第48話 実技試験でクソ目立つ


 俺はギルドの裏手の庭へとやってきた。

 凄い嫌な予感しかしない。


 運動するのにちょうどいい大きさだ。

 魔力測定、ときたら次はもちろんというか、お約束というか……。


「次は実技試験となってます」


 受付嬢の説明に、俺は思わず頭を抱えそうになった。

 

「……ちなみに、実技試験ってなにをするんですか?」


 お願いだからカカシとか、そういうのにしてくれ頼む!


「ギルドが選出した高ランクとの、1対1での戦闘となります」


 ああ……マジかぁ……。

 どうして対人戦闘なんだよ。くしゃってなっちゃうじゃないか。


 いや、待て。

 高ランクの冒険者ってことは。


 相手がエリスである可能性は、わずかにある!

 エリスならSランクだし、俺が攻撃して即死するってこともないだろう!


「相手は……」

「おれだぁ……! ザコング様だぁ!」


 ……ああ、もう。

 なんでおまえなんだよっ!


「……失礼、受付嬢のお姉さん。高ランク冒険者が相手では?」


 言外にエリスにしてくれ、と頼む。


「あぁ!? おれを馬鹿にしてるのか!?」

「あ、いや……別に……」


 別に馬鹿にしてるんじゃないんだが……。


「申し訳ありません。確かに、エルフェリス様が一番ランクが高いのですが」

「そうでしょうとも」

「Sランク冒険者は、試験管になれないのです。そういうルールですので」


 ……はぁ。まじか。

 まあ、Sランクは別格に強い連中だって言っていた(この世界基準)。


 そんなやつらと戦ったら、きっと新任冒険者たちは、心折られてしまうだろう。

 だから、Sは新人を相手にしない……と。まあ、理屈はわかる、わかるんだが……。


「相手を妻に変えてはくれないでしょうか?」

「あぁああ!? てめえ、逃げるつもりかぁ!?」

「別に逃げるわけでは……」


 頼むからもう黙って欲しい、ザコング。

 別にザコングを気遣ってるんじゃない。


 こいつのせいで、俺が目立ってしまうのが嫌なのだ。


「エリスのほうがいいというだけで」

「ダーリン……! きゅん♡」


 あほエルフはあほエルフで、今日もあほっぷりを披露していた。

 おまえが、ちょっと言ってくれないかなぁ?


 Sランクって冒険者の最高峰なんだろ?

 ならちょっとのわがままくらい、聞いてくれるんじゃないのか?


 目配せしてると、エリスがうなずいてくれた。

 そうか、わかってくれたか。


「ダーリンふぁいとっ。そんな雑魚、やっつけちゃえー!」


 ……まるでわかってくれてない件。

 しかも雑魚とか言ってるし。


「この不敗のザコング様を、言うにことかいて雑魚だと!? なめやがってぇ!」


 ……ああ、火に油。

 てゆーか、ザコングさんよ。着々とフラグを立てていかないでおくれよ。


 なんだよ、不敗のザコングって。

 前振りにしか聞こえねえよ……。


 ああもぉ、めんどくさい。

 適当に攻撃を受けて、適当に勝とう。


「では……実技試験を開始します。両者、前へ!」


 俺とザコングが前に出る。

 ぽきぽき……とザコングが指を鳴らす。


「やめておくなら今のうちだぜえ……?」


 その台詞、そっくりそのままあんたにお返ししたいくらいだ。


「万が一にもおまえがおれに勝てたら、そうだな。鼻でスパゲッティ食ってやるよ」


 やめてくれ、フラグを。フラグを積み立てないでくれ。


「さっさとこんな試験、終わらせてやるぜ。おれはこのあと、好きな子にプロポーズする予定が入ってるんだ」


 もういい、帰れ。帰ってくれ頼むから。


「では……試合、開始……!」

「うぉおおおおおおおおお!」


 ザコングの両手には斧が握られていた。


「くらえ! 【戦刃乱舞】!」


 ザコングが両手に持った斧をめちゃくちゃに振るってくる。


「で、でたぁ! ザコングさんの必殺技!」

「やべえ! ザコングさん新人殺しちまうよぉ!」

「だいじょうぶ、ギルドの庭には、どれだけダメージを与えても、相手を殺さない結界が張ってあるんだ」


 あ、そうなの?

 なんだ、心配して損した。


「うぉおおおおお! 死ねぇえええええええええ!」


 刃が俺に触れそうになる。

 俺は右腕で、かるく、押す。


 ただ軽くどついた、それだけだったのだが。

 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


「は?」


 ザコングが体を【く】の時にして、吹っ飛んでいった。


「ほげぇあああああああああああああああああああああああ!」


 ザコングはくるくるとギャグみたいに体を回転させながら、庭の結界にぶち当たる。

 バキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


「「「結界が壊れたぁ!?」」」


 庭の結界をぶちやぶって、ザコングがどざり、と敷地外で倒れる。

 まじかこいつ……こんな弱いのかよ……。


 俺が、手ぇ抜いて、そして【手を打っておかなかったら】しとかなかったら、死んでたぞ……?


「ザコングぅうううううううううう!」

「生きてるかぁあああああああああ!?」

「治癒術士を呼んでくれぇええええ!!」


 生きてるに決まってんだろ……。


「あが……あば……あばば……」

「「「ザコング! 生きてた! よかったぁ!」」」


 冒険者たちがザコングの無事を喜んでいた。

 まあよかったよ。死んでなくて。こんなのに【事実無根】使いたくないしな。


「お姉さん、合否は?」

「え、あ、は、はい……その……ぎ、ギルドマスターを呼んできますぅうう!」


 立ち去っていく受付嬢。

 俺は……大きくため息をつく。


 めちゃくちゃ、そう、めちゃくちゃ手を抜いたのだ。

 その上で、あれなのだ。


『おまえ様は優しいな。あんなやつに【無傷】を付与してやるなんて』


 ザコングをどついた瞬間、俺はあいつに無傷を付与したのだ。

 念のためにな。


『スキル付与してなかったら、今頃ポンッ、だったな』


 ああやっぱりか……。ふぅ……。

 相手を殺さない方が、まさか難易度高いなんてな……。


「すげぞ、あの新人」

「魔力8のくせに、あんなに強いだなんて!」

金獅子きんじしの旦那だけあるってことか……!」


 ああ……目立ちすぎた……ああ……めんどくさい……。

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