第19話 デュラハンを倒し、嫁に防具を作る



 カエルの揚げ物を食べた俺たちは、ダンジョンを下っていく。


「魔物の数が減ってきてる……?」

「はい。下層へ行くほど魔物の数は減っていきます。ですが、魔物のレベルが上がるのです」


 強い魔物は弱いやつを食い物にするから、魔物の数が減るか。

 逆に弱い魔物たちは上へと追いやられていく、ってわけか。


 しかしエリスはいろいろ知ってて便利だな。

 作る飯も美味いし。


「やん♡ そんなじっと見つめられたら照れちゃいますよぉ♡」

「あ、そう……」


「何を考えてたのですか?」

「何って……いい拾い物したなって」

「えへー♡ そうでしょうともっ。できる嫁さんを拾ってラッキーですね!」

「嫁って認めたわけじゃねえから」


 まあ雑談する程度には、こいつに対する警戒心も薄れてきてる自分がいた。

 が、まだ嫁と認めたわけじゃない。


『くくく、まだ……な』


 妖刀のやつがおかしそうに笑う。

 くそだるいやつだ。

 最近こいつ俺にちょっかい出すくらいの働きしかしてないぞ。おいていこうかな。


『すまんすまん。ほら、敵が来るぞ』


 俺は反響定位で敵の位置を割り出す。

 その動作だけで、エリスは剣を構えて戦闘態勢をとっていた。


「…………」


 この女、普段あほだが、戦いにかけては結構勘が鋭い。

 今も俺が、別に敵が出たといったわけじゃないんのに、きちんと戦いに備えている。


 切り替えの早さはこいつの美点の一つだな。


「ダーリン、敵は?」

「鎧を着こんでいるようだ。それで、こっちに歩いてくる。首がないな」

「おそらくはデュラハンです。首が急所じゃないので厄介な敵です。倒すなら魔法で木っ端みじんにするほうがいいですが、私の知性では発動準備中に敵に接近されます」


 なら俺の【虚無】を付与した弾丸で、一気に吹き飛ばすほうがいいか。

 が、あれは効果範囲がでかいため、閉所ではできれば使いたくない。


「【無事】を付与してセーフゾーンを作る。その間に魔法の準備をしてろ」

「ですが、接近されては、こちらが魔法を撃てません」


 なるほど、近くで魔法を撃つと、俺らに反動でダメージが入るのか。

 セーフゾーンは敵の進入を防ぐだけだからな。


「そろそろ敵がこちらを視認できる距離になりますが、どうしましょう」


 俺が足止めをして、その間に魔法の準備が一番か。

 ……しかし、待てよ。


 首が急所じゃないのであれば、いったいどこに急所があるんだ?

 首がないなら心臓だろうか。


「ダーリン?」

「ああ、わるい。俺が足止め、おまえが魔法の準備だ」


 エリスが魔法の詠唱に入る。

 俺は【無視】、【無音】でステルス状態となり、デュラハンが射程内に入るのを待つ。


 黒い鎧を着た、騎士がふらふらと歩いてきた。

 その手には大きな槍を握っている。


 エリスを視認したのか、がっしゃがっしゃと近づいてきた。


 俺は心臓部をめがけて、幸運銃で狙撃。

 カーぁああああああああン!


 銃弾が鎧にぶつかりはじかれた。

 ……しかし、なんだ? この違和感は。というか、今の音は?


 鎧に当たったって音にしては、高い音がした。

 ……まさか。


「妖刀。魂の位置を教えろ。あの鎧の」

『くく、気づいたようだな。そのとおり。あの鎧には魂がこもっていない』


 ……そういうことか。

 俺はもう一度反響定位を使用する。


 歩く鎧から少し離れたところに、魔物がいた。

 俺はそいつめがけて狙撃をする。


 ズガン!

 だが、魔物はかなり素早く動いたのか、銃弾が急所を外す。


「エリス! そのデカイ鼠をぶっ飛ばせ!」


 俺の銃弾をよけ、魔物が物陰から出てくる。

 ドッジボールくらいのネズミが岩陰から出ている。


 こいつが、鎧を操ってたのだ!

 だから鎧の中が空洞だったのである。


「【業火球フレイム・ストライク】!」


 エリスの放った魔法は目の前の鎧を飛び越えて、ネズミの魔物を直撃した。


「ギィイイイイ……」


 ネズミは悲鳴をあげながらその場で倒れる。

 ガシャン!

 鎧は糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。


「ダーリン、大丈夫!? どこー!」


 俺はスキルを解いて……今気づく。

 そうだ、俺、無視とともに、無音もかけていた。


「ダーリン! 心細かったよぅ~」


 あほエルフが俺に引っ付いてくる。

 無駄にデカイ乳が俺にくっつく。柔らかく、それでいて温かいので、結構心地よい……。

 じゃ、じゃねえよ。


「お、おい離れろ」


 妖刀のやつが隣でニヤニヤしながら見てるような気がした。

 エリスが残念そうな顔で離れる。……ふぅ。


『我のことは気にせずいちゃつけばいいのにな』


 だまれくそ妖刀。


「それより、エリス。おまえ、どうしてあの鼠を狙ったんだ?」


 そう、俺がエリスに向かって、ネズミを狙え! と確かに言った。

 だが、あのとき俺は無視とそして無音を自分に付与していた。つまり、エリスには鼠への攻撃指示が聞こえてなかったのだ。


 するとエリスは得意げな顔で、胸を張って言う。


「ダーリンの声が、聞こえたのです!」

「……は? 無音スキルを使ってるから、聞こえないはずだろ」


「はい。でも聞こえた気がしたのです。ダーリンが、鎧じゃなくて鼠を狙ってって」


 ……なんだそりゃ。


『確かにおまえ様の声は、直接、エルフ女には聞こえてなかったぞ』


 じゃあ、何を聞いたというのだこいつは……。


「えへへ♡ ダーリンと私は以心伝心ってことですね~♡」


 ぎゅー、とまたあほが引っ付いてくる。

 だからやめろって言ってるのだが……。


「…………」


 俺の声が聞こえずとも、こいつは俺の意図を汲んでくれたのだろう。

 銃弾が鎧じゃなくて、別の場所に着弾したところを見て、他に敵がいると。そいつを倒せと。


 ……言葉にせずとも、俺の気持ちが、こいつに伝わったってことか。


『心が通じ合ってるではないか。いいパートナーだと我は思うぞ?』


 ……まあ。

 そこは否定しないよ。強いし、飯も美味いし、俺の意を汲んでくれるし。


「わぁ、固そうな鎧です~。でもぶかぶか~」


 あほエルフが鎧を着ようとしていた。


「おまえ、防具ほしいのか?」

「そうですね。元々私、防具を身に着けてたんですよ。全身鎧じゃなくて、軽鎧ですが」


 そうか、こいつ防具を元々身に着けていたのか。

 モンスターハウスでロスとしてしまったようだが。


 そうか、防具か……。

 装備させておいたほうがいいな。


「ブラックウーズ。鎧を食え」


 黒衣からブラックウーズが飛び出して、鎧を丸ごと食べる。


「エリス。おまえ、何色が好きだ?」


 特に意味のない質問だった。

 

「え!? え、えっと……白と青が」

「ああそうかい」


 ブラックウーズに命令する。黒い粘液がエリスの体にまとわりつく。

 そして、ブラックウーズが形と色を変えた。


「!? こ、これって……鎧?」


 胸や足など、最低限の急所を守るような形の鎧。

 それを、身に着けたエリスが目を丸くしていた。


「ブラックウーズにそこのデュラハンの鎧を食わせて、おまえの体に合うように形を擬態させた」


 防御力はデュラハンから引き継いでるため、見た目よりも高い防御性能を持つだろう。


「だ、だ、え? だ、え?」

「なんだよ?」


 するとエリスが体を震わせると……。


「だーりーん!」


 びょん、と俺に飛びついてきやがった!

 胸が押し付けられ、グニグニと柔らかい感触が!


 鎧で覆われてるはずなのに!

 ブラックウーズでできてるからか? ええい、そうじゃなくて!


「離せあほ!」

「いやです! 私のために鎧をオーダーメイドしてくれたんですねぇ! わーいうれしいです! 感動ですぅ!」


 ……いや、別にこいつのためじゃなくて……。


『認めろよ。おまえ様は、この女の好きな色まで確認して、こいつの体に合う鎧を作ったではないか』


 ……くそ。確かに。こいつがケガしないようにって、思いがあったよ。


「この鎧一生大事にします! ダーリンからいただいた、大切な鎧なのでっ!」


 ……あほエルフは目の端に涙を浮かべていた。

 嬉しくて泣いてるんだろうことが伝わってきた。俺の胸には、確かな満足感が去来していたのだった。

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