第44話 魔族もワンパン



 商人ヘンリーの娘の呪いを解いてやった。


「本当にありがとうございましました!」

「ありがとうっ!」


 商人親子が俺に頭を下げてくる。

 勘違しないでほしいな。俺は別に善意からおまえの娘を助けたわけじゃ無い。


『くく……本当に素直では無いな。ところで、おまえ様よ。気をつけるといい。魔族が隠れ潜んで居るぞ、この屋敷に』


 ……妖刀。どういうことだ?


『この屋敷から魔族の魂を感じる』


 ……おまえ、そんなこともできるのか?


『ああ。魂には生き物ごとに固有の色、形をしてる。おまえ様も訓練をすればすぐにわかるようになるだろう。ともあれ、この屋敷内に魔族が居る』


 ……なるほど、この娘に呪いをかけた、夢魔ってやつか。


『どうする?』


 どうするか、だって?

 そんなの決まってる。


「ヘンリーさん。まだ事件は終わってないです」

「事件……?」


「あなたの娘さんに呪いをかけた存在がいます。それも、すぐ近くに」

「なんですと!?」


 妖刀に教えてもらい、俺は敵の魂の位置を把握する。

 ご丁寧に、この部屋の外にいやがる。


 俺は声を張る。


「それも、この屋敷の中に犯人がいるようです。すぐに……」


 どさっ、とヘンリーを含めた、この場にいる【全員】が崩れ落ちる。


「ふぅ……危なかったわぁ」


 がちゃり、と扉が開き、メイドの女が入ってきた。


「まさか、わたしの呪いを解くものが現れるなんて」


 その場で倒れている全員を見下ろしながら、メイド女がため息をつく。


「内部からじわじわと家を乗っ取るつもりだったのに。ほんと、この呪術師のせいで……」


 メイド女は倒れている俺を探しているだろう。

 だが。


「!? 居ない!? どこに……」


 ズドンッ!


「がっ!」


 どさり、とメイド女……いや、夢魔がその場に崩れ落ちる。


「こ、これ、は……ま、麻痺毒!?」

「ご名答」


 俺は【ステルス】を解いて、夢魔の前に現れる。


「呪術師!? なぜ起きている!? わたしの呪いで、この場の全員は眠らせたはず!?」

「悪いな。俺、呪いが効かないんだよ」


【無毒】を常時発動してるからな。

 呪いや毒は、俺には通じないのである。


「そんな……魔族の強力な呪いを無効化するなんて……! なんて、高位の呪術師!」

「まあ正確には呪術師じゃ無いんだが……まあいいや」


「くそ! いつからわたしの存在に気づいていた!?」

「ついさっきだよ」


 こいつが攻撃してくるだろうことは予想できた。

 俺はまず【無視】を使ってステルス状態になっておく。


 夢魔が呪いを発動。

 呪いの影響で皆が眠りにつく。

 あほ面下げて現れた夢魔に、妖刀の毒をしみこませた麻酔を打ち込んだ、という次第。


「信じられない……勇者でも無い人間に、一杯食わされるなんて!」


 俺は銃口を夢魔の額に押しつける。


「ま、待て! それ、武器だろ!? 待ってくれ、なぁ! 殺さないでよぉ!」


 泣きながら夢魔が懇願してくる。

 だが俺は魔族の額に向かって銃弾をぶっ放した。


 ズガンッ……!


「悪いな。俺は、俺の邪魔をするやつには容赦する気ないんだよ」


 脳天を銃で撃ち抜いた、が。

 こいつの肉体にはまだ魂が残っていた。


『気をつけろよ。魔族はどの種族よりも生命力が高い。脳天を銃弾で撃ち抜いたくらいでは死なぬ』


 大賢者の知識を読み取ったらしい、妖刀が俺に助言をする。

 ぼこ! ぼこぼこ!


 夢魔の体が膨れ上がってくる。

 俺は銃弾を詰める。


『ふははははははは! 甘い、甘いぞぉガキぃ!』


 小柄なメイド女の肉体が膨張していく。

 どんどんと体が大きくなり、そこには、紫色の肌をした、筋骨隆々の男が立っていた。


 腰からは蝙蝠のような翼が生えている。

 夢魔って男だったのかよ。まあいいけど。


『冥土の土産に教えておいてやる! 魔族様は……』

「あー、はいはい。これくらいじゃ死なないんだろ?」


 銃弾を装填しおえる。

 夢魔は俺に向かって拳を振るってきた。


『死ねぇええええええええええええええええい!』


 ぐしゃぁ!


『うげあぁああああああああ! 腕がぁ! 腕がぁああああああああああああ!』


 俺を殴ったらしい夢魔の腕が、ぐしゃぐしゃになっていた。


「悪いな。俺はこの世界のステータスから、外れた存在。おまえ程度の腕力のステータスじゃ、俺を殺せない」


 俺を殺せる可能性があるのは、勇者の持つ聖武具だけだ。

 魔族だろう、俺に腕力ステータス勝負を挑んだ時点で、相手の負けなのである。


『ま、待て! 待ってくれ! 話せばわかる!』

「うるせえ。死ね」


 俺はレールガンを魔族の頭向けてぶっ放す。

 ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 魔族は頭を失って、その場に崩れ落ちた。

 やべ、屋敷の壁もぶっ壊してしまった。


 まあいい。

 全部エリスがやったことしよう。


「おい、エリス」

「ぐ~……すぴい~……♡ やん、ダーリンのえっちぃ~♡」


 ムカついたので俺はエリスの鼻をつまむ。

 ふがっ、とエリスが目を覚ます。


「ダーリン?」

「おはよう」

「ん~♡」


 アホが目を閉じて唇をとがらせる。

 目覚めのキスを要求してきやがった。

 ぺんっ、と頭をたたく。


「おはようダーリン。どうしたの?」


 俺は軽く状況を説明した。


「すご! 魔族やっつけちゃったんだ! すごすぎるよ! ダーリンはすごいなぁ!」

「で、手柄はおまえに譲る」

「むぅ……………………わかった」


 俺に手柄を譲るの本当に嫌そうだった。

 でもまあ、さすがに二度目なので、すぐに了承してきた。よし。


 俺はヘンリーたちを起こす。


「こ、これは!? 一体……?」


 クビ無し死体を見て驚くヘンリーに、俺は説明する。


「魔族です。眠りの呪いを使ってきたので、俺が妻を起こし、妻が始末しました」

「なんとぉおお!」


 ヘンリーは俺たちを見て、頭を下げる。


「本当に、ありがとうございます! あなた様たちは、三度も命を救ってくださった! このご恩は、一生忘れません!」


 三度……?

 ああ、馬車と、娘と、そして今か。


「気にしないでください。当然のことをしたまでです。ねえ、ハニー」


 金獅子きんじしモードのエリスが、こくんとうなずく。

 涙を流しながら俺たちに、何度も頭を下げるヘンリー。


『くく、良いことをして気分が良いなぁ、え、おまえ様よ』


 ちげえよ。

 俺はただ、商人とのパイプが欲しくてやっただけだ。勘違いするなよな。


『はいはい(笑)』

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