第54話 野営でフェンリルに食われる



 フェンリルのシロを仲間に入れて、旅を続ける俺たち。

 今日は野営することになった。


 通常ならテントを張っての野営だが、俺の場合はそんなことしない。

 ジョン・スミスの住んでいた小屋、【賢者の小屋】。


 これは中に入ると、小屋ごと異空間に移動するという超絶便利アイテムだった。

 黒衣ブラックウーズ・コートの中に入れてあった小屋を取り出し、そこに入る俺たち+地竜。


 で、だ。


「はー……♡ 満足ですわー……♡」


 寝室にて。

 隣ですっぽんぽんのエリスが満足げに言う。


 子供しろを寝かしつけた後、俺とエリスは久しぶりに夜を楽しんだのだ。


「この小屋いいですな! どれだけ大きな声上げても、隣から苦情とかこないですしっ」

「そりゃ小屋自体が異空間に移動してるからな」


 このファンタジー世界は、文明の水準が中世ヨーロッパレベルだ。

 宿屋の壁はめちゃくちゃ薄い。


 一度宿に泊まったことあるのだが、隣で寝てるやつのいびきが聞こえてきて、殺意を覚えたほどだ。

 その点、賢者の小屋は良い。


 作りはしっかりしてるし、何より異空間に移動してるため、隣人に気を遣わなくて良いからな。


「んふふ~♡ わたし野営の方が好き~♡ 街中だと賢者の小屋使えないもんねっ。そしたらダーリンとえっちできないしっ」


 このアホは高位の最中結構うるさいのだ。

 宿でおっぱじめた日には、『昨日はお楽しみでしたね』ですまないレベルなのである。


「もうすぐ街に着く。それからしばらくはお預けだ」

「えー。じゃあもっとダーリンと夜戦だ!」


 と、そのときだった。

 コンコン……と誰かがノックしてきた。


 まあ消去法でシロなのは確定してるんだが。


「およ? 誰かな?」

「シロに決まってんだろ……他に誰がいるんだよ……」

「あ、そか! しろちゃーん」

「服を着ろバカ!」


 あのアホ、真っ裸でドアを開けようとしやがった。

 黒衣ブラックウーズ・コートを操り、やつの体にネグリジェを着せる。


「やん♡ エッチなデザイン♡ ダーリンも好きね~♡」


 ……あとで泣かしてやる。

 で、シロが入ってきた。


「どうした?」


 人間姿のシロは、顔を赤くして、もじもじと身じろぎしていた。


「なんだって?」

「…………」


 ちょいちょい、とシロがエリスを手招きする。

 エリスは耳を貸して、ふんふんとうなずいていた。


「大変だダーリン!」


 エリスが迫真の表情で叫ぶ。

 なんだ? 敵か……?


「シロちゃんがエッチな気分になっちゃったって!」


 ………………………………心配して損した。


「寝ろ」

「無理っぽい。シロちゃん発情しちゃったみたい」

「はぁ? 発情だぁ?」


 なんだそりゃ……!


「神獣は獣人同様に、決まった周期で発情期があるんだってさ。その期間にメスはオスを襲って子供をこさえるんだって」

「め、メスがオスを襲うんすか……」


 改めてみると、シロの目がギラギラしていた。

 飢えた肉食動物を想起させる。


「ダーリンまずいよ。シロちゃんの性欲を発散させないと、ところ構わずオスを襲って食べちゃうよ! 性的に!」


 …………………………くそが。

 なんっつー厄介な性質持ってやがるんだよ!


 ただでさえ、フェンリル姿は伝説の神獣だから目立つ、人間は超絶美人なので目立つ。

 そんな目立ってしょうがないなのに、そこに加えて発情期を抱えてるなんて……。


 この状態で街に入ってみろ?

 男を手当たりしだい食う痴女を連れた男(俺)として、くそ目立つじゃないか!


 そんなのめんどくさすぎる……。

 くそが。


 それにシロがそんなことして、騎士にしょっ引かれたら可哀想だ。


「てことでダーリン。どうする?」

「どうするもなにも、抱いてやりゃいいんだろ?」


 こいつはついこないだまで、10代前半の少女だった。

 それが一夜にして立派な胸を持つ爆乳美女。


 正直、戸惑いはある。

 だが、まあ、抱いてやらんと性欲を暴走させてしまうのだ。仕方ない。


 それにまあ、性的な魅力がないわけじゃないからな。


「おまえはいいのかよ? 俺がシロを抱いても」

「良いに決まってるよ! シロちゃんは家族だもんね!」


 家族を抱いて良いのか……?

 え、エルフの貞操観念……わ、わからん。リナリーゼもそうだが。


 もしかしてエルフって、俺たち地球人が想像するイメージ(貞淑)とは、全く別の存在なんだろうか……。


「シロちゃん良かったね! ダーリンが可愛がってくれるって!」

「おにちゃんっ!」


 シロが服を脱いでびょんっ、と飛びついてきた。

 そのまま押し倒される俺。


 べろ……とシロが舌なめずりする。


「お兄ちゃん……美味しく、いただきます……♡」

「ちなみにフェンリルの体力は凄いって聞いたことあるよ!」


 ……あれ?

 これもしかして、地下を出て最大の危機を迎えてないか?

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