第42話 実力を隠しながら敵を倒す



 俺とエリスは森の中で商人を助けた。

 商人はヘンリー・クゥと名乗った。近くの街で店を構え、そこで商売をしてるのだとか。


「いやしかし、大鬼をたおすなんて。さすが金獅子さまです!」


 御者台に座りながらヘンリーが言う。


「あの大群を一人で倒してしまうなんてすごいです!」

「む? いや、あれはだーりぎゃ!」


「りぎゃ?」


 俺はエリスの耳を引っ張る。

 

「妻は少し馬車に酔ってしまったようです」

「それは大変です! 横になってください。街に着いたら起こしますので」


 俺たちは御者台から離れた位置まで移動。


「うー、ダーリン……」


 耳を引っ張ったことは申し訳なかったが、しかし、余計なことをいいかけたからなこいつ。


「強く引っ叩くの、結構気持ちよかったかも……♡」

「ふぅ……」


 ど変態が。

 リナリーゼといい、こいつといい、エルフって変態しかいないのだろうか。


 まあいい。


「エリス。おまえ余計なこと言うなよ」


【無音】発動させ、御者に会話が聞こえないようにしてから、エリスと話す。


「余計なことって?」

「大鬼を倒したのが俺であることだよ」

「むぅ」

「なんだよ?」

「ダーリンの手柄なのにあれ」


 どうやらこのアホは、俺の手柄を横取りしたくない、って思ってるらしい。

 アホだがほんと悪い奴じゃないんだよな。


「いいんだよ、俺は目立ちたくないんだから」

「むぅ」


「今後も俺はなるたけ、目立たないよう振る舞う。手っ取り早いのは、手柄をお前のもんにすることなんだよ」


 エリスはこの世界でかなり知名度があるみたいだ。

 よくわからんやつがすごいことをするとあやましまれる。


 だが、すごいやつがすごいことしても、「さすが」としかならず、怪しまれない。


「むぅ」

「むぅじゃねえ。はいだろ」

「むぅ」

「頑固だなおまえ」

「だって、ダーリンがすごいのに。ダーリンがすごいって、みんなに知ってほしいのに」


 どうにもエリスは、俺のことを他の連中にもすごいって思わせたい欲求があるようだ。


「なんでだよ?」

「ダーリンが褒められると、私は嬉しいのです」

「あ、そう」


 まあ、愛してるやつが褒められたらうれしいみたいな、そういう理屈なんだろうな。

 別に俺を不利にしたいわけじゃないのは、わかってる。


「おまえが俺のこと、すごいって思ってくれてら、俺はそれでいいよ。他の連中にどう思われようとな」


 さて、どうだろうか。

 するとエリスはフニャ、と笑う。


「OKですよだーりん! ぬへへ、ダーリンの凄さを、妻たる私だけが知ってる〜♡」


 これで納得してくれたようだ。

 やれやれ、めんどくさい女だな。


『おまえ様よ、顔がニヤついてるぞ』


 うるせえ妖刀。黙ってろ。


『そうはいかんな。敵がきてるぞ』


 俺は魂感知を行う。

 確かに、森の方から魔物がこちらに向かってくるのがわかった。


「ヘンリーの旦那!」


 馬車を護衛してる冒険者が、商人ヘンリーにいう。


「魔物が1匹こっちにきます!」


 1匹?

 何を言ってるんだ。


 もっとたくさんくるだろうが。

 俺は窓の外から顔を覗かせる。


 なるほど、確かに1匹しかいないように見える。


飛竜ワイバーンです!」


 と冒険者が言う。

 Bランクの魔物だ。ただの飛竜ならな。


「先に言ってください。おれたちで迎撃を」

「いや、みなさんこそ先に言ってください。妻と俺で対処します」


 ヘンリーは馬車を止める。


「金獅子さま、もしかして倒してくださるのですか?」


 エリスがこくんとうなずく。

 ……どうでもいいが、こいつ口数少ないな。


 俺の前だとベラベラしゃべってるのに。


「わかりました。お気をつけて!」


 ヘンリーが冒険者とともに先にいってしまう。

 残されたのは俺とエリスだ。


「ぷは! きんちょーしたぁ」

「おまえ、まさか人見知りなのか」

「うん。だいぶ」


 なるほど、こいつがソロ冒険者してた理由の一端が垣間見えたな。

 どうやら人と話すのが苦手らしい。


「俺はいいのかよ」

「ダーリンは特別だもん!」


 さいですか。

 まあ、悪い気はせんがな。


「ところでだーりん、どうしてあの人たち先に行かせたの?」

「力がバレるリスクを減らすためだよ」

「飛竜1匹たおすくらいなら、私一人でも大丈夫だよ?」


 エリスもあの冒険者と同様に、あれをただの飛竜だと思っているらしい。


「ありゃ、飛行竜ステルス・ワイバーンだよ」

「飛行竜……?」

「姿を消せるんだよ。あの先頭の竜はおとりだ。1匹しかいないって油断させておいて、後ろに控えてるステルス状態のドラゴンたちが一斉に襲い掛かってくんだよ」


 大賢者の知識が俺に敵の情報を教えてくれる。


「なるほど、さすがダーリン! でも、近くにあの人たちがいてもよかったのでは?」

「あほ。俺の攻撃はどれも派手で目立っちまうだろ」


「あ、そっか。ダーリンの攻撃、どれも火力が大きいけど、めだつもんね」


 たとえばレールガン。

 たとえば左手の呪物。


 俺の攻撃は、どれももれなくド派手なのだ。

 

「目立ちたくないからな、俺は」

「むぅ。難しいね。目立たないように振る舞うのって」

「まったくだ」


 馬車が離れたところで、俺は銃を取り出す。

 ここなら、開けた場所だから、使えるな。


「【虚空弾】」


【虚無】を付与した弾丸を打ち出す。

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!


 上空にいた飛竜たちが虚空へと消し飛ばされる。


「さっすがダーリン! やっぱりダーリンが世界最強! あー! みんなに知ってもらえないのが、辛すぎる〜」


 こいつは、やっぱり何度も釘刺しておかないとな。


「いいか、俺が強いことは他の連中には秘密だからな」

「ふへ〜♡」


 エリスがまただらしない顔をする。


「二人だけの、秘密〜。うふふ〜♡」


 秘密を持つことに喜んでやがる。

 ほんと、わからんやつだな。

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