第21話 無自覚に伝説級のアイテムを作る



 レールガンを完成させ後……。


「さ、ダーリンすぐに出発しましょう!」


 ふがふが、とエリスが鼻息荒く言う。


「何興奮してるんだおまえは?」

「だって、ダーリンからもらったすごい防具を、試したいんですもの!」


 防具を試すって。

 あほか、防具の性能が発揮するときって、相手から攻撃を受けたときじゃないか。


 こいつは攻撃を受けたがってるのか?

 バカか。まったく。怪我したらどうするんだよったく……。


『エルフ女への愛情であふれてるぞ、おまえ様よ』


 黙ってろ。

 ったく……。


「まあ少し待て。もう少しで完成するから」

「そういえば何か作ってましたけど……何を作ってたのですか?」


 エリスが俺の真横に、ぴったりと寄り添うように座る。

 距離……ちか……。


 まあいいか。

 避けてもひっついてくるだろうし。


「新しい特殊弾だ」

「たしか、ダーリンの【無】スキルを付与した、特別な弾丸でしたね」


 俺の持つ【無】は、様々な能力に進化させられる。

 だが、それだけじゃないのだ。


 相手にその【無】で得られる恩恵を付与できること。

 そして……弾丸をストックできること。


 そう、何も戦闘中に能力をわざわざ弾丸に付与しなくても、戦いの前にこうして準備しておくこともできるのだ。


「今やってるのは、特殊弾のストック作りだ。たとえば、これ」


 俺はエリスの手のひらに、弾丸をのせる。


「おまえ、これを持って魔法使ってみろ。なるべく、詠唱時間の長いやつ」

「わかりましたっ!」


 ほんとに素直だなこいつ……。

 詐欺とかに引っかからないだろうか。心配だ……。


「では、上級魔法、火炎連弾バーニング・バレットを使ってみます!」

「おう」


 さっき鎧に対して使っていた、上級の火属性魔法だ。


 結構長い詠唱が必要だったのだが……。


「あ、あれ!? ま、魔法がもう……発動します!」


 エリスが詠唱にとりかかろうとすると、すぐに魔法が完成したようだ。

 手の前にあのでかい魔法の球が出現。


 そこから、無数に分裂する火炎の弾丸が射出される。

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 ぽかーん……とするエリス。

 

「上手くいったようだな」

「だ、ダーリン!? どうなってるんですか!? 詠唱せず、上級魔法が使えてしまいましたが!?」


「特殊弾……【省略弾】の効果だよ」

「しょーりゃく……だん?」


「ああ。俺は弾丸に、【無駄】のスキルを付与したんだ」


■無駄→任意発動型。消費MP900。


「無駄を使うと、必要なものを、無駄なもの、【不必要】にできるようになる」

「お、おぅ? ダーリンむずかしいですよぉ~……」


「まあ聞け。魔法の使用には呪文の詠唱が必要だ。無駄スキルを使うと、この呪文の詠唱、って必要なパーツを不要、つまり使わなくても発動できるようになる。つまり、省略が可能となる。と、ここまでは?」

「うう~……なんとか~……」


 無駄は、使い方によっては結構応用が利く気がする。

 だが、今のところ実践で使えそうなのは、魔法詠唱を省略することくらいだ。


 ここは、要検討だな。


「省略弾をいくつか作っておいた。とりあえず6コ分だ」


 ぽいっ、とエリスに弾丸を渡しておく。


「ダーリン……あの……これ、ものすごい発明品ですよ! すごいですよ!」


 また出たよ。

 すぐこいつすごいって言うんだもんな。


「本当にすごいんですっ。なぜなら……魔法詠唱の省略、詠唱破棄は、超絶難しい技能なんです」

「ほー……」


 ほんとか?

 ネット小説だと、結構魔法使いは、バンバン詠唱を省略してたぞ?


「魔法発動には詠唱が必要。これは絶対不変の、この世界のルールなのです。熟達した魔法使い、しかも才能のある人が、長い長い修練をつみ、ようやく、呪文を【短縮】することはできるんです」

「なるほど、短縮はできても、完全にカットすることはできないんだな?」


「はい。しかも、使う魔法の難易度があがればあがるほど、短縮は難しくなります。文献だと中級魔法を短縮できた魔法使いがいた、とあります。が、上級以上で短縮した人は……いないです」


 ……なるほど。

 そうやって聞くと、俺の作った省略弾は結構すごいアイテムに見えてくる。


 そもそも呪文詠唱はカットできないのに、この弾丸があれば、カット可能となるんだから。

「ダーリン……これは真面目な話なのですが。外に出たら、あまり手札は見せない方が良いですよ。ダーリンの使う技術は、どれもこの世界では規格外なものがおおいです」


「マジか……」

「ええ」


 なるほどな……。


「外に出たら、外部との交渉は私に任せてください」

「いいのか? なんか悪いな」

「いえっ♡ あなたのために何かするの、すごくうれしいですのでっ!」


 まあこの世界のことを熟知してる存在が、やりとりした方が、後々面倒ごとが無くてらくそうだ。

 エリスに任せるとしよう。


『ふふふ……あははは!』


 妖刀がなんか笑い出したぞ。なんなんだよ。


『おまえ様よ、外に出た後も、この女と行動を共にするつもりなのだな?』


 そりゃ……まあ。

 便利だしな、こいつ。


『そうか……。我はてっきり、外に出たらもうこの女を捨てるのかとおもった』


 んなことしないって。

 それにしても、なんでさっきは笑ったんだ?


『おまえ様も、そしてそこのエルフ女も、この先もずっと行動を共にすることを、ナチュラルに承諾してるのがな』


 あ……。


『もうお互い、そばにいるのが当たり前と思ってるのだな。相思相愛ではないか』


 ………………。

 そうだな。認めよう。俺は……エリスにこれからもそばに居たいと思ってるよ。


『おお! ではすぐ告白しろ』


 うるせえ。


『なんだ照れてるのか?』


 やかましいわ。


「ダーリン? どうしたのですか?」

「……なんでもない。ここを出ても、よろしく頼むぞ」

「はいっ! もちろんっ! ぬへへ~♡」


 いつも通り、エリスがだらしない笑みを浮かべる。


「ダーリンと片時も離れず、死が二人を分かち合うまで、ずっとよろしく頼むって言われてしまいました~♡」


 ……言ってない、と不思議とツッコむ気にはなれなかった。

 これからもずっと、そばに居て欲しいとは思ってることだからな。


『きちんと言葉にして伝えないのか? おまえが好きだ、ずっとそばにいてくれと』


 まあ、いずれ言うよ。


『……そうか。今言わなかったことを、将来後悔しないようにな』


 普段俺をおちょくることしか、してこない妖刀が……このときは珍しく、善意でアドバイスしてきてるように感じた。

 が、結局俺は照れてしまい、エリスに思いを告げられなかった。



 

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