第49話 ギルドマスターを奴隷にしてライセンス獲得



 俺は受付嬢につられて、ギルドマスターとやらの部屋へとやってきた。


「やぁ、エルフェリスくん。久しぶりだね」


 部屋に入ると、20代くらいのめがねかけた美女が立っていた。

 長い髪に、めがね。レンズの奥では、黄金の瞳が輝いてる。


「?」


 エリスのやつ、相手が誰か忘れてやがる……。

 やれやれ。


「失礼ですが、貴方は?」

「失礼。ワタシはこのギルドのギルドマスター、【ソクォーチ・ニッコマン】だ」


 ……だせえ名前だ。

 いや、まあ、異世界と現実の感性は違うんだろうが。


「ダーリン、誰この女?」

「今名乗ったでしょうが……」


 ぎろり、とソクォーチが俺たちをにらみつけてくる。

 美人だが、きつい感じがするな。


 あと、化粧が少し濃かった。

 もしかして20代後半とか、30前半かもしれんな。


「元Sランク冒険者の、ソクォーチ・ニッコマンだ。Sランク冒険者会議で昔挨拶したと思ったのだがね……

「? 知らないよ。だぁれ?」

「……あ、そう」


 明らかにいらついてるソクォーチ・ニッコマン。

 俺たちはソクォーチの前にやってきた。


「話は聞いたよ。魔力8なのに、Aランクにして我がギルドの最大戦力、ザコングを一撃で倒したんだってね」


 ……ザコングパイセン。

 あんた、このギルドの最大戦力だったんかい……。


 あれで。


「ええ、まあ」

「さて……どんなずるい手を使ったのかな?」


 ソクォーチがめがねを外す。


「むー! なんだよ年増! あんた撃ちのダーリンが不正をしたっていいたのっ?」

「と!? ……ちょっと綺麗だからって、調子のるんじゃないわよ」


 ぎろり、とソクォーチがエリスをにらみつける。

 そして、こっちを見てきた。


「ワタシにかかれば、不正なんて一発で見抜けるんだから」


 きらん、とソクォーチの目が黄金に輝く。

 だが。


 パキィイイイイイイイイイイイイイイイン!


「きゃああああああああああああああ!」


 ソクォーチが吹っ飛ばされて、壁に激突する。


「え、なになに? どうしたの、ダーリン」

「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 あー……面倒なことになった。

 俺は倒れているソクォーチの前へとやってきた。


「あんた。俺に対して、鑑定スキルを使ったな?」

「な!? ど、どうして……それを!」


 エリス同様、このソクォーチって女は鑑定スキル持ちのようだ。

 なるほど、腐っても元Sランクか。


「俺の両目はそれぞれ呪物でな。片方の目は、【魔鏡眼】」

「まきょうがん……!? 対象の術を、跳ね返す、強力な魔眼じゃない!」


 俺の魔鏡眼の効果で、鑑定スキルをはじき返したのだ。

 

「信じられない……ワタシのは、S級鑑定眼! 勇者と同様、あらゆる情報を抜き出すことができる、最強の鑑定スキルなのに!」


 なるほど、こいつのスキルは普通の鑑定スキルよりも協力なのか。

 勇者の鑑定スキルにも有効……と。


 これは思いがけず、良いことがわかったな。


「ところで……ソクォーチ。あんた、こっちの同意もなく、個人情報を盗み見ようとするなんて、悪いやつだな」

「あ、いや! ち、違う……!」


「何が違うんだ? 魔鏡眼はあんたのスキルをはじき返した。それが、俺に対してスキルを隠れて使ったことの何よりの証拠じゃないか」

「う、ぐ……」


 はぁ……やれやれ。


「穏便にすまそうとしたんだぜ、俺は。あんたが、悪いんだからな」

「ひっ! か、体が動かない!」


 妖刀の麻痺毒を毒息吹つかって、あたりに充満させておいたのだ。

 無毒持ちの俺には効かない。エリスは……まあ効いてるが、ほっとく。


「あんたに呪いをかけさせてもらうよ」

「だ、誰かぁあああああああ!! 助けて、誰かぁあああああああああああ!」


 だが、誰も入ってこない。


「どうしてぇ!?」

「悪いな。この部屋には【無音】が付与されている。あんたの声は、外の連中には届かないよ」

「ひやぁあああああああああ!」


 俺はソクォーチ・ニッコマンの頭をつかむ。


「あんたの心を操らせてもらう」


 ほんとはあんまり使いたくなかったんだがな。

 痕跡を残すことになるし(使うと明らかに様子がおかしくなるし)


「ふ、ふん! バカな男! あんたみたいなゲス男に、心を操られるわけないでしょ! ワタシは元S級冒険者! ソクォーチ・ニッコマン……あぁあん♡ 素敵ぃいいいいいいん♡ かっこぃい御方ぁああああああああ♡」


【無我夢中】を発動させた瞬間、ソクォーチの目が♡になった。


「お願いします! ワタシを貴方の奴隷にしてくださいませぇえええええええ!」


 無我夢中の効果で、こいつは俺に夢中になった。

 あんま使いたくないが(エリスが嫉妬するし)。まあしょうがない。


「俺を冒険者にしろ」

「はいよろこんでぇ……!」


 ……簡単だ。実に、簡単すぎる。 

 最初からこうしておけば良かった感が半端ない。


 が、最初は正攻法でやろうとしたんだ。

 こいつが勝手に俺の情報を盗み取ろうとしたから、仕方なく無我夢中を使ったんだ。


「ダーリン……また女増やして……」

「あ゛ー……だる」


 ほら見ろ。まーたエリスが嫉妬してる。

 こうなることも、無我夢中を使いたくない理由の一つなんだよな。


「ソクォーチ」

「はいっ!」

「俺の秘密は絶対に漏らすな。漏らした瞬間、おまえを捨てる」

「わかりましたっ! だから、ご主人様ぁ……すてないでぇ~……」


 俺は無視して、部屋を出る。


「おいギルマス!」


 げ、ザコング。

 もうこいつ復活しやがったのか。


「そこの男、どうなった!?」


 ザコングがソクォーチに尋ねる。


「合格れすぅ~」

「なにぃ!? 合格だとぉ!?」


 ザコングが俺に詰め寄ってくる。


「てめえ! きたねえ手ぇ使いやがったな!」


 こいつ鋭いな……。

 まあ、だからといってまた無我夢中つかうつもりはない。


 ギルマスとちがって、こいつは憶測で物を言ってるわけだからな。


「そんなわけないじゃないですか」

「嘘つけ! ソクォーチさんはなぁ、すげえ人なんだぞ! てめえみたいな妖しいやつの隠し事なんて、一発で見抜く眼力を持ってるんだ! どう考えてもおまえは異常だっていうのに、彼女が異常に気づいていない。そんなのあり得ないだろ! 絶対にてめえが何かしたに決まってる」


 バカみたいな名前してるくせに、鋭いじゃないか。


「何か、証拠でもあるのですか? 俺が何かしたっていう、証拠」

「う、ぎ……ね、ねえけどよ!」

「憶測で物を語っちゃいけませんね。いきましょう、エリス」


 俺はザコングを置いて外に出る。


「おれは認めねえ! ぜってえおまえを認めないからなぁ!」


 悪いな、ザコング。

 俺はもうさっさとこの街から出て行くから。もう二度と会うこともないだろう。


 まあ、何はともあれだ。

 ソクォーチを奴隷にして、冒険者としてのギルド証をゲットしたのだった。

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