第50話 奴隷を助ける
ソクォーチを奴隷にし、冒険者ライセンスをゲットした。
俺はヘンリーのもとで買い物をし、早々に街を出ることになった。
ヘンリーとその娘から熱心に引き留められた。
どうやら娘は俺に惚れてしまったそうだ。
だが、妻一筋だと答えると、向こうも引き下がってくれた。良識のある連中で助かったよ。
で、だ。
俺は馬車……というか、竜車にのっていた。
地竜っていう、走ることに特化したドラゴンが荷台を引く形だ。
地竜は結構高いらしく、これ1匹で冒険者の稼ぎ10年分だそうだ。
馬よりも持久力・膂力、そして走力に優れるんだと。
んで、そんな地竜をヘンリーは喜んで、ただで譲ってくれた。
先行投資とのこと。
見る目のないおっさんだ。
中身がお尋ね者のFラン勇者だって言うのにな。
「ふっふっふーん♪ ダーリンと二人旅~♡ ふふふふふーん♪」
御者台にはエリスが座っている。
俺は幌つき荷台に寝転がっていた。
自分から率先して御者役を買って出たのだ。
変なやつだな。
「だーりんのおよめさーん♡ 私はダーリンの正式な嫁~♡ んふふふふふ~♡」
街で黙っていた反動か、ずっと自分が俺の嫁を連呼するあほエルフ。
「ダーリンがダーリン~♡」
「その頭痛が痛いみたいな、あほ丸出しの歌は辞めろ」
「OK! ダーリン大好き~♡ 好き好き大好き~♡」
……違う歌を歌えって言ったんじゃないのだが。
あほだからその辺理解できなかったらしい。まあもうしょうがないな。あほだしな。
「で、ダーリン。どこに向かってるんですかー?」
……おまえ御者のくせに知らないのかよ、ともはやツッコまない。
「次の街だ。リナリーゼから、【サラディアス】って街で勇者軍がいるって情報が入ってな」
「ほほう。サラディアス。どこ~?」
「この道まっすぐだ。迷うことはない」
「なるほどね! というか、忙しいね。街に着いたと思ったら、すぐ別の街へ行かないといけないなんて」
「まあ、どっかの有名人さんのせいでな。あんま一箇所に長くとどまっておくと面倒だ」
「まっ。酷いやつだっ。誰だそいつっ。ダーリンに手間かけさせやがってー!」
おまえだ、おまえ……。
孤高の金獅子エルフェリスは俺が想像する以上に、有名人だった。
街に居るだけでエリスは人から話しかけられまくっていた。
俺はもう冒険者登録する際に、このあほの旦那って設定にしてしまった。
街に残ったら、いろいろ詮索するバカどもに絡まれるリスクが高い。
だから、用事が済んだらさっさと次の街へ行く。
「将来的には、ダーリンとのんびりしたいなぁ~」
「それは無理だな」
「どうしてですか?」
「そら……俺には女神をぶっ殺すっていう目的があるからな」
「その後で全然いいですよーう。というか、倒したあとはどうするんですか?」
……どうするか、か。
まるで考えてなかったな。ちょっと、考えておくか。
ややあって。
竜車が街道を進んでいった、そのときだった。
「……はぁ。やれやれ。エリス。2時の方向へ竜車を向かわせろ」
「いいけど、敵?」
「ああ。魔物が馬車を襲ってる」
「んふ~♡」
……またあほエルフが、あほ面をさらしてやがる。
「やー、ダーリンは優しいなぁ。馬車を助けてあげるだなんて~」
……ちっ。
違うし。別に人の命なんてどうでもいいし。
『おまえ様って可愛いやつだな』
黙れくそ妖刀。
ったく……。
ほどなくして、馬車が見えてきた。
御者がいない。荷台を
どうやら御者は
「うざ」
俺は
ズガガガガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「すごいよダーリン!
「あ、そう」
俺は荷台から降りて、襲われていた【そいつ】の元へ向かう。
「ダーリン、荷台に何かあるの?」
「………………ああ」
そこには、
「奴隷だ」
少女奴隷が、倒れていた。
瀕死の重体を負っている。
そして、少女の首には、ごつい首輪がはめてあった。
大賢者ジョン・スミスの知識によると、奴隷の首輪ってやつらしい。主人の命令に逆らうと電流が流れる悪趣味な呪物だ。
「…………はぁ」
ほっとくと寝覚めが悪そうだったので、【無傷】と【無害】を付与してやった。
傷がみるみるうちに癒えていく。
そして、首にはめてあった首輪もぽろっと取れた。
「んふ~♡ さすがダーリン♡ やっさしい!」
「……ちっ。ちげえよ。ほっとくと寝覚めが悪そうだったからな」
「じゃあ奴隷の首輪を解いてあげたのは、なーぜ?」
……ああくそ。
エリスのやつ、笑ってやがる。絶対わかって聞いてやがる。チクショウ。
「おら、そいつ竜車の荷台にのっけろ」
「んふふふ~♡ 乗っけるんだぁ? なーぜー?」
「うるせえ。ほっといたらまた
元の元主がどこにいるかわからねえが、サラディアスの街までは、のっけてってやる。
あとのことは知らん!
「ダーリンはほーんとにお人好しだなぁ~♡ でもそこが、好き♡」
こうして俺は、期せずして奴隷を手に入れてしまったのだった。
一時的だ、一時的。街まで行ったらハイさよならだ。
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