第43話 商人の娘の呪いを解く



 商人ヘンリーにのせてもらい、俺たちは近隣の街へとやってきた。

 道中、いろいろ尋ねて、ここが【マデューカス帝国】という場所であることが判明した。


 マデューカス帝国は最近(といっても100年前)できたばかりの新しい国だそうだ。

 帝国は実力主義をうたっているらしい。


 実力のある人間ならば、たとえ犯罪者であろうと、この国は受け入れるのだと。

 ヘンリーはマデューカス帝国の中心地、【帝都カーター】を拠点に活動してるらしい。


 ちなみに、憤怒の迷宮があったのは、獣人国ネログーマという獣人たちの国だったらしい。

 マデューカスからは馬車で1週間くらいする距離離れてるそうだ。

 味噌川みそがわがどこに飛ばされたのかは知らんが(あとでリナリーゼに確認しよう)、すぐにやつらとバッティングすることはなさそうだ。


 で、だ。

 俺たちはヘンリーの屋敷へとやってきたのだが。


「ふぁ~~~~~~~~♡ おっきぃ~! あいたっ」


 エリスがヘンリーの屋敷を見てあほ面をさらしていた。俺は耳を引っ張って注意する。


「黙ってろ。【孤高の金獅子きんじし】のイメージを崩すな」

「ほえ? ここーの、きんじし?」

「おまえのことだ」


 ヘンリーとの会話でわかったことがある。

 エリスは、俺が想像する以上に有名であるとのこと。


 マデューカス帝国はもちろん、人々の住むこの大きな大陸(六大陸というらしい)全土に、その名前がとどろいてるのだそうだ。

 

 寡黙な超実力派の、美貌の魔法剣士。

 それがエルフェリス・アネモスギーヴなのだそうだ。


 孤高の金獅子の名前は、今後活動していく上で非常に役に立つ。主に情報収集とか、相手を信用させるときにな。

 だが、普段のあほっぷりを知られてしまうと、信用度が落ちてしまう。


 だからこのあほには、極力人前で素を出さないでほしいのだ。


「OKダーリン。外部との交渉は任せて、私はお口チャックしてればいいんだね!」

「まあそういうことだ。できるな?」

「できらぁ!」


 ……不安だ。

 まあ、いざというときの手段は持っているので、それで何とかしよう。


 ややあって。

 俺たちは屋敷の中に通されていた。

 

 応接間で待っていると、ヘンリーが執事を伴ってやってくる。


金獅子きんじし様、このたびはどうもありがとうございました。これはお礼となっております」


 執事が俺に革袋を渡してくる。

 結構ずっしりと重かった。中を改めるのは、またあとでしよう。マナー違反というか、金獅子きんじしのイメージを損ないたくない(金にがめついみたいなイメージを持たれたくない)。


「それで、その。金獅子きんじし様に一つ、お願いしたいことがございます」

「ほ……ぎゃっ!」


 俺が尻をつまむ。

 俺があいてするっつっただろうが。ったく。


「なんでしょう?」


 ヘンリーの顔を見る限り、依頼の内容は結構重いモノだろうと創造できる。

 面倒ごとには巻き込まれたくない、が。


 この屋敷を見る限り、ヘンリーはかなりの金持ち、権力者だろう。

 こいつの信用を勝ち取っておいた方が、いろいろと継ごうが良さそうだ。


「妻にできることでしたら、協力させてください」

「おお! ありがとうございます。では……」


 俺たちは応接室を出て、二階の奥の部屋へとやってきた。

 こぎれいな部屋の中には、大きなベッドがあって、そこには一人の女が眠っていた。


 年齢は10代前半くらいだろうか。

 まあ、美少女だったね。エリスには劣るが。


「この娘は?」

「わたくしの娘です」

「娘……」

「はい。そして、娘は原因不明の病に冒されているのです」


 ヘンリー曰く、数ヶ月前、海外に家族旅行へ行った際に、娘は突然倒れてしまう。

 以後、ずっと目を覚まさないのだそうだ。


「可哀想……」


 エリスがつぶやく。

 止めようと思ったのだが、辞めた。金獅子きんじしのイメージを崩すような振る舞いじゃ無かったしな。


 それに……俺も同じ思いだったし。


「医者には診せたのか?」

「はい。ですが、宮廷医ですら匙を投げてしまうほどで……」


 なるほどお手上げだったわけだ。


「孤高の金獅子様は凄腕の魔法使いだと伺いました。この病を、どうか魔法で治してはいただけないでしょうか?」


 エリスが俺を見てくる。

 俺はうなずいて見せた。


「任せてください! 必ず治して見せます!」

「おお! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ヘンリーが何度も頭を下げている。

 その瞳からは涙がこぼれ落ちていた。ほんとうに手詰まりだったのだろう。


 ……治してやりてえな。

 あ、いや。大商人の信用を勝ち取って、今後の活動を遣りやすくするためにな。


『くく、おまえ様よ。別に良いわけなんてしなくていいだろうが』


 黙れ妖刀。

 さて。


「妻が治療に集中したいそうなので、出て行ってもらえますか?」


 ヘンリーはうなずいて、部屋を出て行く。

 あとには俺とエリスだけが残った。


「【鑑定】!」


 エリスは早速鑑定スキルを発動させる。

 ヘンリーの娘の病を調べるためだ。


「ダーリン。この子……病気じゃ無いみたいです」

「なに? 違うのか。じゃあなんだよ」


「呪いみたいです。【夢魔の呪い】だって」

夢魔むま……」


 大賢者の知識によると、魔族の一種らしい。

 魔族。すさまじい魔法の力、長命な寿命を持つ種族。


 エルフとの最大の違いは生殖活動をしないことにあるらしい。

 が、まあどうでもいい。


「つまりこの娘は魔族に呪いを受けて、こうなってると」

「そうなりますね。でも……どうしよう、ダーリン。治癒魔法じゃ直せないよ? 呪いだし……って、あ」


 エリスは気づいたようだ。

 俺は娘の頬に触れる。


「相手が悪かったな」


 【無】を進化させ、呪いを無効化させる。

 呪いへの耐性を得る【無毒】ではなく、呪いをキャンセルする【無害】を発動。


 結果。

 ぱきいぃん!


 何かが壊れる音がする。


「う、うう……あれ? あたしは……一体……?」

「目が覚めたか」

「は、はい……」


 娘は顔を真っ赤にして俺を見ていた。

 ……なぜ顔を赤くする。


「王子様……」

「は?」


 エリスが頬を膨らませながら、俺の耳を引っ張る。


「んだよ」

「ダーリンは、私の王子様だもん!」


 ぎゅっ、とエリスが俺の腕をつかむ。

 あほの無駄にでかい胸が俺に当たる。


「やめろアホ!」

「アホじゃ無いもん! 妻だもん!」


 そんな風に騒いでると、ドアを開けて、ヘンリーが入ってきた。


「ぱぱ!」

「!? おぉおおおお! む、娘よぉおおおおおおおおおおおおおお!」


 ヘンリーが大泣きしながら、娘のそばに行き、抱きしめる。


「目を覚ましたのだな!」

「うんっ。王子様がたすけてくれたのっ!」


 あ、くそっ!

 あほのせいで、口止めできなかったじゃないか! くそが!


「なんと、金獅子きんじし様の旦那様が? そんなことができるだなんて……まさか高名な呪術師かなにかなのですか!?」


 ああ面倒なことに……。



金獅子きんじし様、呪術師様、どうもありがとうございました!」


 ……まあ、助かったからそれでいいか。

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