第38話 クリア報酬、そして地上へ
まあ、寝たわけじゃないが。
「さて、じゃあもうそろそろ、外行くか」
俺たちは
そこには台座があって、巨大な結晶体が浮いてる。
迷宮核。ダンジョンの心臓とも言えるもの。
「これに触れればクリアだっけ?」
「そうです。そして、たくさんの財宝がもらえます! さ、ダーリン」
俺はうなずいて、迷宮核に触れる。
びき、パキィイイイイイイイイイイイイイイイン!
結晶体が粉々に砕け散る。
その破片が変化して……。
ドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサ!
大量の金貨やアイテムが、俺の目の前に山積みになった。
おお、これが勝利品ってことか。
「これ、この世界でどれくらいの価値があるんだ?」
貨幣価値など、俺は知らないことが多い。
いや、確かに大賢者の知識は頭の中にあるんだが、彼が外で生きていたのは、現代よりかなり前。
今の時代については、把握し切れていないのだ。
「そうですね。まあ、これがあれば、二人なら田舎で一生遊んで暮らせますね」
エリスがそう言う。
なるほど、かなりの大金ってことか。
……田舎で一生遊んで暮らせる、か。
エリスが俺を見てクビをかしげる。
「どうしました?」
「……おまえは、そういう生活送りたいと思うか?」
するとエリスが微笑むと、首を振る。
「いえ。私は、ダーリンが隣にいれば、それだけで十分。たとえ外に出て、逃亡者となろうとも……そこにダーリンが居るなら」
エリスは平穏な生活では無く、俺の望みを、優先させてくれた。
女神のくそ野郎をぶっ殺す。
この望みは、なにも俺だけの望みじゃ無い。
俺に力と記憶を託した、大賢者ジョン・スミスの望みでもあるのだ。
俺は財宝を得て、外に出たとしても……女神を殺すために、この世界で生きる道を選ぶ。
その道に、エリスも寄り添ってくれるとってくれたのが、ほんとうにうれしかった。
「ありがとう。これからもよろしくな」
「はいっ!」
これからの旅路、きっと苦労も多いことだろう。
だが、それでも俺はエリスの、この笑顔がそばにあれば、頑張れる。そう思った。
「あ、そうだ。財宝を回収しとかないとですね」
「そうだな。金はあって困るもんでもないし」
俺は右手を伸ばす。
ずるぅ……と
粘液が一気に広がり、財宝を包み込むと、その場にあった財宝をすべて収納。
そして
「す、すごい……!? どうなってますの!?」
リナリーゼが俺を見て尋ねてくる。
「どうって……ブラックウーズに財宝を収納させたんだよ」
「ブラックウーズをそんな使い方ができるなんて……!」
「なんだ、他の連中はやらないのか?」
「はいですわ。なぜなら、ブラックウーズはテイム難易度が最上級、Sだらかですわ」
……なるほど。
大賢者の知識によると、テイムという技術がこの世界にはある。
テイムとは魔物を使役すること。
モンスターのランクが高いほど、飼い慣らす難易度が難しくなる。
「特に、ブラックウーズはランクが高いうえ、知性のない魔物です。テイムは絶対不可能とされております」
「? いや、知性普通にあるが?」
でなければ、無我夢中が通じるわけが無い。
「!? ブラックウーズに知性!? ほ、ほんとうですの!?」
「あ、ああ……。おまえにも無我夢中スキルかけただろ。それを、ブラックウーズにもかけたんだよ」
リナリーゼが目をむいていた。
「ダーリン、リナリーゼは何に驚いてるんでしょう?」
「知らん」
するとリナリーゼは言う。
「あなた。エルフェリスでしたね」
「う、うん……なに?」
「ご主人様を、ちゃんと守りなさいね。この御方の知識、技術、そして力。そのすべてが、この世界の理を遙かに逸脱しておりますわ」
確かに技術と力はそのとおりだが、知識もか?
「恐れながら申し上げます。ご主人様。ブラックウーズは本来知性が無い、それは通説としてこの世界に存在します。それ以外にも……」
なるほど。
「それ以外の知識についても、同じ可能性があるってことか」
「はい。私ではご主人様がどの程度の、どんな知識を持ってるのかは定かではありませんが。慎重に行動なさった方がよいかと」
たしかにそうだな。
俺は今目立つわけにはいかないし。
「忠告感謝する」
「はぁああああああああああああああああああん!」
……リナリーゼがびくんびくん! と体をけいれんさせる。
これがなきゃな……。
「おい起きろ。そろそろ転移が始まるんだろ」
大賢者曰く、迷宮核が砕かれると、中にいる人たちは外にランダム転移されるという。
迷宮クリア者に触れていると、同じ場所へと飛ばされるらしいが。
「はい。では、事前の予定通り、私は別行動を取らせていただきますわ」
リナリーゼの仕事は勇者軍にもぐり、俺に情報を流すこと。つまりは、スパイ活動だ。
これから別行動になる。
「そうだ。おいリナリーゼ。おまえ転移魔法は使えるか?」
「はい、問題なく」
よし。
俺は右手を前に出し、そして……
「【創造】」
「!?」
俺は大賢者から継承した、創造魔法を使用する。
作り出したのは1つの指輪だ。
ぽいっ、と俺はリナリーゼに指輪を渡しておく。
「それは転移魔法を補助する指輪だ。指輪をはめた状態で転移魔法を使えば、俺の元へ飛べるようになってる」
俺の魔力を座標として、ここへ転移できるな仕組みを、指輪に組み込んでおいた。
「呼ばれたときだけ来いよ。無闇に俺の元へ来たら周りにバレて……って、どうした?」
ばっ、とリナリーゼが俺の前で頭を下げる。
それは……この痴女にしては珍しく、真面目な顔であった。
「まさか……伝説の、創造の大賢者さまでしたか。お会いできて、ほんとうに……光栄ですわ」
……ああ、どうやらこの女、俺をジョン・スミスと勘違いしてるようだ。
「なぜそう思った」
「創造魔法の使い手は、ジョン・スミス様だけ」
「あー……なるほどな」
創造魔法を使うと、面倒くさいことになりそうだ。
外では極力創造魔法を使用するのは避けておこう。
さて、で、この女にどこまで情報を渡すかだが……。
まあ、別にこいつは知らないで良いか。所詮、手下だしな。
勘違いしてるなら、そのままにしておこう。
「このリナリーゼ、あなた様を尊敬しておりました。あなた様の手足となって働けること、心から……うれしく思います」
変態性がなりをひそめていた。
嘘をついたことになるのだが、まあ、これはこれでよかったかもしれない。
「俺のためにしっかりと働けよ」
「はっ! 御意に!」
と、そのときである。
パァア……! と俺たちの体が輝きだした。
「転移が始まるみたいだな」
リナリーゼは
「では、ご主人様! またお会いしましょう!」
「ああ。しっかり情報を集めて来いよ」
「はい!」
先に、
ランダム転移って言っていたから、俺たちとは別の場所に飛ばされるのだろう。
「ダーリン」
エリスが隣にやってきて、きゅっ、と手を握ってくる。
……さて。
長かった地下での生活も、これでおしまいだ。
これからはいよいよ、本番。
身分を隠しながら、情報を集め……そして、女神のくそ野郎をぶっ殺す。
「行くぞ、エリス。俺に付いてこい!」
「はいっ!」
俺たちの体が光る粒子となって、消える。
……かくして、俺たちは地上へと、転移するのだった。
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