第60話 魔物使いの勇者相手に無双



 地下牢にて、元クラスメイトの勇者、千曲川と対峙してる。


「松代ぉ! あんた、生きてたのか!?」


 千曲川の俺を見る目には、驚きの色が浮かんでいた。

 そして、次第に怒りに変わっていった。


「いや、どうでもいい! あんた、自分が何したかわかってるわけ!? Fランのくせに、Bランクのあたしを傷つけたのよぉ!」


 なんだ、こいつもBか。

 雑魚確定じゃないか。


「うるせえ。さっさと情報をはけ」

「あたしに命令してるんじゃあないわよ!」

「なんだ、得意の聖武具でも使うのか?」


 勇者どもは固有の武器、聖武具というものが存在する。

 この世界の魔法や、ステータスに依存した攻撃は、この世の断りから外れた俺には通じない。


 唯一、俺にダメージを与えられるのは、この世のルールを外れた武器。

 勇者に与えられし女神からのギフト、聖武具しかない。


「いいぜ、かかってこいよ。俺はおまえに聖武具を使わせてやる。その上で、おまえを倒して屈服させてやる」


 これは慢心でもなんでもない。

 確定された未来、事実となるべきものなのだ。


「調子乗ってんじゃねえぞ、くそがよぉ!」


 千曲川はタンッと地面を蹴って部屋から出る。

 逃亡? いや、違うな。


 向かったのは他の場所。

 そこにもまた地下牢があった。俺と同様、千曲川に楯突いた連中が収監させられていた。


「勇者の鞭、発動ぉ!」


 千曲川の手に1本の鞭が出現する。

 紐タイプじゃなくて、競馬とかでジョッキーが使うような鞭だ。


 通常の鞭よりリーチが短い。

 やつは、俺が銃を使うのを知ってるのに、にやぁと余裕ぶった笑みを浮かべている。


 つまり、あの鞭は直接攻撃用じゃないということ。

 千曲川は鞭を片手に牢屋に入る。


「おらぁ! あたしのために働けぼけどもぉお!」


 鞭を振り上げ、そして近くにいた街の人間に、ぱしん! と叩く。

 すると……


「あ、あががが、ぐ、ぐあぁあああ!」


 無知で叩かれた男の体がみるみるうちに変化していく。

 筋肉は膨張し、肌の色は緑色へと変化してる。


 ジョン・スミスの知識によると、あれは緑鬼グリーン・オーガと呼ばれる、Bランクの魔物らしい。


「ゆきなさい、緑鬼!」

「ウガァアアアアアアア!」


 緑鬼が俺めがけて襲いかかってきた。

 まっすぐ突っ込んでくるやつを見て、まるで恐怖を感じない。


 もっと恐ろしい敵とは何度も戦ってきてるからな。

 俺は緑鬼のタックルをひょいと回避して、足を引っ掛ける。

 ぐしゃり、と緑鬼が壁に顔をぶつける。が。


「ウガァアアアアアア!」


 顔面の骨が何本か折れたっていうのに、緑鬼はなおも俺に襲いかかってくる。


「きゃはは! どうよぉ? あたしの鞭の固有能力、【千変万化】! あたしの鞭で叩いた人間は、従順な化け物になっちゃうのよぉん!」


 なるほど、クソ能力だな。

 べしべし、と千曲川が鞭で無辜の民を叩きまくり、魔物にしまくってる。


 緑鬼となった街民たちが一斉に襲いかかってきた。

 緑鬼のランクはB。


 すでで石の壁を軽々破壊する腕力を持つ。


「おほほ! おわりよおぉん!」


 はぁ。

 バカだなあいつ。


 俺は緑鬼たちの間をすり抜けていく。

 その拳が一度も俺の体に触れることはない。


「なにぃい!?」

「動きがとろすぎんだよ」


 ちなみに威嚇は打ったが効いてなかった。

 たぶん操り人形にされてるからだろうな。


 だが、ま、関係ない。

 緑鬼なんて雑魚じゃ、俺にかすり傷一つ負わせることもできない。


 所詮こいつらはBランクの雑魚魔物なのだから。

 こいつらの攻撃なんて、止まって見えるぜ。


 すり抜けざまにとんっ、と緑鬼の首に指を立てる。

 麻痺毒を注入することで、全員がその場で倒れてしまう。


「ど、ど、どうなってんの!?」

「さてな。で、どうする? もうおまえ、俺の間合いに入ってるんだけど?」


 千曲川の目の前までやってきたやった、俺。

 遠くから銃で狙撃することも可能だった。

 

 が、こいつにはたっぷりと恐怖を味合わせてやろうと思ってな。


「ふ、ふん! これでも食らえよぉ!」


 千曲川が俺に勇者の鞭で攻撃してきた。

 ばちん! と鞭が俺の腕に当たる。


「きゃはっはあ! 勝ったぁ! これであんたはあたしの従順な奴れブギャアアアア!」


 千曲川の顔面に拳を叩き込んでやった。

 やつはボールみたいに吹っ飛んでいく。

 天井と床に何度もバウンドして、やがて動かなくなる。


「ど、どうしてぇ……どうしてきかないのよぉ〜」


 ふう、やれやれ。


「悪いな。俺はもう、人間じゃねえんだわ」


 全身に呪物を身につけ、この世界のルールから外れた俺は、限りなく化け物に近い存在なのだ。

 千曲川の聖武具は、人間を魔物に変えて従える能力を所有するようだが……


 俺は、そもそも人間じゃない。だから、効かないのだ。


「で? もう終わりか?」

「あ、あば、あばばば!」


 終わりっぽいな。

 弱い。さすがBランク。


「さて、じゃ、俺の次ターンね。あ、ちなみにだけど、俺男女平等主義者だから。手加減とかしねえから」

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