第46話 冒険者ギルドに登録する



 ヘンリーのもとで財宝の換金を行ったあと、俺たちは冒険者ギルドへ向かっていた。


「ダーリン何するんですか?」

「ギルドに登録するんだよ」

「冒険者になるんです? どうして? お金はたくさんありますよね?」


「違うよ。身分証を獲得するためだ」

「ほほぅ。どういうことですかな?」


 ……おまえはSランク冒険者、孤高の金獅子様じゃなかったのか……?

 冒険者のことはよく知ってるんじゃ?

 

 いや、シランか……。

 こいつは強い男を見つめるためだけに冒険者になったようなアホだもんな……。


「冒険者ギルドで登録すると、ギルド証ってやつがもらえる。これは、全国どこでも使える、身分証なんだ。しかも、偽名OKときている」


 俺は召喚勇者ではないため、この世界での身分を何も持っていない。

 身分証を獲得するためには、国に永住する必要があるが、そのためには審査が必要となる。


 審査の結果、俺が勇者軍から捨てられた人間だとバレるのはまずい(女神と敵対してるから)。

 永住は不可能、となると、もう冒険者となるしかないのだ。


 冒険者になればギルドが身分を保障してくれるしな。

 身分証がないと入れない街もあるというし、なおのこと、ギルドに所属しておいた方が良い。


「でもでもダーリン。冒険者になると目立つんじゃない? だってダーリンは……ふへ♡ ふへへ♡ 私のダーリンだし~♡」


 冒険者となる上で一番の障害となるのは、孤高の金獅子エルフェリスというネームバリューだ。

 こいつ中身は相当残念な女だが実力、そして人気は確かなものがある。


 冒険者ギルド入ると、エリスの周りをうろちょろしている男(おれ)に、ギルドの連中は気づくだろう。

 そうなると騒ぎになるのだ。おまえはあの人のなんなんだってな。


 最初は、エリスに着いてくるなって言おうと思った。

 別々にギルドに行けばまあ怪しまれないだろうからな。


 が、ギルド外で、冒険者に目撃される可能性は十分にあり得る。

 このエリスって女はかなり見た目がよいから、凄く目立つのだ。


 エリスとの関係性は早晩、バレてしまうだろう。

 ならもう最初から、エリスが選んだ旦那ってことにしておこう、という考えだ。


「む……むずかしい……」

「……はぁ」


 なんとも残念なおつむの女だった。

 まあそういうところも愛嬌があって可愛いのだが。


『本人にそう言ってやれば良いのにな。喜ぶぞ?』


 うるせえ妖刀。

 ほどなくして、俺たちは街にある冒険者ギルドへとやってきた。


「んふふ~♡ ダーリンとパーティを組む~♡ 幸せ~♡」


 まだ組んでないのだが。

 気の早い女だ。


 ヘンリー曰く、ギルド加入時には試験があるという。

 果たして突破………………できるな。うん。エリスができてるんだから。


「じゃ、ダーリン! GOだよGO! ……あいたっ」


 俺はエリスの頬をつねる。


「ふぁふぃ?」

「おまえ外で口開くな。バカがバレる」

「OK! お口チャックね! じー」


 ……孤高の金獅子の名前と評判は、今後、勇者軍の情報収集していくうえで非常に重要なものとなる。

 エリスが中身残念な美女ってことは黙っておいた方が都合が良い。口を開くとバカってバレちまうからな。そうなると、評判を落とすことになる。


「いくぞ」


 俺たちはギルドの扉を開く。

 木造の二階建てだ。手前が酒場、奥が受け付けカウンター、というネット小説だと本当によく見る建物の構造になっていた。


 ギルド内には、そこそこの人がいた。

 人が居ない午後を狙ってきたのだが、やはり……。


「き、金獅子きんじしだ!」「ほんものだ!」「すげえ! 美人!」「顔ちっさ! 胸でけえ!」


 ……とまあ、全冒険者たちからの注目をエリスは浴びていた。

 エリスは俺の指示通り黙ったまま、すました顔で、受付カウンターへと向かう。


「後ろの赤い髪の男誰だ?」「見たことねえな」「まさかエルフェリスのパートナーとか?」「いやいや、あり得ないだろ。あんな小汚いガキと、金獅子きんじし様がパートナーだなんて」


 エリスがむっ、と露骨に顔をしかめた。

 多分俺の悪口を言われたからだろう。本当に俺のことが好きなんだなこいつ。


 まあ怒るな怒るな。

 あんなやつらに切れたところで、意味はない。


 俺を馬鹿にする連中をスルーして、俺は受付嬢の元へ向かう。

 暇そうにしていた受付嬢に話しかける。


「すみません、ギルド登録したんですが」

「はーい……い、いぃいいいいいいいいいいいいい!?」


 受付嬢はエリスを見て目をむき叫ぶ。


「エルフェリス様!? ど、どうしてここに……?」

「…………」


 エリスは口を開かない。

 お、いいぞ。


 すると受付嬢は勝手に「な、なるほど……余計な詮索をするなってことですね」と勝手に勘違いしてくれる。

 まあそれで流しても良いんだが。


「相棒がどうかしましたか?」

「あ、相棒……って、ええ!? も、もしかして……エルフェリスのパートーですか?」

「はい。公私ともに仲良くさせていただいております」

「うぇえええええええええええええ!? まじでーーーー!?」


 接客態度の悪い受付嬢だな。

 おまけに今の騒ぎを聞いて、周りがこちらに、さらに注目しだした。


「おいあの男、エルフェリス様のパートナーらしいぜ?」

「あんなひょろい、弱っちそうなのが?」


 まあ、俺の身につけてるものが呪物であること、ステータスがすべて測定不能になってることを知らない連中からすれば、マジで誰だあいつ状態だもんな。


「さ、ダーリン登録を……」


 と、そのときだった。

 

「そこの男。エルフェリス様から離れなぁ」


 巨漢が俺とエリスの間に割って入ってきたんだ。


「あなたは誰ですか?」

「見てわかるだろ、センパイだよ、おまえの」


 柄の悪い巨漢の先輩冒険者は、俺を見下ろしながら、鼻を鳴らす。


「おまえみたいなやつ、エルフェリス様に似合わねえよ。なぁ、エルフェリス様。おれとパートナーにならねえかぁ?」


 センパイ冒険者はどうやらエリスに気があるようだ。

 だが。


「…………」


 エリスはこの状況でも黙っている。良い子だ。

 するとセンパイ冒険者は、無視されたと思ったのか、顔を真っ赤にしてエリスに名栗かかってきた。


「調子乗ってんじゃねえぞごらぁ……!」


 センパイ冒険者が殴りかかる。

 パシッ!


「な!?」

「やめてもらえますか? 彼女は、俺の大事なパートナーなので」


 男の拳を俺は片手で受けとめる。

 ……身体強化魔法が普通にある世界だし、これくらいじゃ、目立たんよな。


 それにこの、見るからに雑魚そうな三下の攻撃を受けとめたくらいじゃ……。


「う、動かねえ! なんて怪力だ! くそ! 離せ!」

 

 ぱっ、と俺は手を離してやる。

 だが、今度は俺に向かって殴りかかってきた。

 やれやれ。


 しかし遅いな、こいつの動き。

 のろすぎてあくびが出る。


 俺はセンパイ冒険者の攻撃をかわし、そして頸動脈をトン……と指で突く。

 そして、麻酔毒を注入。

 

 男はその場に倒れてしまった。


「す、すげえ……」「ザコングを一撃で倒しちまった……!」「なにものだ、あいつ……?」


 ザコングか。

 名は体を表すな。


 しかし弱かったな。

 どうせランクはDとかEとかだろう。


「…………」

 

 エリスはうずうずしていた。

 またすごいすごいと褒めたいのだろう。でも、我慢してる。本当に良い子だ。あほだが。


「お騒がせして申し訳ないです」


 俺は受付嬢に頭を下げる。


「あ、いえ……その……お強いですね」

「は?」


「ザコングさんはAランク冒険者ですよ?」

「………………は?」


 こんなのが、Aラン?

 エリスと1コ違うだけで、こんなに弱いものなのか……?


『おまえ様よ。だいぶ目立ってしまったな』


 ……ああ。失敗した。まさかこの雑魚が、Aとはな……。

 もしかしてこの世界って、俺が思うより、はるかにレベル低いのか? エリスがちょっと頭抜けて異常に強いだけで……?

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