第11話 怪我人の治療



 モンスターハウスをくまなく探索し、俺はいろいろなものをゲットした。

 主に、ここで死んだ冒険者が持っていた道具だな。


 鍋とか、包丁とかの調理道具。

 寝袋や着替えの服など。

 今後の異世界での生活に役立ちそうだったので、すべて、回収した。


 ……さて。

 発見したものは、なにも物だけではなかった。


「…………」

『はは! まさか、この部屋で生きてる人間が見つかるとはな!』


 ……モンスターハウスには冒険者の死体がたくさん転がっていた。

 しかし、一人だけ、生き残りがいたのだ。


 ……生き残っているといっていいのかわからない。

 体中の肉が食われている。ほぼ骨と言ってもいい。


 四肢がもがれて、完全にダルマ状態だ。

 正直、なぜこの状態でまだ生きてるのかが不思議なくらいだ。


『思うにこいつは知性、つまり魔法を扱うステータスの数値が大きいのだろう。高位の魔法使いは無意識に、体に魔力の結界を張る。魔法の反動を緩和するためだな。その結界のおかげでなんとか生き延びたのだろう。もっとも……』


 妖刀が言うまでも無い、虫の息だ。

 ほっとけば早晩、死ぬだろうことはわかった。


「…………」


 目の前に生きている人間。俺には二つの選択肢がある。

 ひとつは、見殺しにする。

 もうひとつは、食う。


 俺は魂を喰らうことで、相手の能力を獲得できる。

 魔物を食らえば魔物の能力を得られた。


 ならば、人間を喰らえば、人間が持つスキルを得られる可能性が高い。 

 そしてこの死にかけ野郎は、かなり強いことがわかっている。


 なぜならあの状況で生き残っているくらいだから。

 妖刀も、さっきこいつは高位の魔法使いだと言っていた。

 

 こいつの魂を食べれば、魔法が、強力な武器が手に入るかもしれない。


「…………」


 見殺しにする選択は、ない。食おうが見捨てようが、どのみちこいつは死ぬのだ。

 なら、少しでも俺にとって利になるような選択をしたほうがいい。


 ……人間を食うことに抵抗はある。

 だが、俺は……生きたいのだ。


 生きるためだ。悪いな。

 俺はしゃがみ込み、幸運銃トリガー・ハッピーを取り出す。


 そして、死にかけ野郎の額に、銃口をつきつけた。


「…………ぁ」

「?!」


 い、生きてる……?

 まだしゃべる元気があるのか?


 やめろ、とか言われるのだろうか。

 助けて、と言われるのだろうか。


 だが……。


「……ぁ、り、が……とぉ……」

「!?」


 ……ありがとう、だと?

 何感謝の言葉を吐いてるのだ?


『楽にしてくれて、ありがとう的な意味合いかもな。良かったじゃ無いか、サイガよ。この女は死を受け入れてるぞ。楽に殺せる相手だ。ほら、弔ってやれ』


 ……俺は、むかついていた。

 俺は自分のためにこいつを殺そうとした。それは、俺の決断だ。


 けれど、こいつは……あろうことか死を受け入れた。

 こいつを楽にしてやろう、そういう全員で、俺が殺そうとしてる。そう、この女は勘違いして。


「ふざけるな」


 俺は妙にいらついていた。


「俺は、俺の意思でおまえを殺そうとした。これは俺のためにやったことだ。おまえのためなんかじゃない」


 俺は幸運銃トリガー・ハッピーに、スキルを付与する。


「勝手に俺を善人にするな。俺の生き方を決めるのは、俺だ!」


 ズガンッ……!

 俺は死にかけ野郎めがけて銃弾を放った。


『なんだ、結局殺すのか……いや、違う! 体が再生していく!?』


 虫の息だった死体が、みるみるうちに、綺麗になっていく。

 こそげおちた肉が戻り、四肢が生えていく。


『これは……そうか、【無傷】だな! 無傷スキルを弾丸に付与したことで、他人の傷も治癒できるようになった訳か!』


 本来無傷は、自分が受けた傷だけを無かったことにする。

 だが銃弾に付与して、こうして相手の傷も治せるようになったのだ。


『なんだ、殺してスキルを奪うのかと思ったのだが。お優しいでないか』

「黙れ」


 俺だってスキルを奪った方が良いと思ったさ。

 だが……。


「俺はこいつに善人って思われたくなかった。それだけだ」

『くくくっ、あははは! 本当に面白い男だ! 奈落に落とされてなお、人間性を失わないところ。嫌いじゃ無いぞ』


 ……うるさい妖刀だ。

 さて。


【無傷】を付与した弾丸……回復弾とでもいうそれは、肉ダルマを修復していった。

 結果……。


「…………」

『こやつ、女だったのか!』


 そこには、真っ裸の女がいた。

 巨乳で、細身。グラビアアイドルかってくらいの、すごいプロポーションの美女だ。


 しかも……。


「エルフ……」


 とがった耳が側頭部から除いている。

 なるほど、エルフか。異世界ものの定番だな。


『エルフだったのなら、あの高い知性は納得だな。で、おまえ様よ。どうする? 目の前に美しい、全裸の女がいるわけだが?』


 ……無傷スキルは、あくまで傷を無かったことにするだけだ。

 魔物によって破られた服はそのままである。


 全裸の女がいるから……なんだ?

 俺は右手を前に突き出す。


 黒衣ブラックウーズ・コートにしまってあった、他の冒険者のマントを取り出す。

 そして……ふぁさ、と女にかけてやった。


『ははは! 優しい男だなぁ』

「うるさい。こんな状態で放置して、他の冒険者に犯されたら、俺のせいになるだろうが。それが嫌なんだよ」

『くく……まあそういうことにしておいてやろう』

「……置いてくか」

『やめておくれそれは!』


 さて。

 最低限、面倒は見てやった。あとのことは知らない。

 さっき作ったセーフゾーンに、このエルフ女を投げ入れて、とっととこの場を去ろう。


 と、思ったそのときだった。


「う……」

『おお、目が覚めたようだぞ、エルフ女が』


 ……なんてタイミングだ。

 俺は急いで立ち去ろうとする。助けたなんて思われたくない……。


「お待ちください!」


 待たない。


「お願いです、お待ちください、恩人様……!」


 がしっっ!

 振り返ると……。


 全裸エルフ女が、俺の腕をつかんでいた。

 

「恩人様! どうかお礼を……」

「…………」


 この女、すごい力で俺をつかんでくる。

 魔法の力なのだろうか。


 麻痺させて逃げることも出来た……が。


「お願いします! どうか……お礼を……」

「…………」


 潤んだ目で俺を見てきやがる。

 俺が襲ってくるなんて、みじんも思っていないようだ。


『どうやら完全に、おまえ様を命の恩人だと思い込んでいるようだな。まあ事実そうなんだがな』


 ……ちっ。


「わかったよ。だから、服を着ろ」

「やった! って、え……? あぁ!」


 この女にかけてたマントが、ずれ落ちていた。

 つまりまあ、全裸なのだこいつ。


「こ、これはお見苦しいものを! 申し訳ないです……!!!!!!!」


 ……まあ、別に見苦しくは無かったが。美人だし。プロポーション抜群だったし。


『くくく、おまえ様も男よのぉ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る