感謝されるんだ……?
「どういうことです?」
エリスが、連中に尋ねる。
この街の人間だという彼らは語り出した。
千曲川はこの街を支配し、やりたい放題やっていたそうだ。
街を一度救ってもらった恩義もあり、あいつの言うことを一度聞いてやったが運の尽き。
その後も千曲川のわがままに振り回され、みな困っていたそうだ。
金を奪われ、奴隷のように働かされていたんだと。
そこへ、俺たちがやってきて、諸悪の根源(※千曲川)を倒してくれた……。
だから、感謝してる、とのこと。
「我らを勇者から解放してくださったこと、心から、感謝申し上げます!」
「…………はぁ。なんだそら? 勘違いしてんじゃねえよ」
確かに俺は千曲川をやっつけた。
「けどそれはなぁ、俺のためにやったんだ。あんたらのためにやったんじゃない。勘違いすんじゃねえよ」
「あ、というツンデレってやつです~!」
あほエルフがえへへと笑いながら言う。
「「「なんだ、ツンデレか」」」
「異世界人ツンデレ知ってるのかよ!」
どういうことなんだよっ!
「なるほど、照れ隠しでしたか」
「ちげーっつってんだろ! このあほが妙なこと言ってるだけで!」
「いえいえ、わかっておりますよ。真の勇者様」
なーにが真の勇者だ。
千曲川たち勇者軍の素行が悪いせいで、俺が相対的になんか良いもん扱いされてやがる!
「とにかく! 俺は自分の目的が達成したから、これで失礼する。後のことは適当にやっとけ!」
「はっ! かしこまりました。真の勇者様」
……俺はエリスと、シロを連れてさっさと街を出る。
なにが真の勇者様、だ。変なあだ名付けやがって……ったく。
「真の勇者さまかぁ~。孤高の金獅子と似てて、なんだかうれしいですっ♡」
何がうれしいんだか……ったく……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます