第18話 嫁とカツを食べる



 大蝦蟇おおがまを倒したあと……。


「解体完了です、ダーリン!」


 ぴっ、とあほエルフのエリスが敬礼をする。

 

大蝦蟇おおがまからは肉と、あと油をゲットしました! この油が食用なのは、鑑定で確認済みです!」

「そうか。ご苦労さん」


「ふぉおおお~~~~~~~~♡」


 エリスが奇声を発する。

 まあいつものことか。


「なんだよ」

「ダーリンがご苦労さんってぇ~♡ 労をねぎらってくれたのがうれしいですぅ~♡」

「何かやってもらったら礼を言うのは当然だろうが。何いちいち過剰に喜んでんだよバカが」


「えへっ♡ 知性65ですみませんっ♡」


 ……ったく。


「油と肉がとれましたが、どうします?」

「そうだな。まあ……ちょっと動いて腹減ったし、飯にしてくれ」

「はい! じゃあ……えと……揚げ物とかどうでしょう!」


 !

 なんだと……!?


「あ、揚げ物できるのか……?」

「はい! 冒険者の荷物のなかに、パンがありましたのでっ。そこからパン粉を作ります! あと卵も!」


 ……揚げ物。

 こっち来て、全然食ってない……。

 く、くいてええ……。


「作ってくれ」

「はいっ! お任せあれ!」


 うれしそうにするあほエルフ。

 エリスが肉を切ろうとしてたので……。


「待った。おまえ火を用意しろよ。俺が肉切っておく」


 ぽかーんとするあほエルフ。


「んだよ?」

「あ、いえ! ありがとうございます! うれしいですっ♡ えへへへ~♡」


 何がうれしいんだか……。


「やぁ~♡ 愛ですなぁ~。ダーリンからの愛が半端ないですなぁ~♡」

「意味不明だ」


「だぁって、食事の用意、手伝ってくれてるじゃないですか~♡ 全部私にやらせてもいいのにっ!」


 …………。

 ………………ちっ。


 そう言われればそうだな。そうだったな。くそ。


「あ、今からでも私一人でやりますけど?」

「いいよ。おまえは油用意してろ65エルフ」

「また新たなるあだ名がっ! うれしすぎます~♡」


 ほどなくして。

 油の用意ができた。


「ここにパン粉をまぶしたカエル肉を……投入!」


 じゅぅう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。

 ……う、美味そう……。


 ふわり……と油から甘い香りがした。

 蝦蟇の油っていうから、最初はちょっと抵抗感を覚えたが。


「んふふ~♡ もうちょっとですよ~♡ はいできたー! 熱いうちにどうぞっ」


 手際よく油から取り出し、皿にのせて、俺にフォークと一緒に渡してきた。(器具類は冒険者からかっぱらったもの)


 フォークを肉に刺す。

 サクッ……!


「!」


 衣サクサクすぎるだろ!

 これは……美味い。そんな予感がビンビンする。


「いただきます」

「!?」


「あ? なんだよ」

「ううぅうううう……うれしいですぅ~……」


「はぁ?」

「いただきますって言ってくれた……うれしすぎます……」


 ……いちいち感動してんじゃねえよ。ったく。

 俺は牛カツ……でもないし、トンカツ……でもない。


 カエルカツ……?

 とにかく、カツを食べる。


 さくっ! 

 ……じゅわって、広がる油が、あ、甘い!


 蛙の肉、油っぽくなくっていいな! ちょうどいい! 揚げ物に合う!

 さらに噛めば噛むほどにうま味が広がってくる!


 油の甘みと合わさって……さ、最高だ!


「えへへ♡ どうですか?」

「美味い」

「やった~! えへへへぇ~♡ ダーリンが喜んでくれて、私うれしいですよぅ。たっくさん食べてくださいねっ!」


 そのときだ。

 ぐぅう~……。


「あ、あはは! 気にしないでください! これダーリンのなのでっ。ぜーんぶ!」


 ……こいつも腹減ってるのか。

 そういや、俺ばっか食って、こいつは何も食ってなかったな。


 気にしないでって、あほが。

 他に何か食うもんあるのかよ。ったく。


「…………」


 魔物の肉には毒が含まれてる……か。


 なら、こうするのはどうだろうか。


「【無害】、付与」

「ほえ? 無害……?」


 俺はできあがったカツに向かって、無害を付与した弾丸を放つ。

 ずがんっ!


『無害、か。なるほど、これは毒への耐性を付ける【無毒】とは異なり、毒素そのものを無害化するスキルのようだな。もっとも、呪物には使えないようだが』


 生物の毒を無害化するスキルを使い、俺はカツから魔物の毒を抜く。


「ほら」

「はえ……?」


「だから……食え。冷めるぞ」


 ぽかーん……とするエルフェリス。


「うううううううう! うわーん! うれしいですぅ~!」


 バカみたいに泣きながら、笑っていやがった。

 何がうれしいだか……。


「だーりんがぁ~! 私にぃ! 施しをぉおお! うぉおん!」

「うるせえ……さっさと食え……」

「びゃー!」


 あほエルフはカツを口に運ぶ。

 さくっ!


「うみゃいですぅ~……うぇえええん……うまーい……うぇええーん……えへへ~♡」


 泣きながら、笑ってやがる。器用なやつだな……。


『エルフェリスに自分の飯を分け与えてやるなんて。本当に気に入ったのだな。おまえ様よ』


 ……まあ。


『おっ!?』


 なんだよ。


『ふふふっ! 我は空気の読める妖刀だ。朝までちょっと寝て、二人きりにすることは可能だからな』


 ……黙れ、くそ妖刀。

 永眠しておけ。


「うみゃいですぅ~」

「そうだな」


「ダーリンと一緒に食事してるから、普段の100000000倍くらいうまいですぅ~♡」

「ああそうかい」


 俺たちは二人で、でかいカエルの肉で作ったカツを、全部平らげた。

 エルフェリスは俺に笑顔を向ける。


「誰かと一緒の食事、いつもより美味しかったでしょ?」


 ……そうかもしれかった。

 一人で生肉かじっていたときより……。


 こうして、エリスと一緒に飯食ってるときの方が……。


 俺は……安らぎを感じていたかもしれない。


「そうだな。美味かったよ」


 口をついたのは、素直な感想だった。

 俺が何を言ってもこいつはな……。


「えへへ~♡」


 とバカみたいに笑うんだ。だから、まあ……変にひねくれたことを言おうが、言わないが、関係ないんだよ。

 だったら……俺も素直に言った方が良い。楽だ。


 こいつと一緒に居るのは……楽なんだよ。

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