第59話 元クラスメイト、追い詰める



 俺の前に金髪の女が現れた。

 名前は千曲川 ビチコ。いじめグループ主犯格、木曽川のカノジョだ。


「あら、いい男じゃない?」


 千曲川は俺を見てそう評した。

 現在、俺は呪物を使って顔を変えている。

 千曲川は俺のことを、松代まつしろ 才賀さいがとは認識していないだろう。


「あんたが街の外で騒ぎを起こしていたっていう男?」

「ええ、まあ」


 次にエリスを見て、にんまりと笑う。


「孤高の金獅子じゃないの。フェンリルといい、いいもの手に入ったわぁ」

「?」


 ここでも、エリスは有名人のようだ。

 しかしなんだ、今の言い方……?


『シロが危ういかもしれないな』


 ……妖刀の言うとおりだ。

 ちなみに俺もエリスも武器を取り上げられてる。が、妖刀とは意識をリンクさせられる。


「ここから出してください。俺はただ、街の人たちをドラゴンから守っただけです」


 別に助けるつもりはなかったがな。


「ふぅん……」

 

 しゅる……と千曲川が腰につけていた【それ】を手に取る。


「いいわよぉ」


 千曲川は見張り役に目で合図する。

 見張り役は扉を開けて、外に出るようにうながす。


 ……どう考えても不自然だ。

 このくそ女が何のメリットもなく罪人(推定)を出すわけがない。


「出てらっしゃいな」

「…………」


 ちら、と俺はエリスを見やる。

 エリスは一瞬首をかしげるも、視線を千曲川に向けた。


 目をむく。

 だが、こくんとうなずいた。……よし。


「わかりました」


 俺は千曲川に言われたとおり、外に出る。


「出してくださりありがとうございます」


 にまぁ……と千曲川が悪い笑みを浮かべると、手に持っていた鞭で、俺をたたいた。


「がっ……!」

「おほほ! アタシの奴隷になりなさーい!」


 ……なるほど。そういう系ね。

 俺はその場に倒れる【フリ】をする。


 エリスの表情が一瞬こわばる。

 が、俺はエリスを見た。彼女はうなずいて、おとなしく座った。良い子だ。あとで可愛がってやろう。


「さ、立ちなさい。奴隷」


 ふらふら……と俺は立ち上がる、フリをする。


「孤高の金獅子を連れてきなさい」


 そして、言われたとおりエリスの元へ向かう。

 エリスに近づくと、彼女は耳元で言う。


「……あの鞭。【隷属】っていうスキル持ってる。たたいた相手を奴隷にするんだって」


 俺はうなずいて、エリスの首の後ろをとんっ、とたたく。

 気絶するエリス。

 彼女をもちあげて、千曲川の元へ向かう。


「あはは! 金獅子きんじしといい、フェンリルといい、良い駒げぇっとぉ~!」


 ……シロも隷属スキルを食らってるのか。

 くそが。覚えてろよクソ女。


「ついてきなさい」


 そう言って、千曲川が先に進んでいく。

 まだだ。まだ、やらない。こいつが一人になるのを狙う。


 ほどなくして、俺たちは牢屋から出た。

 ここは結構広い建物のなかのようだ。


 一番奥の部屋へと通される。

 そこには、うつろな目をした男女が、部屋の中でボウッと突っ立っていた。


 なるほど、千曲川に隷属させられた連中か。

 シロも、部屋の奥でお座りしている。


 千曲川がシロに、まるでソファにみたいに座る。


「さ、金獅子きんじしをそこに寝かしつけなさい」


 そっ……と俺はエリスを優しくおく。

 ぐーすかとエリスは気持ちよさそうに寝ていやがった。何をされるのか不安に思っていないようだ。俺への信頼を感じられて、少し、うれしくなる。


「ちょっと? あんた何を笑って……って、え?」


 俺は【無音】を部屋に付与し、黒衣ブラックウーズ・コートから銃を取り出す。


「な!?」


 ズドンッ!

 俺の放った銃弾が、鞭を持っていた千曲川の腕に穴を開ける。


「いぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!」


 千曲川が鞭を落とす。

 俺は左腕の呪符をといて、黒獣の腕を出現させる。


 腕を伸ばし、鞭を食らった。

 瞬間……。


「あ、あれ……?」「おれたちはいったい……?」


 隷属スキルをかけられていた連中が、一気に目を覚ます。


「な、なんだ?」「あんたいったい……?」


 操られていたやつらが目を丸くしてる。


「いけ」

「え?」

「さっさと出て行け」


 全員が戸惑っている。

 ちっ。


 するとシロが立ち上がる。


『あおーん!』


 威嚇(上級)を発動した。吠えて追い払うつもりだろう。ナイス……。

 って、え?


 ドサッ……!


「………………全員気絶かよ」


 なんだ、この場の連中全員雑魚かよ。やれやれ。


「あ、あんたぁ……! なにものなのよおぉ!」


 千曲川が手から血を流しながら、俺に尋ねてくる。


「俺? おいおい、忘れてしまったのか? この顔をよ」


 俺は変装を解く。

 呪物を解除し、松代まつしろ 才賀さいがの顔を見せた。


「ま、松代まつしろ……?」

「そうだぜ千曲川。てめえらが捨てた、Fラン勇者だよ」

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