第41話 実は嫁、めちゃくちゃ有名人だった
俺は森野中で仕方なく人助けをした。仕方なくだ。
襲われていたのは商人の馬車だ。
そこそこでかい荷馬車のまわりには、この馬車の持ち主らしい男、そして護衛が数名。
こいつらが勇者軍ではないだろうが、いちおう素性は隠しておいた方がいいだろう。
俺は呪物の力を発動。
「わ! ダーリンが赤髪になっちゃった! 顔も違う!」
「呪物で変装したんだ」
俺は全身に呪物を身につけている。
その中に、姿を自在に変える術部があった。
俺は赤い髪の別人へと変装をしたのだった。
「うーん……」
「なんだよ?」
「うん。ダーリンは、やっぱり普段のダーリンのほうがかっこいいな! って思ったのです!」
な、なるほど。
そうか。前の方がいいか。
「すまんな。これから外ではこの姿で行こうと思う」
「OK! でも、二人きりの時は、普段のダーリンでいてほしいです♡」
「わかったよ」
「わーい♡」
しかし……ふむ。変装か。
「エリスよ。おまえも変装しておいた方がいいんじゃないか?」
「ほえ? なんでですか?」
「おまえ、Sランク冒険者なんだろ? 有名人じゃないか」
普段アホな言動が目立つエリスだが、こいつの冒険者としてのランクはSだ。
どう考えても有名人である。
「大丈夫ですよー。私、ずっとソロで活動してましたし。旦那探し以外興味持ってなかったし。有名なわけないですよー」
……どうにも信じられない。
ただ、俺が使ってる変装用の呪物は、一般人には使えないしな。
それにエリスの言葉を頭ごなしに否定するのも、気が引ける。
「わかったよ。じゃあ変装は俺だけにしておこう」
で、だ。
しばらくすると商人が目を覚ます。
「う、ここは……?」
商人のおっさんは体を起こし、俺たちを見る。
「起きたか。俺たちは」
「金獅子さま!?」
…………は?
き、金獅子?
「やはり金獅子様ですよね!?」
俺、ではなく隣に立ってるエリスに向かって、商人が言う。
だがエリスは首を傾げていた。
「きんじし? なんですそれは?」
「え? え? 違うのですか。Sランク冒険者のなかで唯一、ソロで凶悪なモンスターを倒しまくっている! 金獅子エルフェリス・アネモスギーヴ様ですよね!?」
…………。
俺はアホエルフの耳をつまんで、商人から離れる。
「おい」
「ごめんなさい」
エリスが1秒で謝ってきた。
「やっぱりクソ有名人じゃねえか! 二つ名までもってやがってもー!」
「ひぃ! ごめんねダーリン。まさかそんなあだ名ついてるなんて知らなくてぇ……」
……しかし俺の悪い予感は的中してしまったか。
Sランクのうえ、この美貌だ。そりゃファンも多いだろう。
俺は変装しておいてよかった。
このめだつ女と一緒にいたら、たちまち俺(変装前の俺)も有名人の仲間入りになるとこだった。
「金獅子さま、そちらの赤い髪のおかたは?」
「えとぉ、あいたたたっ」
俺はエリスの耳を引っ張り、小声で言う。
「……変なこと言うなよ」
「う、うん」
こほん、とエリスが咳払いをしていう。
「私のダーリンです♡」
「おいぃいいいいいいいいいいいいいいい」
バカなの!?
ねえバカなの!?
バカだったねちくしょう!
「変なこと言うなっていっただろうが!」
「うん、だから嘘つかなかったよ?」
こいつの中では変なこと=嘘だったらしい。
だから、包み隠さずにそのまま、関係を言いやがったのだ!
「なんとぉ! 金獅子さま、ご結婚なさったのですか!?」
ああもう……。
仕方ねえ。もうこのままいくぞ。
「そうなんです。な、ハニー?」
「ふぁ〜〜♡」
エリスのアホが妙な声を上げる。
「ハニー、えへへ、ハニー♡」
めちゃくちゃ喜んでやがった。
「笑わない金獅子として有名なのに。この幸せそうな笑み……。やはり、あなたは金獅子さまの旦那なのですね」
「ま、まあ、そんな感じです」
なるほどなるほど、と商人が何度もうなずく。
「金獅子さま、旦那様、助けてくださり誠にありがとうございます!」
商人が何度もあたまを下げる。
「ところでお二人は。どうして、こんな辺鄙な森に?」
「まあ、ちょっと」
エリスに会話を任せるとまた余計なことまで言いかねなかったので、俺が商人と話す。
「なるほど。Sランクの任務の最中なのですね。余計なことは言えないと」
「まあ、そんなとこです」
勝手に勘違いしてもらってラッキー。
このままにしておこう。
「お時間ございましたら、わたくしめの屋敷に寄っていきませんか? ぜひ、お礼をしたいです!」
ふむ。
まあ、望んだ展開にはなった。街まで送って欲しかったからな。
ただ、誤算がある。
それはエリスが思った以上に有名人だったってことだ。
このままエリスのダーリンとして活動すると、なんだか面倒なことに巻き込まれそうな気がする。
……まあ。
とはいえ、エリスと別行動を取る気はなかった。
俺は、こいつのことが好きだからな。
「ダーリンどうする?」
「お言葉に甘えることにしましょう、ハニー」
「ふぁーい♡」
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