第37話 女奴隷、兼スパイを獲得



 味噌川みそがわ、および味噌川みそがわの取り巻き女どもに、【無量大数】を食らわせ廃人にした。


 はずだったのだが……。


「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」

「……耐えてやがるな、こいつ」


 足下に美女が倒れている。だが、廃人になっていない。生きてるのだ。

 脳内に無限に近い情報を送り込まれても……。


 改めて、俺はこの女を見やる。

 味噌川みそがわの取り巻きの一人、女魔法使い。


 背が高く、プロポーションもいい。

 特徴的なのは赤い髪の毛と、そして……とがった長い耳。


「こいつもエルフか」


 エリスことエルフェリスも、エルフ族の魔法剣士だった。

 

「ダーリン。こいつはエルフ国の王族です」

「王族? まじか」


「はい。リナリーゼと言います」


 ふむ、こいつ王族だったか。

 

「なんで王族がここに?」

「確か素行不良で国を追放された、と聞いたことがあります」


 素行不良……ね。

 するとリナリーゼは這いつくばりながら、俺の元へやってきて、そして……土下座する。


「お願いします! わたくしを、雌奴隷にしてくださいましぃ!」


 ……。

 …………。

 ………………はぁ?


 何言ってるんだ、こいつ?


「私、あなた様に惚れてしまいました!」


 あー、はいはい。

 命乞いね。他の取り巻き女たちと一緒ね……って思ったんだが……。


 リナリーゼが、魔法で自分の服を燃やした。

 全裸になった。


「「ちょ!? なぜ急に全裸に!?」」


 俺もエリスも驚く……! なんだこいつ!? なにしてるの!?


「誠意ですわ! 奴隷になるという、誠意をお見せするために! 全裸になりました!」

「へ、変態だ!」


 するとエリスが旋律の表情を浮かべながら言う。


「聞いたことがあります。リナリーゼは……かなりの【びっち】だと!」

「び、びっち……」


「はい!」

「言葉の意味わかってる?」

「わかりません!」


 そうですか……。

 しかし、なんだ。淫行で追放されたってことか?


「私、強い殿方が大好きなのです! 強い殿方に屈服させられて、はらまされるのが……夢なんですわぁ♡」


 ……普通にやべえやつだった。


「ご主人様の強さに、感動いたしましたの。もう濡れ濡れです♡ 見てください」

「足を開くな! 服を着ろバカが!」

「燃やしてしまいました!」

「ああそうだったね!」


 俺は右腕を伸ばす。

 俺の着ている黒衣ブラックウーズ・コートから、黒い粘液が放出。


 べちゃ、とリナリーゼの体にまとわりつくと、服へと変貌した。


「ブラックウーズを服に擬態させたんですね、ダーリン」

「そういうことだ」


 目のやり場に困ったのと、別の意図も含まれている。


「はうぅん!」


 リナリーゼのやつが体をびくんっ、とこわばらせた。


「なんだ?」

「この服から、ご主人様の強い【力】を感じます……♡ それだけで……ふふ……失礼なのですが……その……達しちゃいましたぁ♡」


 ……普通にキモい。

 しかしブラックウーズに、妖刀の毒を混ぜたことを見抜いているようだ。


 無量大数にも耐えたことだし、なかなかやるやつではあるようだ。


「エリス。こいつのステータスを教えてくれ」


 エリスに鑑定スキルを使ってもらい、リナリーゼのステータスを教えてもらった。


「レベルは590……。知性の値が10045。これで……知性五桁なのか……?」


 この変態に知性のかけらも感じないんだが……。

 まあ、大賢者の知識によると、ステータスの知性と、リアルの頭の良さ(かしこさ)は別らしいが。


「リナリーゼよ。元王族ってのはマジの話なのか」

「はいですわぁ♡」

「そうか……」


 高いレベル。元王族というたちば。

 それになにより、勇者軍の一員。


 ……よし。


「リナリーゼ。おまえを奴隷にしてやる」

「ほんとですの! やったぁ! はぁあああああああああん♡」


 またリナリーゼが体を震わせていた。キモいから無視。

 一方、エリスを見やる。


 彼女は不満そうな顔をしていた。

 まあそりゃそうか。好きな男が他に女を作ったらな。


「エリス。勘違いするな。こいつは奴隷だ。ペットみたいなもんだ。恋人はおまえただひとりだよ」


 エリスがそれを聞いて、ふにゃあ……と笑う。


「はいっ♡ うれしいです♡ ダーリンっ」


 エリスは俺に抱きついて。ちゅっちゅ、とキスをしてきた。


「リナリーゼ。おまえは別に俺の恋人になりたいわけじゃないんだろ?」

「はい! あなた様の奴隷であればそれで! 子種はたまったとき、性処理の道具的な感じで吐き出してくだされば!」


 キモい。

 し、俺は普通にこんなの恋人にしたくなかった。


 やっぱりエリスが一番だ。


「たしか、奴隷にする儀式魔法があったな」

「はいダーリン。ですが、それを使うと奴隷紋という、奴隷である証が見える場所に浮かび上がってしまいます」


 なるほど、他人に奴隷にされてることが、バレてしまうってことか。

 それは困るな。


「リナリーゼには勇者軍にスパイとして潜ってもらいたい」

「スパイ……なるほど。この女を使って、勇者軍から情報を引き出すんですね! さすがダーリン! 知将です!」


 廃人にして捨て置くにはもったいない女だからな。

 リナリーゼを有効活用させてもらおう。


「さて、奴隷になってもらうわけだが……奴隷魔法を使うと相手に、誰かの支配を受けてることがバレてしまう。そこで……」


 俺はリナリーゼの額に、指を立てる。


「【無我夢中】」 


 相手を俺の虜にさせるスキル、無我夢中を発動する。

 これなら、奴隷紋を浮かび上がらすことなく、相手を俺に夢中、つまり奴隷にできる。

 

 リナリーゼは一瞬体をこわばらせ、そして……。


「? 何かしました?」

「………………効いてない?」


 いやいや、まさか。


「リナリーゼ」

「はい!」


「俺の前で犬のように這いつくばって見せろ」

「わんわん!」


 リナリーゼのやつが俺の前で、犬の構えを取る。


「強いご主人様の子犬を産ませて欲しいですわんわんっ♡」


 ……。

 …………。

 ………………あれぇ?


 こいつ、無我夢中を受けるまえと、後で、言動変わって無くない……?


「お、おそらくですが……自ら奴隷となることを言った段階で、もう心からダーリンに忠誠を誓っていたのでしょう。だから、無我夢中をくらっても、態度に変化が無かったのかと……」


 マジかよ……。

【無我夢中】状態になる前から、俺に無我夢中だったってこと!?


「リナリーゼは本気で、強い男にはらまされたいって思っていたのでしょう」


 さっきの発言は、助かりたいがための嘘じゃ無く、マジだったのか……。


「はっはっは、ご主人様~♡ おめぐみをぉ~♡」


 ……はあ。

 まあいい。少し、いやかなり変態だが、こいつは使える。


「おいリナリーゼ。おまえこいつらとともに、勇者軍に戻れ。そんで、俺に情報を流せ」


 無量大数を食らって廃人になってる、味噌川みそがわ一派を指さして言う。


「わかりましたわ! 情報はどうやって渡せばいいです?」

「おまえの着てる服、ブラックウーズには、意識を共有する力がある」


 俺の着てる黒衣ブラックウーズ・コートと、こいつの着てるブラックウーズは、同一個体なのだ。


「襟を立てて、そこにしゃべりかけると、どんだけ離れててもおまえの声は届く」

「す、すごいですわ! そんなことできる魔道具なんて! 聞いたことないですわ!」


 魔道具じゃねえけどな。


「ともあれ、おまえがその服を着てるかぎり、おまえの位置は把握できる。おまえが少しでも裏切るようなそぶり、俺に不利になるような発言をしたら、即座にそのブラックウーズに食わせた、妖刀の毒で殺してやるからな」


 と、おどしと保険をかけておく。

 ぶるぶる、とリナリーゼが体を震わせる。


 毒で殺すと脅されたから、おびえてるのだろう……。


「ご主人様のために、尽くすこの喜びで……濡れ濡れですわぁ~♡」

「「へ、変態だ……」」


 恐怖じゃ無くて喜んでいたようだ。

 きめえ。


「と、とにかく……俺たちはここを出る。おまえは残って味噌川みそがわをつれて街に戻れ」

「はぁい♡ わかりました~♡」


 かくして、俺は女奴隷をゲットしたのだった。


「ち、ちなみにいつ子供をはらませてくださるのですかっ?」

「さてな」

「はぁあああああん♡ いけずぅう! でも……じらしプレイ……ありよりのありですわー!」


 はぁ……やだなぁ、こいつ。もうちょいましな手駒が欲しかった……

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