第34話 元クラスメイト相手に無双


 味噌川みそがわ

 クラスメイトの一人だ。


 味噌川みそがわはクラスカースト上位の一人である。

 といってもこいつ自身にさほど力があるわけじゃない。


 味噌川みそがわはクラスの中心角である男の取り巻き、手下だったのだ。


 木曽川きそがわ

 それが俺たちのクラスでカーストトップだった男。

 そして……俺をいじめていた張本人だ。

 

 木曽川のやつに何をされていたかは、まあ割愛。

 問題はこの味噌川みそがわが木曽川の手下だってこと。こいつに個人的な恨みがあるってことだけだ。


 ま、だが。

 俺別に趣味で味噌川みそがわをいたぶる気はさらさら無い。

 俺が欲しいのは情報だ。


「ということで、味噌川みそがわくん。これからおまえにはいくつか質問していく。正直に答えた方が身のためだと思うよ?」


「げほ! ごほ! い、てえ……いてえよぉお……」


 味噌川みそがわは壁に埋まっている。

 俺が軽くパンチしただけでこれだ。


「Bラン勇者の攻撃力・防御力は全然ないと」


 味噌川みそがわのレベルは600オーバー。

 Sランク冒険者である(前に教えてもらった)エリスよりややレベルが下だ。


 まあだから、こいつはSランク冒険者と同じ程度の力持っているのである。

 で、これだ。


 俺に攻撃を与えることはできないし、少しパンチしただけで致命傷くらってる。

 レベル600オーバー、Bランク勇者で……だ。


 ふむ。なるほどなるほど。

 勉強になるなぁ。


「さて、とりあえず何から聞こうかなぁ」


 そのときだ。

 どごぉんっ!


「や、やった! 直撃! 中級魔法を食らわせて遣ったわぁ!」

「ざまぁみろ!」

「これで死んだわね」


 ……ふぅ。


「なに、今の?」

「「「なっ!?」」」


 左を見ると、そこには味噌川みそがわの取り巻き、魔法使いの女がいた。

 どうやら俺は魔法を食らっていたらしい。

 

「ば、バカな!? 中級魔法の直撃を受けたのよ!? しかも防具に覆われてない部分を攻撃されて! どうして無事なのよ!?」


 確かに顔面に魔法の直撃を受けた……が。


「悪いな。俺のレベルは規格外なんでな。そんなちんけな魔法じゃ、傷一つつけられないぞ


 女が完全におびえてしまっている。

 ふむ、ちょうどいい。


「おい。そこの。白い服の。僧侶か?」

「は、はひ……」


 取り巻きの一人に言う。


味噌川みそがわを治療してやれよ。その間に、俺はそこの女と遊ぶ」

「ひっ!」


 魔法使いの女がびびってしまってる。

 僧侶女も同様だ。


「ミソガワ様! た、たすけ……」


 魔法使いの女が味噌川みそがわに助けを求める。

 だが。


「は、早くおれを治療しやがれぇえええ!」


 味噌川みそがわは女魔法使いのことなんかより、自分の体を心配してるようだった。


「そ、そんな……! ミソガワ様……た、たすけ……」

「おまえは、時間稼ぎだ! おれの治療が終わるまで耐えろぉ!」

「そんな……!」


 すがすがしいまでのくずっぷりだな。

 

「さて、女。ほら、魔法撃って来いよ。勇者の仲間なんだろ? もっと強い魔法撃てるだろ?」

「あ、ああ……」


 かたかた……と震えている。ち、これじゃ訓練にもなんねえな。


「おら」


 ぽいっ、と俺は省略弾を渡してやる。


「それもって魔法使え。呪文詠唱をカットできる」

「え? え?」

「ほら。やれ。やらないと死ぬぞ?」


 女魔法使いは覚悟を決めたようだ。

 俺の放り投げた省略弾をつかみ、そして魔法を使う。


火炎連弾バーニング・バレット!」


 エリスも使っていた上級魔法、火炎連弾バーニング・バレットだ。

 無数の炎の弾丸が俺にぶち当たる。


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


「ぎゃはっはあ! 死んだなぁ……!」

「生きてるが?」

「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 ふぅ、やれやれ。


「なんだ、上級魔法でもこの程度の威力しか出せないのか」


 多分エリスより、この女魔法使いのほうが知性のステータスは上だ。

 魔法攻撃力は、知性×攻撃力で算出される仕組みらしい(大賢者曰く)。


 エリスの放った上級魔法より、高威力の魔法を受けても、俺はぴんぴんしていた。


「な、なんで!? どうして……!?」

「だから言っただろ。俺は、規格外なんだよ」


 俺のステータスはすべて測定不能。

 この世界のルールから逸脱してるのだ。


 この世界のルールで戦っているやつらじゃ、俺に傷一つつけられないのである。

 ステータスに差がありすぎる……というか、ステータスという概念がそもそも今の俺には【無】だから、かな。


「おいおい、どうした。俺はまだスキルの一つも使ってないぞ?」


 スキルも、呪物すら使ってない。

 素のスペックで、俺は勇者パーティを圧倒していた。


「調子のんじゃねえよFラン!」


 味噌川みそがわが壁から出てきて、俺の前に立つ。


「さっきはちょっと油断しただけだ! 本気を見せてやる……!」


 ばっ、と味噌川みそがわが右手を前に出す。


「いでよ、聖武具せいぶぐ!」


 聖武具。

 女神から与えられる固有武器のこと。


 それは勇者にとんでもない力を与えるという。

 そう、勇者がやっかいなところは、ここだ。


 聖武具の存在。

 聖武具はあのくそったれ女神の力の一部が具現化したものらしい。


 聖武具だけは、この世界のルールから逸脱してる。

 ようするに、聖武具は俺に傷を付けられる。俺と同様、聖武具もまた、世界のルールからはみ出た存在だからだ。


 味噌川みそがわの右手に、1本の長槍が握られた。


「これぞおれの聖武具! 【勇者の長槍】だぁ!」


 槍、ね。

 なるほど。かませ犬が使いそうな武器だな。


「感謝しろよぉ、松代まつしろ! 最初からこの槍を使ってたら、おまえなんて出会った瞬間即死だったんだからなぁ!」

「はぁー……ばーか。感謝するのはおまえのほうだ」


「なにぃ!?」

「おまえが槍を取り出してる間、俺はあえて攻撃してやらなかったんだよ」


 聖武具を取り出す際に、結構時間を食っていた。

 多分使い慣れてないんだろうな。


 まあそんなのどうでもよくて。

 こいつが取り出してる間、拳銃を出して、引き金を引いてれば、俺は勝ちやつは死んでいたのだ。


 でも、そうしないでやったのだ。

 なぜって?


 そりゃ、情報を引き出すために決まってる。

 聖武具相手に、今の俺がどれくらい、立ち回れるかのな。


「偉そうにしてられるの今のうちだぜ! 勇者の長槍の固有スキル、発動!」


 瞬間、俺の左胸に妙な紋章が浮かび上がる。


「スキル、【必中必殺】! 死ねやごらぁああああああああああああ!」


 味噌川みそがわが槍を持って突進してくる。

 俺は槍をつかもうとする……が。


 するり、と槍が俺の手を通り抜けたのだ。

 黒衣ブラックウーズ・コートすら槍を阻むことはできず……。


 ドスッ……!


「決まったぁ! ミソガワ様の固有スキル必中必殺!」

「スキルを発動すると相手の急所への攻撃を、相手は防御できなくなる!」

「今までどんな敵もこれで串刺しにしてきたのよ!」


「ぎゃははは! どうだみたかFラン! これが、勇者の力ってやつだよぉ!」


 へえ。


「なるほど、面白い力だな」

「「「なにぃいいいいいいいいいいいいいいい!?」」」


 取り巻き女も、そして味噌川みそがわも、バカみたいに驚いてやがった。


「そ、そんな!? どうして!? 必中必殺が付与された槍に、心臓を貫かれて死んだはずじゃ!?」


 はぁ~……やれやれ。


「おまえ自分のスキルのこと何もわかってないな」

「な、なんだとぉお!? がはっ!」


 俺は味噌川みそがわの腹を蹴っ飛ばす。

 味噌川みそがわは無様に地面に転がっていった。


 俺は左腕で心臓から、勇者の長槍を引き抜く。


「必中必殺は、相手に防御をさせないスキルだ」

「そ、そうだ! だからおまえはおれの槍を防げなかった! 心臓はおまえを串刺しにしたはずなのに!? ど、どうして生きてる!?」


「それは俺の傷をスキルで、おまえの攻撃で食らうはずだった傷を無かったことにしたからだ」

「す、スキル!? だ、だっておまえはスキルが無いはずじゃ!?」


 あ、そうだったそうだった。

 他の連中は、俺にはスキルが無いって思ってるんだった。


「あったんだよ。【無】ってスキルが」

「【無】……!?」


「ああ。無がつけばほぼなんにでもなれるスキルだ。俺は【無】を【無傷】に進化させた」


 必中必殺で攻撃された瞬間、俺は【無傷】を発動。

 傷を瞬時に無かったこと、つまり、治療したのだ。


「必中必殺は防御をさせないだけ。治療は別だ」

「つ、つまり心臓ぶち抜かれた瞬間に同時並行で治癒を行っていたってことか!?」


「そういうことだよ」


 まあ、多少痛かったがな。

 でも、そんだけだ。


 しかし知見を得た。

 聖武具の固有スキルは、俺に効く。

 聖武具は俺に攻撃ができるが、【無傷】で無かったことにできる。


 うむ。いい学びだ。


「さて……おまえの自信の源は、今俺の手にあるわけだが?」


 すると味噌川みそがわが俺の前で土下座してきた。


「すみませんでしたぁあああああああああああああああああああああああ!」


 味噌川みそがわは頭を地面にこすりつけながら言う。


「調子乗ってすみませんでした、松代まつしろ……いや、松代まつしろ様ぁ!」


 松代様、か。

 ずいぶんと調子の良いやつだ。


「あなたに敵対する気はございません! なにとぞ、お許しを!」

「ふむ……敵対する気はない?」


「はい!」


 なるほどねえ……。

 俺は笑顔で言う。


「でもおまえ、俺を槍で串刺しにしたよね?」

「あ、あれは……その……」


「敵意が無い? 嘘つくなよ。おまえ、どうせ槍をどうにかして取り戻して、後ろから突き刺すつもりだったんだろ」

「!?」


 やはりな。

 ったく、ほんとわかりやすいやつだ。


「それにね、もう許すターンは終わってるの。おまえは俺の忠告を二度も無視したじゃんか?」


 俺はしゃがみ込んで、右手を味噌川みそがわの頭に乗っける。


「さ、拷問スタートだ。……【無間地獄】」


 瞬間……。


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

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