第39話 大量のザコをワンパン




 ダンジョンをクリアした俺とエリス。

 軽い酩酊かんを覚えたあと、次の瞬間、目の前にはさっきまでとは別の光景が広がっていた。


「森……?」


 暗い地下空間から一点、俺たちは森の中にいるようだ。

 青い空に、豊かな緑。


 そよ風が実に心地よい。


「…………」


 久しぶりの外。

 というか、この世界に来て初めて、外に出た気がする。


 捨てられてから今まで、暗い中でひとりぼっちだったからな。


「だーりん? どうしたのですか?」


 ……いや、違うか。

 別にずっと一人じゃなかった。俺には、この可愛い嫁がいたな。


「なんでもないよ。それより、まずは状況を把握だ。エリス、ここはどこかわかるか?」


 ダンジョンはクリアすると、中にいる連中は、ランダムに外に転移すると言っていた。

 ダンジョンが元々あった場所ならいいのだが。


「わかりませんね! どこでしょうここ!」

「……ふぅ」


「ああん、ごめんなさいダーリン。役立たずのエルフで」

「いや、いいって」


 まあわかったらラッキーくらいにしか思ってなかったしな。


「あのダンジョンのあった場所じゃないんだな?」

「そうですね。そこは確実だと思います」


 周囲を見渡してみると洞窟の入り口らしき場所は見当たらなかった。

 エリスもここがどこかわからんというし。


 ダンジョンのあった場所とは、全然違う場所へと、俺たちは飛ばされてしまったようだ。


「ど、どうしましょうダーリン……」

「まあ問題ないよ。とりあえず森の外を目指すぞ」

「でも周辺の地図がわからない……あ! そっか、ダーリンのスキルを使えばいいんですね!」


 そのとおり。

 俺は反響定位スキルを発動。


 地面に手をついてスキルを発動する。

 超音波を使い周囲の地形を把握する。


 結構大きな森のなかのようだ。

 だが、構造は理解できたぞ。


「地形は把握した」

「さっすがだーりん! 頼りになります!」


 エリスが俺の腕に抱きつく。

 むにゅり、とでかい乳房が潰れる。相変わらず、でかい乳だ。


「やん♡ また私のおっぱい揉みたいんですか? もー、夜まで待って。でもでも、ダーリンが望むならや、野外でも……あいたっ」

「バカ言ってないでいくぞ。そういうのは、街についてからな」

「はーい♡」


 まったく、リナリーゼといい、こいつといい、エルフはエロいことしか考えてないのか?

 まったく。まあ、嫌いじゃないからいいが。


「れっつごーですよ、ダーリン!」


 俺たちは森の奥へと進もうとした、そのときだった。

 

「ん? なんだ……」

「敵ですね」


 エリスもすぐに気づいたようだ。

 俺も魂をかんちすることで、魔物の接近に気付いた、のだが。


「な、なんだかやたらとたくさん、こっち来ません?」

「来るな」


 空から、地上から、魔物がこちらへと押し寄せてくるのだ。

 しかも、一直線に俺を目指している。


「だ、ダーリンどうしよう?」

「問題ない。来るものをやれば、それでいい」


 俺は腰の後ろに手をやる。

 すらり、と1本の短刀が握られてる。


「あれ、ダーリンそれ妖刀? なんだか縮んでない?」

「ああ。折った。長い刃だと使いにくいからな」

「お、折った? だ、大丈夫なんですか? 痛がってません?」


 いや、全然。

 どうやら妖刀になった時点で、痛覚はなくなったようだ。


「妖刀、死んでるか?」

『くく、面白い質問をするな』


 妖刀が返事をする。

 最近こいつ全然話しかけてこなかったな。


『面白い知識が手に入ったからな。それを閲覧していた』

 

 ああ、大賢者ジョン・スミスの知識のことか。


『ああ。くく、実に興味深いものばかりでな。ついつい、没頭してしまった』


 ああそうかい。まあ静かでとても良かったよ。


「さて、やるか。エリス、そばによれ」

「はーい♡」


 エリスが嬉しそうに俺の体に抱きつく。

 やたらいい匂いするんだよな、こいつ。


『ゴギャギャ!』『ギャギギ!』『グゲげ!』


 熊、猪、そして大きな鳥の魔物が一斉に襲いかかってきた。

 どれも凶悪なツラ、でかい体をしてる。


 だが、全く怖くなかった。

 憤怒の巨人をはじめとした、地下で出会った魔物と比べたら、屁でもないね。


「毒息吹」


 妖刀に備わっているスキルを発動。

 瞬間、刃から毒のブレスが周囲に広がった。


「うひー! 魔物がどろっどろになってしまいました!」

「……まじか」


 動きを阻害するだけのつもりが、どうやら溶解してしまったらしい。

 うーん、予想外に弱い敵だったみたいだなこいつら。


「だーりん、【無毒】で守ってくれて、ありがとうです! 好き好き大好き〜♡」


 無毒をこいつに付与したことで、エリスに被害を出すことなく、敵を倒すことができた。


「あ、まだ来ますね」

「ああ」

「次は私が!」


 エリスが手を前に出す。

 俺はエリスに【無駄】を使用。


 詠唱が無駄なものとなり、省略化される。


「【絶対零度棺セルシウス・コフィン】」


 ガキィイイイイイイイイイイン!

 周囲一体が、一瞬で凍りつく。


 襲いかかってきた魔物たちはみな、氷づけになっていた。


『ふむ? エリスのこれは、極大魔法ではないか?』


 極大魔法とは、人が習得できる、最高ランクの魔法のことだ。

 才能のある人間が、ものすごい長い時間努力して、それでも獲得できるものはごく少数と言われてる。


 そんな超ハイレベルな魔法を、知性65のこいつが使ったことに、妖刀は疑問をおぼえたらしい。


 エリスにスキル、【無制限】を使ったんだよ。


『無制限?』


 魔法使いたちには、魔法への適性、魔法適性が存在する。

 適性が高いほど、高いレベルの魔法を使用可能となる。


 が、逆にこの適性が低いと、どれだけ頑張っても高れべる魔法は習得できないのだそうだ。


『なるほど。無制限を使用することで、魔法の使用制限をなかったことにできる。つまり、適性を無視して、レベルの高い魔法を使えるってことだな』


 そういうことだ。

 ただ、いつでもすごい魔法を使えるわけじゃない。


 俺がそばにいて、無制限を他者に付与してるときだけだ。


『条件付きで、エリスは最高ランク魔法使いになれるというわけか。やはり、おまえ様はすごいな』


 まあ俺がいないと知性65の魔法使いだもんな、エリスは。

 

「ダーリンはやっぱすごいなぁ。でもでも、だーりん、なんで魔物たち、たくさんやってきたのでしょう?」


 ふむ、それは俺も気になっていたところだ。


『それは簡単だ。おまえ様のせいだ』


 俺の?


『魔物には、大量の魔力を求める習性がある』


 大量の魔力……あ。

 そうか。俺は無限に等しい魔力を常に生み出し続けている。


『そういうことだ。いかに暴食の指輪で魔力を抑え込んでも、野生の勘でわかるのだろう。おまえ様が、魔物にとってとてもオイシイ餌であるってことはな』


 なるほど、理解した。


「エリス。どうやら魔物の狙いは俺のようだ」

「?」


 妖刀から得た情報をエリスと共有する。


「エリス、すま……」


 すまない、と謝ろうとした俺の唇に、エリスが自分の唇を重ねる。

 突然どうしたんだろうかこいつ?


 顔を離すと、彼女は笑っていう。


「謝らないでください。迷惑なんて、全然思ってません!」


 ……俺がいるだけで、魔物を誘き寄せてしまう。

 それを、こいつは迷惑ではないと言ってくれた。


 ……俺を無条件で受け入れてくれる。

 そんな彼女の愛情が心地よかった。


「これからもよろしく頼む」

「OKだーりん! 任されましたー!」


 俺はエリスを連れて、森の外へと向かうのだった。

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