第45話 迷宮のレアアイテム売って驚かれる



 ヘンリーの屋敷で暗躍していた、魔族を撃退した。


「旦那様♡ どうぞ、お茶です♡」

「お、おう……」


 応接間にて。

 ソファに座る俺の隣に、ヘンリーの娘が座って、かいがいしく世話を焼いてくる。


 魔族を倒したのは孤高の金獅子(※エリス)なのだが。

 どうにも、この子は呪いを解いてくれた俺のことを、気にかけているらしい。


『くく……さながら、眠りの呪いから解いてくれた、王子様と思っているのだろうな』


 ……はあ、やれやれ面倒だ。

 なぜなら、逆側に座っているあほエルフが嫉妬を丸出しにしているからだ。


 ずっと頬を膨らませてこっちをにらみつけている。

 俺をにらむな。あと、金獅子きんじしの演技を解くな。


「いやぁ、お待たせしました」


 ドタバタ、とヘンリーが応接間へと戻ってくる。

 ヘンリーは魔族のことを騎士団に報告し、その死体を明け渡してきたらしい。


「パパ、おかりなさい♡」

「おお、【マルコット】。もうすっかり【サイ】様と仲良くなっておられるなぁ」


 サイ、とは俺の偽名だ。

 とりあえず、この赤髪変装時には、松代まつしろ才賀さいがではなく、サイと名乗っておく。


 勇者軍(クラスメイト)には俺の名前を知ってるやつも多いからな。

 そのための対策だ。


「はい! パパ、サイ様のもとにお嫁に行っても良いですか?」

「おお! それはもちろん! サイ様、どうか二番目の妻として、我が娘をもらってはくれないでしょうかっ!」


 ……ぎゅううううううううう!

 エリスが俺のモモをつねってきた。わかってるって。


「検討しておきます」


 ぎゅうううううううううううううううううう!


『はは、愛されてるなぁ、おまえ様よ』


 あとでエリスには説明してやらんとな。おまえが一番だって。

 これは目的遂行のために必要な処置なんだって。


『なるほど。キープ状態にしておくことで、商人親子を上手く利用しようというのか。なかなかの悪党だな』


  違えよ。

 単に、断ると角が立つし、このあとやってもらうことを、頼みにくくなるからな。


『ふむ? 何を頼むのだ?』


 さて。


「ところで、ヘンリーさん。あなたに頼みたいことがあります」

「ほぅ! なんでしょう。何でも言ってくださいっ!」


 ニコニコしながらヘンリーが言う。


『もうすっかりおまえ様たちのことを、信用してるようだな。命を3度も助けたのだから当然と言えば当然か』


「実は、妻が迷宮で手に入れたアイテムを売りたいと言っているのです」

「なるほど! もちろん買い取りさせていただきます!」


 ……さて。

 このアホエルフには鑑定スキルがある。ランクなどがわかる。

 が、鑑定スキルは優秀なのだが、問題はこのアホがものの価値(具体的にはいくらくらいで売れるのか)まで把握していないのだ。


 冒険者ギルドでアイテムの買い取りも行ってくれる。

 しかし、市場価値を知らない状態でアイテムを売り、それがものすごい高値で売れるとなれば、騒ぎになるのは必定だ。


 その前に、ある程度の市場価値(どれを売れば、どれくらいのもうけになるのか)を把握しておきたい。

 このヘンリーは俺たちへの恩義がある。


 だから、この取引で得た情報をよそに漏らすことはないだろう。

 

「では、アイテムを拝見させてください」


 俺はエリスをチラ見する。

 こくん、と彼女がうなずいた。なんだかんだ切り替えが早いおまえのことは嫌いじゃないぞ、エリスよ。

 

 エリスは右手を前に出す。

 エリスの着てる服は、黒衣ブラックウーズ・コートと同じモノだ。

 

 ブラックウーズは体内にアイテムを収納する力を持つ。

 彼女の服から、ごとり、とテーブルの上に1本の立派な剣が取り出される。


「おお! 金獅子きんじし様は、アイテムボックスをお持ちなのですね! これはすごい!」


 持っていないが。

 だが端から見ると、何もない空間からモノを取り出した(アイテムボックスを使った)と見えるだろう。


「いやぁ、すごい。アイテムボックススキル持ちは、1万人に1人といわれております。それをお持ちになられてるとは……さすが、孤高の金獅子様」


 エリスがちょっと不満そうに唇をとがらせていた。

 自分ではなく、黒衣ブラックウーズ・コートの本来の持ち主である、俺のことを褒めて欲しいんだろう。一貫してるやつだな。


「それで、その剣を売るとなると、どれくらいになりますか?」


 美しい装飾の長剣だ。

 憤怒のダンジョンで、迷宮主ボスモンスターを倒して手に入れたアイテムの一つ。


 ヘンリーは手袋を付けて、目に片目がねをはめ、むぅ……とうなる。

 そして、目をむく。


「す、すごいです……」

「その剣がですか」

「は、はい……ですが、それ以上に凄いのは……サイ様と、金獅子様です」


 どういうことだろうか……?


「ま、まさか……七獄セブンス・フォールをクリアなさったのですね……!」


 七獄セブンス・フォール

 俺たちがいた、最高難易度ダンジョンの一つだ。


 てゆーか……。


「それを、どうしてご存じなのですか?」

「この片目がね……【真実の目】と呼ばれる鑑定道具なのです」


 鑑定道具……?


『鑑定スキルの付与された魔道具マジックアイテムだろう』


 なるほど。


「真実の目で見たところ、これは憤怒の迷宮から出土される剣、【憤怒の炎剣】であることが判明しました!」


 ……おい。

 エリス。おい。


 鑑定スキルで、どこで出土されるものかわかるんじゃねえか……!

 何きょとん顔してるんだよ! 重要な情報じゃないかよ!


 ……はぁ、あぶなかった。 

 いきなりこれ、冒険者ギルドでアイテムを売ったら、俺たちが七獄セブンス・フォールをクリアしたってことが大勢にバレるところだった。


「ま、ま、まさか……神話の時代より、誰一人としてクリアしたことなかった迷宮を……たった二人で攻略なさったなんて!」

「すごい! さすがサイ様ですね!」


 商人親子が驚き、そして、尊敬のまなざしを向けてくる。

 マルコットよ、別に俺が凄いわけじゃないが。

 おいエリスおまえも何得意げに胸を張ってるんだよ。ったく……。


 というか、神話の時代?


『察するに、ジョン・スミスが生きていた頃の、大昔の話をしてるのだろう』


 なるほど……。

 さすがにその時代を生きていたジョンじゃ、知らないことだな。


「いやぁ、これはすごい! 国を挙げての祝いの席がもうけられますぞ!」


 ……やはり大事になる話だったか。


「そのことなのですが、七獄セブンス・フォールクリアについては、内密でお願いできないでしょうか」

「なんと!? どうしてですか……! これは偉業ですよ!」


 俺は少し黙る。

 相手に、考える余地を与えるのだ。


 人間は、目の前に空白があれば、勝手にあれこれ想像してしまうものだ。


「なるほど……理解しました。つまり、他の七獄セブンス・フォールにも挑む、と?」


 七獄セブンス・フォールは文字通り、世界に7つ存在する。

 他のダンジョンにも俺たちがアタックする、とおっさんは考えたようだ。

 ……なぜそういう経緯に至ったのかさっぱり不明だが。


「すべての七獄セブンス・フォールをクリアしたのちに、公表する。いちいち騒がれてはダンジョン攻略が遅れてしまうから……と。くぅう! なんという崇高なお考え! 人から賞賛されることよりも、世界平和の最優先するとは!」


 なんか、この商人からの好感度、どんどん上がっていくんだが。


「わかりました! 七獄セブンス・フォールクリアの件は黙っておきます」

「助かります。他にも、迷宮で手に入れた品があるので、換金したいのですが」


 他のとこじゃ換金できないからな(騒ぎになるし)。


「もちろんです!」


 とまあ、こうして迷宮のお宝を売り払うことに成功したのだった。

 ついでにヘンリー親子からの信頼が爆上がりしたのは言うまでも無い。


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新作はじめました!

https://kakuyomu.jp/works/16818093078466388662


『おっさん剣聖、獣の国でスローライフを送る~弟子に婚約者と道場を奪われ追放された俺、獣人国王女に拾われ剣術の先生となる。実は俺が世界最強の剣士だったと判明するが、泣いて謝っても今更戻る気はない 』


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