第33話 元クラスメイトとの再会



 俺は賢者の元で超パワーアップして、憤怒の巨人も瞬殺できた。

 で、だ。


「さて……ようやく外に出れるな」

「はいダーリン♡ 質問があります!」

「なんだ?」

「外に出て、これからどうするのです?」

 

 エリスには今後の方針を語ってなかったな。


「女神のもとへいって、ぶっ殺す」


 俺には【無】を使い、とあるスキルへと進化させることで、神を絶対に殺すことができる。 だが。


「問題がある。女神の居場所だ」


 俺を廃棄したくそったれ女神がどこにいるのか。

 大賢者ジョン・スミスなら知ってるかと、彼の知識に期待したのだが……。


「ジョン・スミス様でも知らなかったんですね」

「そのとおり。まあ、あいつは女神に目障り判定されて、地下に閉じ込められ、一生を終えてしまったからな」


 女神の居場所を探そうと思ったときには、地下暮らしを余儀なくされていたのだ。

 だからまあ、しょうがないっちゃしょうがない。


「じゃあ、手がかりゼロの状態で、女神の居場所を探さないといけないんですね」

「まあ、ないことはないんだ、手がかり」

「なんとっ! 手がかりっていうのは?」

「ああ、そりゃな……」


 そのときだ。


「エリス。敵がこの部屋に入ってくる」


 魂を感知し、敵の接近に気づいたのだ。

 最近は妖刀のアシストなしでも魂を感じ取れるようになっている。


 俺が人の道を踏み外したからだろう。


「冒険者ですか?」

「わからんが、最下層までこれるってことは、かなりの手練れだろうよ」

「なるほど、さすがですダーリン。鋭い洞察力……素敵♡」

「のろけるのはあとだ」

「後でならイチャイチャしていいんですねっ」

「まあそういうことだ」


 エリスが真面目な顔になる。

 そして、そいつが入ってきた。


「ふぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。とぉっちゃーく!」


 ……その声に、俺は聞き覚えがあった。

 入ってきたのは、チャラそうな顔つきの男だ。


「はは……!」


 俺は知らず笑ってしまった。


「ダーリン? どうしたの?」

「いや……くく。俺は付いてるなぁって思ってな。飛んで火に入る夏の虫とかこのことだな」

「とんで……?」


 まさか、望んでいた【者】が向こうから転がってきたんだからな。

 そう……この部屋に入ってきた、者。

 最高位ダンジョンの、最下層までたどり着けるほどの、手練れ。


 選ばれた人間しかここにはこれないだろう。

 そう……たとえば、女神に選ばれて、この世界に呼び出された【転生者もとくらすめいと】とかな。


 さてどう料理するか。

 変装は……しなくていいな。とりあえず、真正面からぶつかって、どれだけ通じるか試したい。


「よぉ、【味噌川みそがわ】」


 部屋に入ってきた男……味噌川みそがわに向かって俺は言う。

 味噌川みそがわは俺を見て首をかしげる。


「はぁ? なんだてめえ……」


 味噌川みそがわは仲間を連れていた。

 全員女だった。


「勇者様ぁん? だーれこの小汚いガキ」


 エリスがむっ、と顔をしかめる。俺を馬鹿にされたからだろう。


「……エリス。俺が良いって言うまで動くな。良いな?」

「OK」


 短くエリスが答える。

 そこからすごく怒ってるのが伝わってきた。イライラした顔をしてる。が、俺の言うことをきちんと聞いてる。忠犬、という単語が俺の脳裏をよぎった。


「俺を忘れちまったのか? 酷いじゃないか。元クラスメイトだろう? 勇者・味噌川みそがわ」 


 すると味噌川みそがわは俺を見て、目をむく。

 

「おいおい……おいおいおいおい! マジかよ……」


 味噌川みそがわの顔が変化する。

 驚きから……そして、嘲笑へと。


「ぎゃは! ぎゃははははは! ええ? まさかFラン勇者の松代まつしろ 才賀さいがじゃね?」


 こいつが馬鹿笑いするのは当然だ。

 俺はFランク……最低ランクの勇者なんだからな。こいつらから見たらな。


 しかし……バカはおまえだよ。

 俺は女神に廃棄させられた。死んだはずの男が、生きてる。どう見たっておかしい。


 おかしい、異常な事態に直面してる。だというのに、こいつは未知おれを馬鹿にしてきたんだ。

 ああ、駄目だこいつ。


「勇者様ぁ? こいつだーれ?」

「くく……こいつは、元クラスメイト。同郷さ。でも雑魚過ぎて勇者になれず、女神様に捨てられた、雑魚野郎だよ」


 なんだ、と味噌川みそがわの仲間たちも俺を見下してくる。


「なーんだ雑魚かぁ」

「【勇者軍】にも入れない雑魚勇者なんですねぇ」


 ……勇者軍、か。

 俺の知らない単語が出てきたな。くく……。いいぞ、いいぞ。


 まさに俺の望んだ展開になってきたじゃないか。


「……エリス」

「なにダーリン。今……すっごく怒ってるですが、私。あの女どもに」


 味噌川みそがわの取り巻き女どもも、俺を馬鹿にしてきてたからか。

 エリスはぶち切れていた。でも俺の言うことをちゃんと守っている。


 いい女だ。


「……エリス。俺は今から、いや、これからも、結構酷いことをしていく。そんで、多分だがお尋ね者になっちまうだろう」


 あいつら、勇者軍といっていた。

 単語の意味から察するに、味噌川みそがわたち勇者は集まって組織として動いてる気がする。


 俺がすることは、勇者軍に楯突く行為。

 勇者に反する行為、つまりは外道に手を染めることになる。


「ここは分水嶺だ。エリス。俺は多分外に出て、追われる身となる。それでも……」


 するとエリスは微笑んで、俺に唇を重ねてきた。


「「「は!?」」」


 味噌川みそがわと取り巻きたちが驚いてる。

 だが、そんなのどうでもよかった。


 エリスが唇を離し、笑顔を浮かべて、そしてうなずく。

 ……言葉は要らなかったな。


 今のキスだけでエリスの覚悟が伝わってきた。

 俺のそばにいてくれるって。


 ……ありがとう、エリス。


「愛してるよ」

「えへへ♡」


 ……さて、と。

 じゃあ、遠慮無くやっちゃいますかね。


 ぽかんとしてる味噌川みそがわに、俺は近づく。


「おい味噌川みそがわ

「な、んだよ……Fラン?」


 どう見ても強そうな魔法剣士、エリスが仲間にいるっていうのに、このバカは俺をまだFランと見下してるようだ。

 ほんと、バカなやつ。


「おまえ、おとなしく俺に情報を提供する気あるか?」

「はぁ? 情報を提供?」

「ああ。俺はおまえら、勇者軍? だっけ。全然知らないからよ。勇者軍の情報、おとなしく教えてくれないか?」


 俺はにやっと笑う。


「おとなしく情報を提供してくれるんだったら、おまえを見逃してやるよ」


 俺は別に快楽殺人鬼……無差別に人を殺すイカレた人間じゃない。

 俺の目標はあくまで神殺し。俺をこのくそったれた地下に捨てた、女神をぶっ殺すこと。


 そのための情報をくれるのであれば、まあ、命だけは助けてやろうかなと。


 しかし……。


「ぷ! ぷぎゃははははは! なーに調子乗っちゃってるのぉ? えぇ? Fランよぉ~!」


 ……味噌川みそがわのバカは今もなお、俺を見下してるままのようだ。


「おれはBランク勇者! レベルはなんと……驚異の640!」

「なっ!?」


 ば、バカな……。

 640……だと……?

 そんな……。


「どうだ恐れ入ったか? この世界、3桁言ったら英雄クラスなんだぜえ? ぎゃはぎゃは!」

「はぁ~………………」


 まさか、現地人エリスよりもレベルが低いとは。

 勇者が聞いてあきれるぜ。


「んでぇ? Fランくんのレベルはいくつかなぁ~? どうせ1とかだろぉ?」


 ……はぁ。

 ほんと、バカだなこいつ。


「なあ勇者よ。おまえには鑑定スキルがあるんだろ?」


 大賢者ジョン・スミスも転生者だった。

 彼の知識によると、転生者には特典としてアイテムボックス、鑑定スキル、そして……固有武器が与えられるという。


 鑑定持ちのくせに、こいつは未知に対して鑑定をつかってない。

 この時点で、味噌川みそがわは鑑定スキルを軽視してるのがわかる。


「試しに俺のレベルを、鑑定してみろよ? これは、最後通告。俺の温情だ」


 やろうと思えば俺は一瞬でこいつを消し炭にできる。

 が、まあ……さっきもいったが俺の大目標は神殺しだ。


 こんなくそ雑魚殺したところで、何の利益にもならん。

 おとなしく情報を提供するんだったら、まあ殺さないでやってもいいかなっておもった。


 が。


「……てめえ、調子乗るのもいい加減にしろよ」


 どうやら味噌川みそがわは、ほんとのほんとうに、バカだったらしい。


「元クラスメイトのよしみで、ちょーっと優しくしてやりゃ、つけあがりやがって」


 エリスは首をかしげながら言う。


「え、どこが優しかったの?」


 純粋な疑問だったのだが、味噌川みそがわはそれを聞いてカチンときたのだろう。


「もういい殺す。女ごと、殺してるよぉ!」


 味噌川みそがわは腰の剣を抜く。

 いかにも高そうな剣だ。が、こいつは神から与えられた固有武器じゃないだろう。


 武器があまりに貧弱すぎる。


 俺はエリスを見やる。

 彼女は武器を手にしていない。俺をまっすぐに見て、うなずく。


 加勢しなくて大丈夫だよね、と。

 もちろん、と俺はうなずいて見せた。


「ふぁいと!」


 ……ほんと、いい女だぜエリス。

 あとでたっぷり愛し合おう。


 味噌川みそがわは剣を抜いて、こっちに駆けだしてきた。


「ひゃっはー! おれに楯突いたのがわるいんだぜえ!」

「!? まさか……そんな……」


 味噌川みそがわ……。

 レベル640もあるのに……。


 おまえ、遅すぎないか?

 全く身体強化せずツッコんできてる。


 え、嘘だろ?

 さすがにギャグだよな?


 めちゃくちゃのろい。

 これもしかして……あえてか? いや、そんなバカな。


「ひゃはっは! 死ねぇえええええええええええええええ!」


 味噌川みそがわが俺の脳天めがけて、剣を振り下ろした。

 かつーん!


 ……情けない音を立てて剣がおれてしまった。


「ふぁ!?」

「ふぅ……」


 驚く味噌川みそがわ。一方で俺は失望のため息をついた。


「まあ、Bラン勇者じゃ、こんなもんか」

「ど、どうなってんだ!? え!?」


 俺は拳を握りしめる。

 武器も、スキルも使わない。

 

 純粋なる腕力をもって、俺はお相手してやる。


「交渉決裂だな」


 俺は拳を握りしめて、思い切り、味噌川みそがわの腹部にパンチを食らわせた。

 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


「がはっ!」

「「「勇者様ぁ!?」」」


 味噌川みそがわのあほはぶっ飛んで、迷宮の壁に埋まってしまった。


 ……軽い。軽すぎる。

 

「な、なにぃ……? なにが……いったい、なにがおきてぇ……?」


 俺は味噌川みそがわに悠然と歩きながら言う。


味噌川みそがわ。おまえが悪いんだからな。おまえは、俺の忠告を二度も無視した、おまえが」


 壁に近づきながら俺が言う。


「鑑定、してみろよ」

「か、鑑定……」


 すると味噌川みそがわの顔が、驚愕に変わる。


「な、なんだよぉ!? この……イカレタ、ステータスはよぉ~~~~~~~~~~~~!?」


 やっと気づいたか、間抜けが。


「さ、勇者様」


 にこっ、と俺が笑う。


「拷問のお時間です」

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