第32話 超強化した体でボス瞬殺



 俺から大事な女の命を奪った存在、憤怒の巨人。

 こいつと再開したとき、俺は怒りを抱くかと思っていた。


 だが、実際には違った。

 目の前に居るこいつがもう、ただのカカシ位にしか見えなかった。


 俺の新技の実験隊になってくれる、カカシ。


「エリス。おまえは手を出すなよ」


 エリスが微笑んでうなずく。

 その顔に恐怖の色は全くなかった。


「OKですダーリン! ふぁいと~♡」


 こいつは死ぬような怖い思いをしたというのに……全然今恐怖を難じていないように見えた。

 俺が勝つ。


 ただそれだけを、心から信じてくれてるようだ。

 ……ああ、やっぱり俺はこいつのことが好きだ。


 俺のことを心から信頼してくれる、この女の子とが、好きなんだなって再認識させられた。

『GIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 さて、憤怒の巨人が吠えてやがる。

 ふん、バカが。おまえがどれだけ吠えようとな、今の俺には子犬が虚勢を張ってるようにしか見えないぜ。


『GIGAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 俺の左目が、とあるビジョンを映し出す。


 ――熱線を俺めがけて放つ。


 俺はやつが熱線を放つ前に、たんっ、と横に軽くステップ。

 ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 俺のたっていた場所に熱線が当たり、穴が開いてる。


『GIGA!?』

「どうした、でくの坊?」


 こいつと、俺が殺したやつが同一人物かは定かではない(そもそも人じゃないが)。

 それでも、こいつは自分の熱光線に自信があったのだろう。


 すさまじい早さでかつ、人間を一瞬で蒸発させるレーザーだもんな。

 まさに必殺技だ。が。


「おまえの攻撃なんぞ、この【妖精眼】があればいくらでも避けられる」


 特級呪物・妖精眼。

 俺の左目にすんでいる妖精が、MAXで5秒先の未来の映像を教えてくれる。


 魔力量を調整すれば4秒とか3秒とか、短くすることも可能だ。

 デメリットとしてこれを使うことで、視力を徐々に失っていくというものがある。


 が、無毒を持つ俺にはそのデメリットを帳消しできる。 

 ただで未来予知の力が手に入ったようだもんだ。


『GIGAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 憤怒の巨人は狂ったように熱線を放ちまくる。

 だが俺はそのすべてをステップで避けて見せた。


 特級呪物・【韋駄天】。

 俺の両足に装着されてるブーツ。


 こいつを装着すると内側から杭が出てきて、足は串刺しになる。

 そして超高圧電流が流れることで、超人的な脚力が手に入る。


 デメリットはシンプルに激痛を感じるというもの。

 だが、俺はまたそれを別の呪物で痛みを軽減しているのだ。


「すごいよダーリン……! 妖精眼で敵の攻撃を予期、韋駄天のスピードで全部それをかわしてる……! もうだれも、ダーリンを傷つけられないね!」


 相手の攻撃を回避しまくると、さすがに相手の魔力が切れたのか、ビームを撃ってこなくなってきた。


『GIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 今度はそのご自慢の巨体から繰り出される、強烈な拳の一撃を放ってくるようだ。

 妖精眼で先読みしてるので、何も驚きはしない。


「美味いもん食わせてやるよ」


 俺は左腕に巻いてる呪符を取り外す。

 黒い獣の腕が解放される。


 左手を広げると、腕が巨大化する。

 禍々しい黒い左腕は大きく広がり、そして巨人の腕をつかむ。


 そして……グシャッ!


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 俺の左腕が敵の腕をにぎりしめ、そのまま捕食したのだ。

 黒獣の左腕は対象をつかむことで、あらゆるものを食らうのだ。


「このまま一気に食い散らかしても良いんだが……まあ、俺はおまえほど悪趣味じゃないんだ。一撃で、あの世に送ってやるよ」


 俺は左腕を元の大きさに戻す。

 そして、右手を前に突き出す。


「使わせてもらうぜ、ジョン・スミスのじいさん。【創造魔法:対戦車ライフル】!」


 右手のひらから、ばちっ、と雷光が発する。

 光はどんどんと大きくなっていき、やがて一つの形を取る。


 巨大な、ライフルだ。

 現実にも存在する対戦車ライフルを、俺が作り出したのである。


「これが……大賢者様の究極魔法、創造魔法ですね!」


 エリスが興奮気味に言う。

 さすがエルフの魔法使い、この魔法をよく知ってるようだ。


「そう。頭の中で想像したものを、現実世界に作り出す魔法だ。作り出す物の構造が複雑であればあるほど、魔力を消費する」


 するとエリスが心配そうに尋ねてくる。


「それ、ダーリンの世界のすごい武器ですよね? そんなの作ったら魔力切れで倒れちゃうんじゃ……」

「心配するな。今の俺には魔力切れなんて関係ない。俺の体内に仕込んだ特級呪物……【魔血腫セカンド・ハート】のおかげでな」


魔血腫セカンド・ハート?」

「こいつは心臓に規制する第二の心臓だ。血液から魔力を無限に生成する」


「す、すごい……! って、いやいや! 血液から魔力を生み出すって、それじゃ今度は貧血になっちゃうよ!」

「そこで、【無】を進化させてできる、新しいスキル【無尽蔵】を使う」


「む、無尽蔵……?」

「発動すると、【魔力以外】という制限があるが、【己が触れてるものの数の制限】を無くす……つまり、【無限に増殖させる】っていう効果があるんだよ」


 この触れているもの、という解釈を広げ、体内にある血液を対象とすることに成功した。

 結果。


「俺の体内から生み出される血液は、【無尽蔵】の効果で絶対になるくなることはない。で、魔血腫セカンド・ハートの効果で、血液から魔力が生成される。つまり……」

「!? む、無限に魔力が生成されるってこと!?」


 そのとおり。


「す、すごすぎるよダーリン! 【無】と呪物のコラボで、とんでもない超人になってますよ!」


 そう、俺は今、無限に魔力を生成し、全身に特級呪物を仕込んだ……最強、否、最凶の存在となっているのだ。


「だから……ま、悪いな。巨人」


 俺は対物ライフルを左腕で軽々持ち上げる。

 黒獣の左腕は、触れたあらゆる物を食らう。


 が、俺は黒獣を飼い慣らす(コントロールする)ことで、【黒獣は俺を食えない】という縛りをもうけた。

 この銃は俺から生み出した物、俺の分身、つまり俺。総解釈することで、対戦車ライフルを左手で持っても、こいつを食らうことはない。


 で、なんで左腕で持ったかって?

 左腕は人外の腕。つまり、人間を超越した腕力を持っている。


 どれだけ反動のでかい一撃を放っても、それに耐えうるだけの筋力があるのだ。


 ばちっ!

 ばちばちばちばちっ!


 対戦車ライフルに、超磁力でありったけの電気をためる。


「悪いな、憤怒の巨人。まえはおまえにすごい苦戦していたが……もう俺もおまえも立場が変わったんだ」


 磁力がライフルに極限までたまっていく。

 一発放てば、ライフルは粉々に砕け散ってしまうだろう。 

 だが問題ない。何度も想像魔法で作れば良いのだ。


『GIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 憤怒の巨人はあろうことか、マグマから出て、尻尾を巻いて逃げていく。


「巨人が逃げていく!」

「やつもわかってんだろうな。この一撃で、木っ端みじんに消し飛んじまうことが」


 限界まで超磁力をためた対戦車ライフルから放たれる……。

 超強力なレールガンによる一撃。


 俺はトリガーを引いた。

 ズガガガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!


 ライフルは砕け散り、けれど俺の命令に従い、敵を破壊する一撃を放つ。

 超レールガンともいえるそれは憤怒の巨人を丸ごと消し飛ばした。


 それだけじゃあきらたらず、迷宮の天上を破壊し……そして……。


「て、天上に……穴が……あわわわ……」


 堅いとされてる迷宮の天井にも穴を開けてしまった。

 そして、ついでといったかんじで、俺たちを苦しめた迷宮主ボスモンスターを瞬殺してしまった。


 ま、今の俺ならこれくらいはたやすい。


「だ、ダーリン……今、レベルどれくらい……?」

「さて、な。今の俺に、女神が定めたレベルなんて、俺に適用されないからな」


 俺はステータスを開くと……。


~~~~~~

松代まつしろ 才賀さいがサイガ

レベル:jh4qtp:お6hlt¥4@「6ht

HP 測定不能

MP 測定不能

攻撃 測定不能

防御 測定不能

知性 測定不能

素早さ 測定不能

~~~~~~


 レベル、そして……ステータスの表記がイカレてやがった。

 特級呪物を取りこみすぎたせいで、人間じゃなくなったようである。


「ダーリンっ♡」


 すかさずエリスが俺の【左手を】握ってくる。

 すべてを喰らう、黒獣の手を。


 しかし黒獣は、エリスを食らうことはない。

 ……黒獣には【俺を食うな】と縛りをもうけている。


 エリスは俺にとって、もう半身。

 もう一人の俺に等しい存在。だから……黒獣はエリスを食わないのだ。


「ダーリンは人間だよ。私が、保証します!」


 ……ったく、このあほエルフは。

 どうして俺の欲しいときに、俺の欲しい言葉をくれるんだ。


 俺はぽんっ、とエリスの頭をなでる。


「おう。じゃ、外行こうぜ」

「はいっ!」


 こうして、人外となった俺は、ダンジョンを出るのだった。

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