第23話 vsボス【憤怒の巨人】



 俺たちは高難易度ダンジョン、【七獄セブンス・フォール】ってところにいる。

 妖刀曰く、世界に七つある、高難易度ダンジョンの一つらしい。


 ここは七獄セブンス・フォールのうち、【憤怒の迷宮】って場所なんだそうだ。

 で、だ。


 俺たちが迷宮主ボスモンスターの部屋に入ると、まず感じたのはすさまじい熱気だ。


「あっつ……」

『溶岩ステージだな、これは』


 俺たちの眼前にはマグマのため池があった。

 マグマの上には、いくつか足場となる岩が浮いている。


 俺たちはマグマから離れた場所にいるというのにかなりの熱い。


『部屋の内部は縦にも横にも広い、円形ホールとなっているな。ただ、中央に楕円状のマグマのため池がある。奥へいくためには、あのマグマの池を横断する必要があるが……』


 妖刀が解説してる最中……そいつは来た。

 ボコ……! ボコボコボコ……!


 マグマの表面に泡が浮き始める。

 なにか、マグマの中から出てくるように感じた。

 

 エリスの表情がこわばる。が、腰のエクスカリバーを抜くと、すぐに武人の顔つきになった。

 頼もしい限りだ。


 マグマの表面がゆっくりと、隆起していく。

 それはまるで潜っていた何かが、外に出てきたかのようだった。


 ドバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 マグマの中から現れたのは……。


「でけえ……」

「巨人……ですね……」


 マグマの巨人、そう表現するほかない、バケモノだ。

 全身がマグマでできている。異様に腕が長い。

 目と口は存在するが、耳も髪の毛もない。


 巨人のサイズは正確にはわからない。少なくとも仰ぎ見るほどのでかさはあるな。

 そして、巨人は上半身のみマグマから出ている。


 ……上半身だけで、このでかさかよ。


「すぅ……ふぅ……」


 俺は気づけば冷静に、獲物を見ていた。

 今から俺はこいつを……狩る。先ほどまであったおびえはもうない。


 俺にあるのは、こいつを倒すという気持ち。

 倒し、喰らい……そして、地上へ行く。


 俺の目標はぶれない。

 ここを出る。こいつを倒す。

 そして俺を捨てやがった神に、復讐すること。


「エリス、びびってないか?」


 部屋に入る前、びびっていた自分が何を言ってるんだと妖刀にツッコまれそうだった。

 が、妖刀は黙っている。


 エリスはニコッと力強く笑う。


「はい! ダーリンがいますので!」


 エリスが向ける全幅の信頼が心地よい。アアやっぱり俺は……。


「ダーリン。この戦いが終わったら、改めて、言いたいことがあります」

「……なんだよ、今言えよ」


「いえ! こいつを片付けたらです!」

「……そうかい。俺も、ここを出たらおまえに言いたいことある」


 おまえが、好きだってな。


「では、サクッと倒してしまいましょう! 気軽に!」

「ああ! そうだな!」


 不思議と俺に恐怖は無かった。

 準備はしてきたのだ。あとは……積み重ねたもので、この邪魔者を倒すだけだ。


『GIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』


 マグマの巨人が吠える。

 人というより獣の鳴き声に近かった。


『ふむ……この魔力の感じ。どうやら憤怒の魔王の眷属のようだな。さながらこやつは、【憤怒の巨人】といったところか』


「憤怒の巨人ね……」


『うむ。気をつけるのだぞ、サイガよ。こいつの強さは、ランクで言うとSS級。今までおまえ様たちが倒していたSランクモンスターの、さらに上をいく存在。ヒドラのように楽に倒せる敵では無いぞ』


 わかっている。

 だから、準備をしてきたのだ。


 俺は特殊弾を装填する。


「開幕からぶっ放すぞ!」


 俺は幸運銃トリガー・ハッピーをかまえて、やつの心臓部めがけて放つ。


「【虚無】を付与した弾丸……【虚空弾】!」


 ズドンッ……!

 放たれた弾丸は憤怒の巨人めがけて飛んでいく。


 虚空弾は虚無……すなわち、周囲にあるものを吹き飛ばすスキルを付与した攻撃型特殊弾だ。

 当たれば周囲一帯を消し飛ばす。


 効果範囲がでかいからなかなか地下では使えないし、消費MPもバカにならない。

 ここへ来る前に、事前に作っておいた特殊弾のひとつ。


 さて、効果は……。


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 憤怒の巨人の【手前】で、ブラックホールのようなものが発生。


「やりましたね!」

「いや、駄目だ」

「え?」


 ブラックホールが消えると……巨人の右半身が吹っ飛んでいた。くそ!


「十分効果ありじゃないですか?」

「あいつの全身を丸ごと消し飛ばす予定だった。が、虚空弾はあいつの手前で発動したんだ!」


 通常、虚空弾は相手にぶつかって、そこで発動する仕組みだ。

 しかし今回巨人の手前で効果を発揮した。


『おそらく憤怒の巨人が発する熱波で弾丸が阻まれたのだろうな』


 相手の体に着弾する前に、虚空弾が発動した。

 結果、相手を丸ごと吹き飛ばすはずが、右半身のみにとどまったということだ。


「で、でも半分消し飛ばしたから十分じゃ……?」

「見ろ! 再生してやがる!」

「再生!?」


 巨人の右半身が元に戻っていく。

 正確に言うと、腰元のマグマを吸収して、それで失った部位を再生していた。


 再生持ちのバケモノ……さて、どう倒すか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る