第12話 Sラン冒険者を愛の奴隷にしてしまう



 モンスターハウスにて、美人エルフを助けた。

 

「お洋服……ありがとうございます!!

「別に。全裸でいられても困るだけだから」


 女は現在、黒衣ブラックウーズ・コートで作った服を着ている。

 死んだ冒険者の服を着せようとしたのだが、サイズが合わなかったのだ。


 理由?

 こいつの胸やらケツやらが、でかすぎるせいだよ。


 そこで一度ブラックウーズに洋服を食わた。

 その後、ブラックウーズをこいつの体のサイズに合わせて、服に擬態させた、という次第だ。


「いろいろ本当にありがとうございましたっ!」

「気にするな。じゃあ、俺はこれで」


 さっさと先に進みたかった。


「お待ちください……! 恩人様!」


 女が俺の前で跪き、頭を垂れる。


「なにか、お礼をさせてくださいませ!」


 エルフ女が必死になって俺を引き留めようとする。


「お礼なんて要らない」

「ですが! それでは私の気が済みません!」


「おまえの気分なんて知るか。おまえは俺の気まぐれで助けただけなんだ。恩義なんて感じなくていい」


 と、俺がこいつに伝えたのだが……


「ああ、素晴らしい。なんと……心の清い御方です!」

「は……?」


 心の清い……?


「私に恩義を感じさせないための、配慮なのですね! だから、あえて冷たい言い方をなさっているのですよねっ?」


 なんだ、こいつ……?

 

「あなた様のお心遣い、大変感謝いたします! 私……感動いたしました! 強い御方は、心まで健全なのですね!」

「……どうにも、おまえは俺を善人にしたいみたいだな」


「? 違うのですか? あなた様が善人で無ければ、なんだというのです? 赤の他人である私を、奇跡の力で、復活させておいて?」


 ああ……くそっ。

 面倒なことしちまった……。


『くくく、素直に認めてしまえよ、おまえ様』

 

 妖刀の声が俺に響いてくる。

 ちなみに妖刀の声を、この女が聞こえている様子は無い。


『この女が可哀想だから助けてやったんだってな』


 うるさい、バカが。


「とにかく、おまえは俺に恩を感じる必要は無い。俺は先を行く。じゃあな。達者でな」

「おまちくだされ……!」


 エルフ女が俺の前に立ち塞がり、両手を広げて通せんぼする。

 ……イライラしてきた。


「いい加減にしろよ」


 俺は幸運銃トリガー・ハッピーを、女に向ける。

 女は一瞬目を丸くするが、まっすぐに俺を見てくる。


「どけ」

「どきませぬ!」


「なぜだ?」

「私はあなた様に命を助けていただきました。私は……その恩を返したい。それまでは死ねません!」


「……俺への恩を返したいのか?」

「はい!」


「じゃあ、死ねって言われたら死ぬんだな?」

「はい! もとより私は一度死んだ身です。この命は、あなた様のもの! どうぞ、煮るなり焼くなりなんなりと!」


 ……まっすぐだ。

 あまりにまっすぐすぎる。なんだこいつ……。


「……本気じゃ無いだろ?」

「本気です! 私は貴方に感謝してます! 貴方のために何かがしたい!」


 本気で言ってるのか……?


「じゃあ、俺のために付いてくるな」

「それはできません! 貴方のために何もできなてないです!」


 ……こいつ、頑固だな。

 何かしてもらわないと、こいつは俺を手放してくれないだろう。


『仲間にするのはどうだ? 見たところこのエルフ、結構高位な魔法使いだぞ?』


 ……なるほど、仲間か。

 却下だな。


『それはまたどうしてだ?』


 ……この妖刀、ナチュラルに会話してくるんだが?


『妖刀だからな』


 ……まあいい。仲間にはできない。

 俺は、クラスメイトたちから裏切りをうけた。同級生の仲間だと思っていたのに。あっさりと、俺を捨てることに賛同しやがった。


 だから、俺は仲間を信じない。


『では奴隷にするのはどうだ?』


 奴隷……。


『ああ。ほら、ブラックウーズにやっただろう?』


 無我夢中、か。

 幸運銃トリガー・ハッピーで打ち込めば、必中で相手を虜にできる。


 相手を俺に夢中にさせれば、俺の言うことを何でも聞く……か。


「良い案だ」


 俺は無我夢中を銃弾に付与し、幸運銃トリガー・ハッピーの銃口を向ける。


「よけるなよ」

「はい!」


 俺は引き金を引いた。

 パンッ……!


「あっ……♡」


 エルフ女がトロンとした表情になる。

 これで俺に夢中状態になったわけだ。


「おい女」

「はいぃ♡」


 さっきまで少し凜々しい顔つきをしていた。

 でも今は目を♡にして、とろけた……だらしのない笑みを浮かべてる。


「命令だ。俺に……ついてくるな」

『なにぃ? 奴隷にしないのかっ! 今の状態なら性奴隷にできるぞ? 死ぬまでこいつを働かせ、そして性欲のはけ口にすることだってできるだろうに!』


 ……考え方がゲス過ぎる。

 妖刀だからか。


「俺は一人で良いんだ。一人でいたいんだ。だから……おまえは俺に付いてくるな。良いな、これは命令だ」


 夢中状態になってるんだ。俺の言うことは聞くだろう。

 きびすを返して、俺はその場から離れようとする。


 むにゅっ♡


「………………は?」


 女が、後ろから抱きついてきた。

 そしてその無駄にでかい乳を、俺にこすりつけてくる。


「嫌でございます!」

「……………………」


 こ、こいつ……。


「おまえ、今俺に夢中になってるんだろ?」


「はい! 心臓がドキドキバクバクして……あなた様以外に、何も見えません♡ あなた様に尽くしたい。あなた様にでしたら、この体をさしだし、むちゃくちゃにされてもいいです!」


 ……それくらい、俺に夢中になってる。


「じゃあ、なんでついてこようとするんだよ」

「あなた様を愛してるからです!」


 ……しまった。誤算だ。


『なるほど、無我夢中にすると、確かに相手をメロメロ状態にして、何でも言うことを聞かせられる。が、この女は愛するおまえ様のそばにいたいと、強固に思うようになってしまったようだな』


 だから、命令を聞かなかったのか……。

 くそ!


「ついてくるなという命令以外でしたら、何でも聞きます♡」


 ああくそ!

 面倒だ!


 俺はもう一度幸運銃トリガー・ハッピーを女に向ける。


「避けるなよ! いいな!」

「はい♡ どうぞ♡」


 うれしそうに笑いながら、両手を広げる。


『銃で撃ち殺されることは良くて、おまえ様に捨てられるのが嫌だか。はは、愛とは呪いみたいなものだな』


 妖刀を無視して、俺は別のスキルを弾丸に込める。


「【無関係】付与」

『ほぅ、無関係か』


■無関係:任意発動型。消費MP500。対象となる記憶1秒につき消費MP10。


『なるほど。相手の記憶を消去するスキルだな。1秒前の記憶を消したいなら10。それ以上前の記憶となると、×10の消費MPとなる』


「ああ。しかも、スキル無我夢中の効果も無効にできるオマケつきだ!」


 この女と出会ったのは、つい2,3分前くらい。

 3分=180秒。


 1800+500=2300MP!

 俺の今のMPで、発動できる!


「記憶消去弾! 喰らえ!」

『なんだか躍起になってるな……おまえ様そこまでしてこの女と関わりたくないのか?』


 ズガンッ……!

 女は喜んで、銃弾を受ける。


 どさり、と女が倒れた。


「こ、これでいい加減ついてこれないだろ! 俺に命を救われたっていう記憶が消えるんだからな! しかも無我夢中状態が解除されるんだからな!」


 俺に命を救われたっていう記憶がなくなれば……。


 こいつは俺に恩を感じなくなり、結果……恩人という関係性が消える。

 無関係の間柄になる。


『そうまでして突き放さなくてよいではないか』

「嫌なんだよ。俺は。裏切られるのが」


『無我夢中を打ち込んだ段階で、こいつは愛の奴隷となり、裏切らない存在になったではないか』

「……スキルで築いた関係なんて、いつ消えるかわからないだろうが」


 真に、俺を裏切らない存在がいるのであれば、まあ……考えてやらんこともないが。


 むくり……と女が立ち上がる。

 

 俺はもう話しかけず、その場から立ち去る。

 こいつは自分が俺に助けられた記憶が、もうないのだ。だから……。


「お待ちください」


 ……嘘だろ。

 振り返ると、女が微笑んでいる。


「お願いします。どうか、あなた様のお側におかせてください」

「………………どうしてだ?」


 知らず、言葉が口をついた。

 

「おまえは、俺のこと何も覚えてないはず」

「ええ。ですが……」


 女が自分の胸に、手を当て、そして……笑った。


「私は、あなた様にとても感謝しております。そして、愛おしいと。その気持ちは、失っておりません」


 くそ……。


『なるほど。無関係で消去できるのは、あくまで記憶情報だけ。こいつの心……魂に芽生えた感情までは、消せないのか』


 くそが……。

 

『いいじゃないか。こいつは記憶を失っても、無我夢中状態じゃなくなっても、おまえ様を愛してるんだとよ。心からな』


 はぁ。


「もういい、好きにしろ」


 女が笑顔になると、俺の腕に抱きついてきた。


「少し助けただけで、心から愛するだと? チョロい女だなおまえ」

「はい!」


 何うれしそうにしてやがるんだ……ったく。


「おまえ、名前は?」

「【エルフェリス】と申します!」


「エルフェリス。長い名前だ。奴隷って呼んで良いか?」

「もちろんです!」


「……やっぱりエルフェリスって呼ぶ」

「はい!」

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