第53話 契約で手に入れた新スキル試す



 俺はシロを仕方なく仲間に引き入れた。

 仕方なくな。誰が望んでこんなくそ目立つ女を仲間ミスるかっていうんだよ。


「シロちゃん、御者やってくれるの? いいの?」


 御者台にはシロが人間姿で座っている。


「うん! しろ、獣の言葉理解できるし、しゃべれるからっ」


 なるほど。

 シロは俺たちの乗る地竜と会話ができるのか。これは都合が良いな。


 これなら、効率よく、旅を続けることができそうだ。

 地竜が疲れたタイミングで休みを取らせてやれる。


『おまえ様よ。たとえば【無休】ってスキルを、地竜に付与すれば、24時間休みなく走らせることができるのではないか?』


 ああ、だろうな。

 だから、使わない。


『けれど、じゃなく、だから……なのだな』


 ああ?

 何か文句でもあるのかよ。


『いやいや、何も。我はおまえ様のそういうところ、好きだぞ』


 どういうことろだよ……ったく。

 まあ何はともあれ、御者がただで手に入ったのはラッキーだったな。


 エリスのやつはシロの隣に座っている。


「シロちゃん、そのお洋服……ちょーかわいいね!」

「そーお? えへへへ♡」


 シロは現在、エリス同様に、黒衣ブラックウーズ・コートを変化させた服を身につけている。

 白いふわふわとしたワンピースを身につけていた。


 そう、ワンピースだ。

 体のラインが普通に出るやつだ。


「むぅ……シロちゃん。なんてバリボーなメロンなんですかっ!」

「ばりぼ? めろん?」

「デカメロンってこと! くっそぉ! 私より胸がおっきいだなんて! 反則ですよっ!」


 ……エリスも普通に胸がデカい。

 が、シロはそれを凌駕する大きさなのだ。それでいて、中身がガキっていう。なんとも背徳の香り漂う外見をしてるのである。


「はんそく? しろ……なにかだめなことしちゃった?」


 ぺちょん、とシロが犬耳を垂らす。

 エリスが慌ててシロを抱きしめる。


「駄目じゃないよ! シロちゃんは綺麗だね、可愛いねって思ったんです!」

「きれー? かわいー?」

「はい! 女の私が嫉妬するほどにっ」

「わー! ありがとぉ~♡ エリスおねえちゃんも、きれーでかわいーよっ?」

「わぁ……! ありがとぉ~!」

 

 ちら、とエリスが俺を見てくる。

 ……このアホとの付き合いも結構長い。


 だからわかるのだ。

 このアホが、期待のまなざしを俺に向けているってことに。こいつ、褒めて欲しいんだな……。


「はいはい、きれーでかわいーでよー」


 あきれた調子で言ってやった。


「やったー! ダーリンが褒めてくれましたー! ハッピー!」

「はっぴー!」


 ……やれやれ。

 しかしまあ、仲よさそうだなあの二人。まあエリスは妹欲しかったとか言ってたしな。うれしいんだろう、妹分ができてよ。


 ま、これならシロの面倒は丸投げして良いな。

 俺は荷台に寝転ぼうとした、そのときだ。

 

 ぴくんっ、とエリスの耳が動く。


「ダーリン」


 付き合いが長いので、それだけで、敵が来たことがわかった。

 ちっ。やっかいだな。


「シロ。竜車を……」


 ぴたっ、とシロが竜車を止めた。

 ……こいつ、俺が止めろっていうまえに動きやがったぞ。


「これでいい?」

「あ、ああ……どうしてわかった?」

「しろ、わかるの。鼻、いいから」

「鼻?」


 こくこく、とシロがうなずく。


「しろ、匂いで、心わかる。獣の匂いする」


 なるほど、こいつも敵を探知する術を持っているようだ。


「それにしろ。心もわかる。においで、心、わかるの」


 ……匂いで心の中がわかるだって?

 どういう理屈だろうか。まあ、それはどうでもいい。


 どうやらフェンリルの鋭敏な嗅覚は、人間以上にいろんな情報を読み取ることができるようだ。

 俺が敵に向けた感情、敵意を匂いとしてエリスは感じ取った。

 だから、竜車を止めたってことだろう。


「心が読めるなんて、使えるじゃねえか」

「えへへっ♡ おにいちゃんにほめられちゃった~!」

「くぅうう! 私もお兄ちゃんにほめられたいなっ! お兄ちゃんに、ちらちら!」


 俺は荷台から降りる。


「おいアホ」

「はいアホです!」

「おまえは残ってシロと地竜を守ってろ」

「あいさー!」


 俺は竜車から少し距離を取っておく。

 まあ大丈夫だろうが、念のため2人(+地竜)に【無傷】を付与しておくか。


『もはやツッコまんぞ、くくく』

 

 さて。

 敵か。めんどくさいな。外を歩くたびこれじゃ、前に進まんぞ。


『まあしょうがないだろうな。おまえ様は今、魔物側からすれば格好の餌だ。膨大な魔力えさを垂れ流し続けているからな』


 俺は現在無限の魔力を手に入れている。魔力を欲する魔物にとっては、俺は無限エネルギーを垂れ流す脆弱なる人間だと思われてるんだと。


『ここで朗報だ。主よ。従魔契約により、フェンリルからスキルを獲得してるぞ』


 なに……?

 どういうことだ。


『従魔と契約すると、契約主は従魔の持つスキルを共有、使用できるようになるのだ』


 ……なるほど。

 フェンリル(シロ)を食わずとも、あの子のスキルを俺が使えるようになるのか。

 良かった。食わずにすんで。


『くくく……やはりシロはおまえ様にとって大事な仲間なのだな』

「ふん。あいつらは大事な仲間じゃねえよ」


『ほぅ。じゃあなんだ』

「大事な家族だよ」


 エリスは俺にとっては家族。で、シロはエリスの妹分なのだ。

 俺にとってシロもまた家族も同然だ。


『…………』


 なんか言えよ。


『おっと。じゃあフェンリルから習得ラーニングしたスキルを教えてやろう。いくつかあるが、威嚇(上級)、が使えるかな』


 威嚇(上級)?


『使用するとBランク以下の魔物を追い払うことができるぞ』


 おお、いいじゃないかそれ。

 雑魚といちいち戦わなくてすむ。


『使用する場合は、吠えるなど、音を出す必要があるな』

「銃声はどうだ?」

『いけるだろう』


 よし。


『おまえ様よ。このまま使うとエリスやシロにも影響が出るぞ』


 あ? そうか。あいつら耳が良いからな。

 俺は【無音】をあいつらに付与しておく。


『当然のように仲間を守るのだな』


 たりまえだっつーの。


「よし。威嚇(上級)」


 スキル発動と同時に引き金を引いた。

 魂感知を発動。こちらに近づいてきた雑魚魔物達が、ずああああ……! と一気に逃げ去っていくのがわかる。


「おお、威嚇、結構使えるな」


 俺は幸運銃トリガー・ハッピーをしまって、エリス達の【無音】を解く。


「むふふふ~ん♡」

「えへへへへ~♡」


 アホエルフとアホ犬が、あほ面を俺に向けてきた。


「んだよ」

「ダーリンダーリン♡ 私たち、耳が良いんですよ~♡」


 ぴこぴこ、とエリスが長いエルフ耳を、シロが犬耳を動かす。

 あ? 耳が良いから……なんだ?


「あいつらは、大事な仲間じゃない……って!」

「大事な家族だ……って!」


 …………………………あ。


『くっくっく! どうやら先ほどの我との会話を、聞かれてたようだな。もっとも、我の声はおまえ様しか聞こえないから、独り言つぶやいてるように思われただろうが』


 し、しまった……!


「シロちゃん、聞きましたこと?」

「うん! しろたち、大事な家族だって!」

「きゃー♡ もぉ~♡ ダーリンちゅきちゅき~♡」

「しろも、ちゅき~♡」


 びょんっ、とアホどもが御者台からジャンプして、俺に抱きつく!

 あほエルフも、あほ犬も、どっちもめちゃくちゃ胸がでけえ!


 くそ! ひっつくな!

 無駄にでけえんだよ!


『良かったな。巨乳美女二人に囲まれて、男冥利につきるというものだろう?』


 うるせえ! くそ!


「離れろよ!」

「「いやでーす♡」」

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