第14話 あほエルフ嫁とダンジョン探索開始



 俺とエルフェリスはモンスターハウスを後にした。

 無数にあるサソリどもの巣穴のひとつが、部屋からの脱出ルートになっていた。


「んふ~♡ ダーリンはやっぱりすごいですね!」


 ……このエルフ、どうにも俺を夫にしたいらしく、無許可でダーリン呼びしてきてウザい。

 で、なんかことあるごとに凄いと言ってくるのだ。


「何が凄いんだよ」

「いや、だってですよ? あんなにもたくさんあった巣穴の中から、正解のルートを一発で見つけ出したんです! 誰にもできることじゃないですよ! だから、すごい!」

 

「敵の位置を特定する技術ってないのか?」

「あるにはありますが、高等テクニックですし、スキルとして持ってる人はほぼいないです」


 ……敵探知使いは希少、と。

 いい情報を知った。


「もっとも、それは人間に限った話です。魔物は人間よりも探知能力に長けております」

「なるほど、探知持ちが希少なのは、人間に限ってはってだけなのか」


「ですです!」


 なるほど。気を付けておこう。


「ほかにも知ってることがあったらいろいろ教えてくれ」

「はい! よろこんでー! うふ~♡」


「なぜ嬉しそうなのだ貴様」

「ダーリンのお役に立てることが、うれしくてたまらないのです!」


 エルフェリスがスキップしながら言う。


『本当におまえ様に惚れてるようだな。見てくれもいいし、この女をハーレム要員1号として手元に置いておくのはどうだ?』


 ハーレムか。ネット小説ではまあ結構よく見るな。

 が、俺は別にそういうのは作るつもりはない。


『なんだ、不能か?』


 置いてくか。


『あー! 待て待て、すまなかったって。冗談の通じぬ男よな』


 別に女が要らないってわけじゃない。

 他人が信用できないってだけだ。


『そこのあほエルフはいいのか?』


 あほエルフ……。

 確かになんか、馬鹿っぽいよなこいつ。語彙力も乏しいし。

 褒める言葉がすごいしかないし。


「? どうしたのですか?」


 髪の毛が金髪で、大きい(胸とかケツとか)。

 そこから、大型犬……ゴールデンレトリーバーを想起させる。


 そうか……犬か……。

 あほっぽいもんなエルフェリス……。


「やん♡ そんなにじろじろ見られると、うれしくなってしまいます~♡」

「……あほエルフよ」


「エリスと是非呼んでください!」

「エルフェリスよ」

「くぅ~! なんとかたくな! でも、諦めません! でなんでしょう?」


 あほとの会話は疲れる……。

 が、まあ一応いっておかないとな。


「これから暫定的におまえとパーティを組む。戦う前に陣形について言っておきたい」

「フォーメーションですね」


「そうだ。おまえが前。俺が後ろ。おまえは前に出て敵を引きつけろ。俺が後ろからサポートする」


 俺には職業スキルが無い。

 ただの学生だ。


 前に出て、魔物と切った張ったするのは無理。

 一方、エルフェリスは魔法剣を使って戦えるらしい。


 ならば前衛をこいつに、後衛を俺。

 そういう陣形が一番いいと思ったのだ。


「うふふ~♡」

「なんだ……?」


「ダーリンがサポートしてくれるのが、うれしいのです~♡ 優しいなぁ~♡」

「はぁ? どこが優しいんだよ」

「だって、おまえ一人で戦えって、言ってこないじゃ無いですか? それってつまり、一緒に戦おうぜハニー、ってことですよねっ?」


 ……しまった。

 確かにそういうやり方もあったな。全部危ないことはこいつに任せ、俺は後ろで高みの見物と。

 

 ついさっきまで俺一人で戦わないといけない状況だったから、つい、俺自身も勘定に入れてしまっていた。


「私は理解しましたよっ。ダーリンが、口が悪いだけで優しい人ってことを!」

「…………」


 調子が、狂う。

 こいつに出会ってからペースが乱されまくる……。


『良い伴侶を見つけたでは無いか』


 黙ってろぼろ剣。


「エルフェリス。俺は、まあ仕方ないからサポートしてやる。だが、俺のメイン武装は銃だ」

「じゅー?」


 そういや、こっちの世界にはじゅうがないんだったか。


「遠距離武器だ」

「弩弓のようなものですか?」


 たしか、クロスボウのことだっけか。


「まあだいたいそんなもんだ。俺ができるのは遠くから敵に対して狙撃。あとは、おまえに能力を付与すること」

「! す、す、すごーい!」


 ……まただ。

 またこいつ、すごいしか言ってこない……。


「何がすごいんだよ」

「だって、ダーリン攻撃と補助、どっちもできるってことですよね? それってとっても、すごいことなんですよっ!」


「はぁ……? できるだろ」

「いえ、たとえば狩人。弓を使う職業ですが、彼らができるのは遠距離狙撃、つまり攻撃だけです。一方、味方の能力を向上させる付与術士、彼らは能力を上げることしかできず、攻撃は行えません」


 遠距離攻撃と付与、どちらも両立させてるやつは、いないってことか……。


「ダーリンすごいです!」

「……ああ、そうかい。それで、付与には銃弾を使う。ただ、俺は自分の付与能力については、まだ全容を把握し切れていない。ひょっとしたら、やばい能力が付与されるかもしれない」


 【無】でもたらす力については、俺自身、わかってないことも多いからな。


「うふふ♡ うふふふふふ~♡」


 エルフェリスがまた気色悪い笑みを浮かべる。


「ダーリンは……優しいですっ。ちゃんと、事前に危ないことを教えてくれるからっ」

「はぁ……? そう言ってないだろうが。おまえに危ない役割を押しつけるぞ、やばい銃弾が飛んでくるかもだぞって、言ってるだけだ」


「それは善意の忠告ですよねっ♡ ダーリンからの愛を感じます~♡」


 なんつー……ポジティブシンキング……

 俺は単に、あとからクレーム入れられても困るから言ってるだけなのだ……。


「大丈夫です! ダーリンは私でじゃんじゃん、能力を試してください! どんな能力を付与されても、絶対に文句言いません! むしろ、喜んじゃいますっ!」

「………………あ、そう」


 【無】で使ってない能力はいくつかある。

 俺自身で試すのは怖かったのだ。じゃあ遠慮無く、今後はこのあほエルフに試してやろうじゃ無いか。


「あとでやっぱ辞めてほしいって言われても、遅いからな」

「うふふふふふ~♡ 愛~♡ 愛されてるなぁ~♡」


 ……頭痛くなってきた。

 こいとパーティ組んで大丈夫だったろうか……?


 と、そのときである。


『夫婦漫才の途中大変申し訳ないがな、主よ。どうやら魔物が近づいてくるみたいだぞ』


 魂感知のできる妖刀が、敵の接近を知らせてくる。

 反響定位で、敵の正確な位置と距離を把握する。


「エルフェリス。敵が来る。でかいトカゲだ。2足歩行してやがる」

「それは蜥蜴人リザードマンですね。わかりました」


 先ほどまでのあほっぽい雰囲気から一転、エルフェリスは真面目な表情になる。

 腰からエクスカリバーを引き抜いて、構えた。


 ふぅ……と呼吸をすると……。

 だんっ……!


「!?」

『おお、かなり素早いなあいつ』


 エルフェリスは迅雷のごとくスピードで、敵に向かっていく。

 そして躊躇すること無く……。


「セヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 ずばんっ! と蜥蜴人リザードマンを斜めにぶった切った。

 ……一刀両断してやがった。


 あんな、筋肉なんて全然付いてない女が……である。


『身体強化の魔法を使ってパワーとスピードを向上させていたのだろう』


 なるほど、強化魔法か。


「だーりーん! 敵倒しました~!」

 

 エルフェリスが離れた場所で手をぶんぶん振る。

 ……やっぱり犬に見えるんだよな。フリスビー拾った大型犬。

 

 俺はエルフェリスに近づく。

 確かに蜥蜴人リザードマンは一刀両断されていた。


「ダーリンすごいです!」

「……なにが?」


「正確な敵の位置と距離だけでなく、敵の種類まで把握できるなんて! すごい!」

「ああそう……これもできるやついないの? 確か敵の位置を知る方法はあるんだろ」


「そうですね。それを使っても、ですが、ここまで正確に、離れた敵の詳しい情報を、事前入手することはできません」


 なるほど……。

 魂感知+反響定位コンボは、かなり規格外の性能を持ってるってことか。


「はぁ~♡ ダーリンがサポート役として優秀すぎます……♡ こんなにも優秀な後衛補助職は、見たことありませんっ。その上自分でも戦えるのですから……ほんと、すご……」

「おい。あんまりすごいすごい言うな」


「? どうしてですか?」


 きょとんとしてくるエルフェリス。


「すごいことを、すごいとって、何が悪いのです? 本当にあなたはすごいことをしてるのですから。ちゃんと言わないとっ」

「……ともかく、辞めろ。なんか……こそばゆいんだよ」


 するとニコォ~……とエルフェリスのやつが笑う。


「んだよ」

「照れくさいのですねっ」

「誰がそういった」

「うふ~♡ でも嫌がってないようなので、私はこれからも! すごいことはすごいってちゃんといいますっ! だって……すごいんですもの!」


 ……はあ。

 疲れるな、こいつとの会話。


『その割に、心から拒否してる感じは伝わってこないぞ。本当に嫌なら無視してさっさと……わー! 待ってくれ! 捨ててかないで! からかってすまなかったってばぁ!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る