第9話 モンスターハウスも【無】で余裕


 俺はダンジョン内を探索した。

 反響定位、新武装のおかげで、ほとんど苦戦すること無くこのフロアの探索を終えた。


 結果。


「上に行く階段が無いな……」


 下へ降りていく階段は見つけたのだが、上へと戻る道がどこにもないのである。

 銃弾で天井の破壊を試みたが、それも不可能だった。


「どうなってんだよ?」

『さぁな。ダンジョンは未知の部分が多いからな』


 仕方ない。ダンジョンを上って脱出するのは諦めて、下へ降りていくことにしよう。

 妖刀曰く、ダンジョンをクリアすれば地上へと帰れるらしいからな。


 俺は階段をカンカン……と降りていく。


『ああ、そうそう。サイガよ。ダンジョンにはトラップというものもあるから、気をつけるのだぞ』

「トラップ……落とし穴的なものか?」


『そうだ。落とし穴以外にも、踏むと別の場所に転移してしまう転移とラップというものもる』

「転移先は?」


 おそらくはやばい場所へと飛ばされるんだろう。


『おまえ様の予想通りだ。たとえばモンスターがたくさんわいて出てくるモンスターハウスや……』


 カチッ。


「は?」


 ぶぉん!

 ……いきなり目の前が真っ暗になった。


 かすかな酩酊間を覚える。

 目を開けると、そこには何も無い、ホールのような部屋だった。


「……おい。階段にもトラップが仕掛けられてるのかよ」

『おお、そうだな。言わなかったな。これはわるかった。階段ゾーンもダンジョンの一角なのだ。トラップが仕掛けてあってもおかしくはない』


 このくそ妖刀……。

 置いてってしまいたい衝動をぐっとこらえる。


「ここはどこだ?」

『さっき言いかけた、モンスターハウスだろうな』


「モンスターハウス」

『大量のモンスターがわいて出てくる部屋のことだ。あんな風にな』

 

 暗い部屋の中に、赤い光の点が浮かび上がる。

 1つ2つなんてレベルでは無い。数え切れないほどの赤い光点が出現した。


 ガサガサガサ……!


 俺はすぐさま反響定位を使用する。

 どうやら、このホールは魔物の巣のようだ。四方の壁に穴が開いていて、そこに敵がうじゃうじゃいる。


 ……敵陣のど真ん中。

 しかも、敵はすさまじい数。


 俺の脳裏に死、という単語がよぎる。

 不安になる。ここで死ぬのかと。だがそれも一瞬だ。


 ……この状況においこんだ、あのくそ女神に一発いれるまでは、死ねない。

 憎悪と怒りが不安を拭い、俺はすぐさま行動を開始する。


 黒衣ブラックウーズ・コートから幸運銃トリガー・ハッピーを取り出し、それを地面めがけて撃つ。


 ドンドンドンドンッ!


 四方の地面に弾丸を撃ち込んだ。


『なぜ地面に弾丸なんて撃ったのだ? 無駄撃ちではないか?』


 妖刀が尋ねてくる。


「黙って見てろ」

『くく、そうだな。おお、敵が来るぞ。あれは……【死蠍デス・スコーピオン】だな』


 大型犬くらいの、でけえサソリだ。

 黒い外角を持ち、鋭い針のついた尾を持つ。

 

『あの針から分泌されるのは死の毒だ。古竜すら即死させるが……まあ無毒を装備してるおまえ様には関係ないだろう。が、針でつきさす攻撃や、腕のはさみで攻撃もなかなかに強力だ。鉄すらたやすく切り裂いてくるぞ』


 そんなやばい敵が、数え切れないほど襲ってきている。

 本来なら恐怖で動けなくなるところだろう。

 

 が。

 俺は冷静に、次弾を装填していた。


『のんびりしていていいのか? 死ぬぞ?』

「何もしてなければ、な」


 サソリどもがおれめがけて、襲いかかってくる。

 

 ガキィイイイイイイイイイイイイイン!


『なんと! 敵が……襲ってこない! これは一体どういうことだ!?』


 サソリたちは、俺に近づけないで居る。

 まるで、見えない壁に阻まれてるかのようだ。


『いつの間に結界なんて習得したのだ?』

「結界じゃねえよ。【無事】を付与した弾丸を、地面に撃ち込んだんだ」


■無事:常時発動型。消費MP500。動くと効果が消える


『なるほどなるほど! 【無事】を地面に打ち込むことで、魔物の入って来れない、セーフゾーンを作ったのだな!』


【無事】というスキルは、結構くそ仕様だ。

 工夫も無く使用すると、スキル使用者の周囲にセーフゾーンを展開する。

 が、使用者が1ミリでも動くと、セーフゾーンが解除されてしまうのだ。


 そこで、弾丸にスキルを付与し、地面に打ち込む。

 こうすれば、使用者(弾丸)がその場から動くこと無いので、セーフゾーンを維持できるのだ。


『とはいえ、これは結界じゃ無くて、単に敵が入って来れなくなるだけだな。遠距離から魔法や飛び道具で攻撃されると、普通にダメージが通るし。弾丸を破壊すればセーフゾーンが解除される』


「まあな。だが、今回の敵は飛び道具を持ってない」

『魔法も使ってこないからな』


 セーフゾーンは動かない限り継続する。

 サソリのアホどもは、餌を食おうと躍起になってて、なぜ近づけないのか考えようとしない。


「あとはもう、ひたすら殺し続ければ良いだけだ」


 セーフゾーンのなかで、俺は幸運銃トリガー・ハッピーを構える。


 ドガンッ!


 放たれた銃弾は、サソリの頭を吹っ飛ばした。

 鋼鉄牛よりも、外皮は硬くないらしい。


 となれば、あとは作業である。

 俺はセーフゾーン内に居座り、ひたすらに、外でたむろっているサソリどもを撃ち殺すだけ。


 ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ!

 ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ!

 ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ!


『ブラックウーズがいるかぎり、銃弾は無限に生成できる。倒したサソリをブラックウーズに回収させ、消化、銃弾を作り、サイガはひたすらに狙撃する……。ははは! すごいな!』


 妖刀を使って、セーフゾーンギリギリから倒すすべもあるんだが、いちいち刀を振り上げて下ろしてってのがめんどくさい。

 銃で撃ち殺すのが一番らくだ。


 俺はサソリを殺しまくる。


 ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! 


 ……気が遠くなるような作業だった。

 だが、俺は無心に敵を殺しまくった。やがて……。


「全部倒し終えたな……」

『そうだな。魔物の魂は周囲にないぞ』


 俺は……その場にへたり込んだ。

 長かった……。時計もないし、太陽の光も刺しこまない、このダンジョンでは時間の経過がわかりにくい。


 何時間……いや、何日かかったのかわからない。

 だが、生き延びた。勝ったのだ……。


「さて、食事だ」

『切り替えが早いな!』

「さっさとこんな辛気くさい場所からは離脱したいからな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る