第20話 レールガン獲得




 デュラハンを討伐した。


 正確にいうと、デュラハンに擬態した、『さまようよろい』って魔物だったことが倒した後に判明した。


 どうやら電気を発する鼠が、鎧を動かしていたらしい。

 この鼠を食べたことで、俺は新しいスキルを獲得した。


「ダーリンダーリンっ♡」


 あほエルフは今日も俺に対して、好意と♡を飛ばしてくる。

 最初はうっとうしいと思っていたが、最近は気にならなくなっていた。


「なんだよ、エリス」

「ダーリンからもらった軽鎧、すごいってことが判明したんです!」

「ほぅ、どんなもんだ?」


 エリスはちょっと離れたところに胸当てを置く。


「見ててください!」


 といって、エリスは呪文詠唱をする。

 結構長い詠唱の後、


火炎連弾バーニング・バレット!」


 エリスの正面に巨大な火の玉が出現。

 火の玉が分裂し、それが雨あられのごとく、胸当てめがけて飛んでいく。


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 マシンガンのごとく火の弾が撃ち込まれた。

 1発当たるごとにかなり大規模な爆発を起こしていた。かなりの威力だ。


「今のはなんだ?」

「上級火属性魔法、【火炎連弾】です!」

「ほぅ、上級魔法を披露して、いったい何が言いたいんだ?」

「うふふ、あれをご覧ください!」


 びし、とエリスが鎧のあった場所を指さす。

 置いてあった岩はドロドロに溶けていたのだが、その上に載せていた鎧は無事だった。


「ダーリンからもらった鎧、上級魔法の直撃を受けても壊れてないんです! 傷一つついてない! すごい!」

「ほぉ……すごいのか?」


「はい! だって、上級魔法は、古竜のうろこを破壊するくらいの威力があるんですよ?」


 なるほど、つまりあの鎧は古竜以上の固さを持っている、ってことか。


「しかもです! この鎧、伸縮性抜群かつ、重さがまるで感じないんです!」

「まあ、正確に言えばそれ、鎧に擬態したブラックウーズだからな」


 金属じゃないため重くないのだ。


「軽く、伸縮性があり、しかも上級魔法を防ぐほどの防御性能! ダーリンが作ってくれたこの鎧、すっごですよぉ~!」

 

 また出た。すごいって。

 おまえのすごいは軽いんだってば、まったく。


『おまえ様、笑ってるぞ?』


 妖刀のあほがツッコミを入れてきた。

 は? う、嘘だろ?

 俺はすぐさま口元を手で隠した。


『嘘じゃないぞ。本当にうれしそうに笑っていた。やはり褒められてうれしいのではないか』


 ……うるせえ。


『エルフ女は待っているぞ、おまえ様が受け入れてくれることを。あとは、少し勇気を出すだけではないか?』


 ……どうにも、こいつは俺とエリスをくっつけようとしてくるな。


『あの女こそ、おまえ様に必要な存在だと思ってな。妖刀より、呪物より……な』


 ……妖刀からはいつもの俺をからかうような感じはしなかった。

 どこか真剣な声音で、そう言った。俺への気遣い? のようなものが感じられた。珍しい。


「ダーリン? どうしたんですか? ぼんやりして」


 すぐ近くにエリスがやってきた。

 ……改めてみるときれいな顔してやがるな。いい匂いもするし。胸もやたらでかいし。


 ……って、だからどうした。


「新しい技を、考えてたんだ。うん。さっきのさまようよろいを食って、新しいスキルを得たからな」


 さまようよろいを食べて、俺のレベルは501となった。

 さほど苦労せず倒したから、気づかなかったが、どうやら思ったよりも強敵だったみたいだ。


「どんなスキルなのですか?」

「【超磁力】」

「ちょー……じりょく?」


 エリスはいまいちスキル効果についてピンときてないようだ。


「対象に電流を付与し、磁石化するスキルだな」


 エリスに手を伸ばし……。


「スキルためしていいか。痛くしないから」

「! は、はいっ! えへへへへ~♡」


 エリスがだらしのない顔をする。

 こいつの尻から犬のしっぽが生えて、ぶんぶんぶん! と振るっているのが幻視できた。


 どうにも犬っぽいんだよな、こいつ。


「なんだよ?」

「スキルためしていいか、って聞いてきてくれたのがうれしくって! 愛を感じます~♡」


 またか。


「おまえ、俺が何をしても愛を感じるとか言ってるな」

「だぁって、本当なんですもの! ダーリンの行動すべてから、私への気遣い、愛情が感じられます~♡ はぁ、しあわせ~♡ ダーリンと出会えてよかったぁ~♡」


 ……ほんと、妙な女だよ。

 だが、俺も自分で、口元が緩んでいることを、自覚できていた。


「さっそくためすぞ。超磁力」


 俺の手のひらから小さな光の球体が照射される。

 

「光の魔法で作られた球体でしょうか?」

「光というか、雷魔法だろうな」

「わ、本当です。表面からぱちぱち電気出てます」


 ふわふわとゆっくり電気球体が飛んでいきエリスの体にぶつかる。

 球体はしぼんでいく一方、エリスの体に電気が付与される。


「前々いたくないです……って、わー! け、剣と盾がくっついてしまいました~!」


 剣と鎧がエリスの上半身にくっついてしまう。

 生体すら磁石に変えてしまうらしい。


「なんでくっついてるんですかあ~!?」

「さぁ、なんでだろうな」

「わーん!」


 ややあって。


「面白かったぞエリス。おまえのあほっぷりが」

「うぅ~。ダーリンのいじわる。でも、そんなダーリンの意地悪な一面も……好き♡」


 こいつのスキの範囲が広すぎてビビるわ。まったく。

 まあそれはさてき。


「超磁力スキルって使い勝手悪そうですね。あの電気の球、結構遅いかったですし」


 エリスの言うとおりだ。

 彼女でなくても、結構簡単に球を回避できそうだ。それくらい、速度がないスキルなのだ。


「はずれスキルってやつですかね」

「それはどうだろうな」


 俺は幸運銃を手に持ち、構える。


「エリス、岩の上に鎧置いてこい」

「はーい!」


 エリスが近くの岩の上に鎧を設置。

 俺は鎧に銃口を向ける。


「超磁力」


 銃を持った状態でスキルを発動。

 電流が銃に流れ出す。


 ばち! ばちばち!


「だ、ダーリン? 何するんですか……?」

「必殺技をためすんだよ」


 電流を流しまくることで銃身が電磁石化する。

 磁力から生じる力を利用して弾丸を高速で打ち出す技術が存在する。


 俺は引き金を引く。

 ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 エリスが思わず耳をふさいでしゃがみ込んでしまう。


「な、なんですか!? 雷でも落ちたんですかぁ!?」

「いや、違う。見てみろ」


 上級魔法でも壊れるどころかひびが入ることすらなかった鎧が……。


「鎧に、大きな穴が!?」


 俺の放った一撃を受けて、鎧には大穴が開いている。


「これぞ、レールガン」

「れーるがん……」


「磁力を利用して高速で銃弾を打ち出す技だよ」


 わざというか、技術というか。

 超磁力スキルは俺にさらなる攻撃力を与えてくれた。


「すごいぞこのスキル。魔力を込めれば込めるほど強い磁場が発生できる」

「…………」


「さらに威力を増すことができるんだ。しかも、【虚無】一発より消費魔力が少なくて済む」

「…………」


「周りに及ぼす影響が少なくて済む分、虚無より使い勝手が……って、なんだよ」

「くすん……」


 な、泣いてる!?

 な、なんでだ?


「ど、どうした?」

「……ダーリンからもらったプレゼントなのに」


 あ……。

 そういやそうだったな。もらったプレゼント、いきなり穴開けられたら、そりゃ嫌だったな。


「す、すまん」

「…………ふふふ♡ ふへ~♡」


 泣いてた、と思ったら今度はにこにこと上機嫌に笑いだした。

 な、なんなんだ?


「嘘ですよ♡ ちょっとダーリンをからかったのですっ」


 こ、この野郎……。

 びっくりさせんじゃねえよ。ったく。

 泣いちゃったかと思って心配……は!


「うふふ~♡ ダーリンに心配してもらえてうれしいですぅ~♡」


 こ、こいつぅ。

 構ってほしかっただけかよ!


「鎧はすぐ直ります。ブラックウーズが擬態してるものなのですから」


 そのとおりだ。

 あれは鎧に擬態したブラックウーズなので、金属を加工するより簡単に元通りになる。


「はぁ~♡ ダーリンの愛をたくさん摂取できました~♡」

「おまえさ……泣くふりもう絶対するなよな。びっくりするから」


「はぁい♡ いやぁ、でもいいもの見れました♡ ダーリンの愛も再確認できましたし~」


 愛愛うるせえなこいつ。

 おさるさんかよ。


「先に行くぞ」

「あ、あ、まってくださいよぅ」


 無視無視。

 先に進む俺……だが、こいつが置いてけぼりにならないくらいに、速度をセーブする。

 隣にやってきたエリスが、ふへぇ、とまただらしない顔をして、俺に「好き♡」といってきた。


 はあ、ったく。変な女だよ。

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