第17話 嫁のピンチに、動揺する俺


 エリスとともにダンジョンに潜っていると……。


『敵だぞ』


 妖刀の魂感知能力のおかげで、いち早く敵に気づいた。

 俺は反響定位で敵の位置と情報を割り出す。


 手に入れた情報をエリスに伝える。


「それは、大蝦蟇おおがまですね。高熱の油をすごい早さで飛ばしてきます」

「遠距離攻撃持ちか……」


 となると、【無事】でセーフゾーンを作っての遠距離狙撃は、駄目そうだな。

 セーフゾーンはあくまで魔物の侵入を防ぐだけ。


 敵の遠距離攻撃を防ぐ力は無い。


「狙撃もよした方がいいと思います。大蝦蟇おおがまは体表を油で覆われておりますので」

「なるほど、銃弾が刺さらないのか」


「はい。同様に、剣での攻撃もやめておいた方が良いですね」


 ……こうして他人と、敵をどう倒すのか相談できるの、便利だな。

 特にこのあほエルフ、知性は65だが、冒険者としての経験が長いのか、いろいろ知ってるし。


 こいつがいなかったら、やばかったかもしれないな。


「どうしますか、ダーリン?」

「遠距離から、魔法で攻撃しよう。おまえ火の魔法使えただろ?」


「…………」

「どうした?」

「あ、いえ! それでいきましょう」


 ……何だ今の間は……?

 気になったが、今はそれより敵の排除だ。


「おまえに【無視】を付与する。魔法の当たる位置まで近づいて、火の魔法で攻撃しろ」

「OKですダーリン」


 俺は【無視】を使い、エルフェリスをステルス状態にする。

 が、なぜか俺の目にはエルフェリスが見えた。


『スキルを付与した相手の魂と、術者の魂の間にはパスがつながるのだ。その結果、相手の位置を魂で感じられるようになる』


 妖刀が何言ってるのかさっぱりわからなかった。

 が、まあエルフェリスの位置をこちらでも確認できるのは好都合だった。


 あほエルフは大蝦蟇おおがまに近づき、魔法の準備をする。


「【業火球フレイム・ストライク】!」


 ごぉおお!

 エルフェリスの手から巨大な火の玉が出現し、大蝦蟇おおがまにぶつかる。

 じゅぅうううううう! と大蝦蟇おおがまの肌が焼ける。


 よし……倒したぞ。


「ダーリン! 危ない!」


 ……は?

 一瞬何が起きたのかわからなかった。


 ジュゥウウウウウウ!

 肌が焼ける音、肉が焦げる匂い。


「あっ……!」


 崩れ落ちるエルフェリス。

 そして、その右腕には……火傷の跡があった。


 は?


大蝦蟇おおがまは死んでなかったのだよ。熱した油を弾丸のように飛ばしてきた。おまえ様向けてな。エルフェリスはおまえ様をかばって、右腕を負傷……』


「エリス!」


 馬鹿野郎が!

 なに俺をかばって怪我してやがる!


 俺はすぐさま【無傷】を弾丸に付与し、エリスの腕に回復弾を放つ。


 一瞬で、火傷が治った。


「ありがとう、ダーリン……」

「バカか! 何やってんだ! このバカ!」


「ば、バカって二回言った……」

「おまえがバカだからだ! 誰が俺を、庇えと言った!」


 するとエリスのやつが、ぺこっと頭を下げる。


「ごめんなさい。でも……良かったです。ダーリンが痛い思いしなくて」


 何笑ってやがるんだ。

 結局自分が痛い思いしてるじゃ無いか。くそっ!


『次弾が来るぞ』


 俺は幸運銃トリガー・ハッピー大蝦蟇おおがまに向け、放つ。

 必中の弾丸が大蝦蟇おおがまをぶっ飛ばす。


 体表の油は、エリスの炎の魔法で蒸発してる。

 だから、弾丸が通ったのだ。


「やりましたね、ダーリン! 敵を倒しました!」


 こいつ。

 すげえ痛い思いをしたっていうのに……。


 笑ってやがる。

 何で笑ってやがるんだ。くそ……。


 俺がへましたのは明らかなのに。

 こいつは、大蝦蟇おおがまと戦う前に、何かを言いかけた。

 

 多分だが、自分の魔法では、大蝦蟇おおがまを確定で殺せないと、わかっていたんだ。

 でも……俺の作戦に口を挟まなかった。

 そして……作戦が見事失敗したというのに、俺を責めようともしない。


 ……こいつは優しいやつなのかもしれない。

 そんなやつに……俺は……。俺のせいで……。

 


「……だ、ダーリン? なんで、泣いてるんです?」

「ば、ばかっ! 泣いてねえよ!」


 俺は目元を拭う。……確かに泣いてた。

 ああくそ、何泣いてるんだよっ。


「ダーリン。……うれしいです。私、すごくすごくうれしい。今、とっても愛を感じてますよ」

 

 えへっ、とエルフェリスが笑う。


「ダーリンが気にしなくて良いですよ。作戦立ててる段階で、意見しなかった私があほなだけです。それに! 冒険者やってて、怪我なんて慣れっこですのでっ」

「…………」


 ……ああもう。ちくしょう。

 なんなんだよ、こいつ。


 なんで、俺を責めないんだよ。どうして……。痛い思いをしたってのに、笑ってやがる……。


「悪かったな。痛かっただろ?」

「いえっ! 全然! てゆーか……えへへ♡ ダーリンに心配してもらえたから、プラマイで言うところの、プラスですよっ!」


 ……変わった女だ。

 こんなお人好し、現実でも見たことねえよ。


 ……ったく。


「悪かった。次からは、何か言いたいことあったら言ってくれ。それがたとえ、俺の作戦を否定するような内容でも。おまえに……死なれたくないからな」

「!? だ、だ、ダーリンがデレた!?」


「で、デレてねえよ!?」


 何言ってるんだこのあほが!

 て、てゆーかデレなんて単語こっちにあるのかよ!


「わかりました。では、次からはこちらも遠慮無く、もの申しますね!」

「あ、ああ……そうしろ……変に気ぃ使いやがって……馬鹿野郎が」

「うえへへ♡ バカですみません。知性65だもんで……♡」


 ……でも、こういうバカは嫌いじゃ無かった。

 俺を否定せず、見下さず、それでいて……無条件の優しさを向けてくる。こいつのことが。


『なんだ、しっかり惹かれてるじゃないか』


 ……うるせえ。バカ妖刀が。


『くく、否定しないのか』


 ……うるせえ。

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