第40話 人助け




『人が魔物に襲われているぞ』


 森の外へと向かっている途中、妖刀が俺にわざわざそう教えてきた。


「…………」

「ダーリン? どうしたの?」


 エリスは気付いていない様子。

 彼女も敵の気配を感知する術を持っているが、魂感知には劣る。


 知らず立ち止まる俺の足。

 

『どうしたおまえ様よ。人が魔物に襲われていようと、おまえ様には何も関係ないよな?』


 ……そうだ。

 俺にとって重要なのは、女神を殺すこと。それだけだ。


 人が真桃に襲われてる?

 だからなんだ。


 これが物語の主人公なら、迷わず、そいつらを助けに行くだろう。

 俺の取る選択肢は一つ。


 スルーして、先に進む一択だ。


『くくく、だというのに、おまえ様よ。足が動いてないぞ?』


 俺の意思に反して……動かない足。

 俺は他人の命なんてどうでもいい。どうだっていいんだ。……けど。


「ダーリン?」


 エリスを、俺は助けた。

 彼女だって、俺の目的とは無関係な女だったじゃないか。


 なぜ助けた?

 それは……


『素直になれよ。おまえ様。おそらく襲われてるのは勇者軍じゃない。いいじゃないか、助けたって。物語の主人公のように』


 ちっ。うるせえ妖刀だ。

 

「エリス。いくぞ。ついてこい」

「? はい!」


 俺はかけだしていた。


『人の命がどうでもいいって思ってる奴なら、走らないんだよなぁ』


 黙れ。

 森を駆け抜け、そして俺たちは少しひらけた場所へと辿り着く。


「ダーリン! 人が倒れてる!」


 目の前には血の池ができていた。

 大鬼オーガっていう魔物が、人間を襲っていた。


 馬車のそばに倒れてるにんげんたち。

 大鬼が人食らっている。しらず、歯噛みしてしまう。


「わかってる!」


 わかってんだよちくしょうめが。

 だから、そんな、喜んだ目を向けてくるんじゃない。


 俺は銃を取り出す。

 こんなとこでさっきのように、毒や【無】による攻撃をしたら、そのあたりにいる連中に被害が出る。


「ぎぎゃ!」「ごぎゃぁ!」


 うるせえクソ鬼どもが!

 俺は銃を構えスキル、超磁力を発動。


 銃をレールガンに変えて、一気に鬼の頭を吹っ飛ばす。


 ズガン!

 頭が風船のように簡単に破裂した。


「エリス! 剣でやれ!」

「OKだーりん! 周りに被害を出さないようにだね!」


 ああちくしょう、そのとおりだよ!

 エリスは嬉しそうにエクスカリバーを抜いて、戦場を疾風のように駆け抜ける。


「や! はぁ!」


 エリスが正面から鬼の首を切り飛ばす。

 俺もまたレールガンで鬼どもの頭を吹っ飛ばした。


 1分もかからず、鬼の群れを討伐。ふぅ。


「ダーリン、これからどうする?」

「治療に決まってんだろ」

「だよねー!」

 

 にっこにこ笑いながら、エリスが怪我人を集めてくる。

 ああちくしょう。絶対に俺をいい人だと思ってやがる。


 ああちくしょう。


「ダーリンは優しいなぁ」

「違う。これは、俺のその、作戦だよ」


 俺は【無傷】で怪我人どもを地消しながら言う。


「ほほぅ、作戦。どのような?」


 エリスがニマニマ笑う。

 ああくそめんどくせえ。


「それ、荷馬車だ。つまりこいつらは商人か何かだろう。それにのっけてもらえば街まで楽にたどり着けるだろ。だから助けた。そんだけだ!」


 するとエリスは微笑みながら、俺の頭を撫でる。


「ダーリンは出会った時から、ずぅっと優しいね。大好きだよ♡」


 ……っち。

 たく、めんどくせえ。


『まあまあ。敵じゃない人間にまで、容赦のなさを発揮しなくていいじゃないか』


 ……うるせえよ。ったく。

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