第8話 新武装で無双する
俺はブラックウーズをテイムした。
色々と試行錯誤をし、準備を整えてから、再出発する。
『サイガよ。夜笠はどうしたのだ?』
腰に差してる妖刀が、俺に尋ねてくる。
俺は現在学生服姿だ。妖刀と一緒にドロップした黒いコートの呪物、夜笠は身に着けていない。
「こいつの腹の中だよ」
『なんだその黒い小さな球体は?』
つやのない黒いピンポン玉を俺が握っている。
「ブラックウーズだよ」
『! そんなにもサイズを小さくできるのか!』
もともとのブラックウーズは、宝箱くらいの大きさがあった。
だが、今は手のひらに収まるサイズになっている。
「色々調べてわかったが、このブラックウーズには3つの機能がある。1.収納、2.消化、3.擬態」
1. 収納→対象を収納する。容量、大きさ制限なし。
2. 消化→収納したものを消化
3. 擬態→消化したものに擬態する
「ブラックウーズの体を、自ら食わせて、限界まで小さくできるんだ」
『なるほど、これなら持ち運びに便利だな。それで、夜笠は?』
「こいつに食わせたんだよ」
『呪物をか?』
「ああ。擬態しろ」
ブラックウーズが変形する。
黒い泥が俺の体にまとわりつくと、黒いコート、夜笠へになった。
『わざわざブラックウーズに取り込ませる意味があったのか?』
「ああ。夜笠(呪物)を取り込ませ、擬態することで、コートが破れてもすぐに再生できるようになる」
このコートを手に入れてから何度か戦闘を行った。
相手から攻撃を受けて、コートが痛んでいたのだ。
そこで、コートをブラックウーズに取り込ませ、擬態させる。
ブラックウーズ・コート、でもいうこれは、傷つけばすぐに修復(再擬態)できるのだ。
『なるほど、ブラックウーズに取り込ませたことで、自動修復機能がついたのだな。ほかの呪物も取り込んでおいたほうがいいのではないか? 幸運銃とか』
確かに、銃も物である以上、使い続ければ壊れてしまうだろう。
が。
「幸運銃と妖刀は取り込ませない」
『む? どうしてだ?』
「呪物を取り込むと、呪物の持つ呪い(特殊効果)が、消えてしまうんだ」
あくまで、ブラックウーズができるのは、擬態。形をまねることだ。
コートに変形はできても、コートに付与されていた呪いまではまねできない。
「ブラックウーズに食べさせると、幸運銃の必中の呪い、妖刀の呪毒が消えちまうからな」
『なるほど。む? 夜笠にも防御力を上げる呪いが付与されていたぞ?』
「ああ。だがそれも、別の方法で解決できたんだ」
『それは?』
「説明はあとだ。敵が来た」
俺はブラックウーズ・コートから、収納していた幸運銃を取り出す。
消化せず、あくまで取り込んでおくだけなら、呪いは消えないのだ。
反響定位を使い、敵の居場所と種類を確認。
「コカトリスだ」
『おまえ様が戦ったことのある敵だな。無視+妖刀の毒で倒した』
俺は物陰からコカトリスの位置を確認する。
幸運銃の銃口を、コカトリスに向ける。
『おまえ様よ。この距離ではコカトリスに、発砲音で気づかれてしまうぞ』
「問題ない」
俺は【無】を別のスキルに進化させ、狙撃する。
ドバッ!
俺の耳には、デカイ発砲音が聞こえた。
『おまえ様よ、いくら無視で見えなくしても、こんなデカイ音を立ててしまうと、コカトリスに気づかれ……』
パァン!
ぐしゃぁ!
『!? コカトリスが、銃弾に気づかず、頭を吹っ飛ばされただと!?』
俺はコカトリスの死体へと近づく。
銃弾は敵の頭を正確に吹っ飛ばしていた。
不意をついて、急所をつぶせば、コカトリとて一撃で倒せるのだな。
『どうなってるのだ? なぜこの魔物は銃弾に気づかなかったのだ?』
「【無音】スキルを使ったんだよ」
■無音:常時発動型。消費MP300。一秒ごとにMP10
『発動中、おまえ様が発する音を無かったことにするスキルか。なるほど! これなら発砲音を相手に聞かれることなく、不意打ちを成功させられるのだな!』
「そうだ。しかも、幸運銃には必中の効果が付与されている。遠くから、相手に気づかれることなく、スナイプが可能となるんだ」
『凄い発想だな! これはもう無敵ではないか!』
反響定位で敵の位置を割り出し、物陰から無音+必中スナイプをすれば、敵に近づかず楽に暗殺できる。
「ブラックウーズ、死体を回収しろ」
俺は右腕を前に突き出す。
黒笠の右腕の部分から、どば! と黒い粘液が広がる。
粘液はコカトリの死体を包み込むと、そのまま収納。
黒笠の右腕部分に戻っていく。
「ブラックウーズの体内に入れた生物は、腐敗が進まないみたいなんだ」
『なるほど。これなら、いつでも死骸を取り出し、魔物を食らって疲労回復ができるな』
さて。
「次だ」
反響定位を使い、敵の位置を確認。
俺は物陰から隠れて敵を目視する。
『音速蝙蝠だな。今回も無音+必中で狙撃をするのか?』
「ああ。その前に、銃弾を補充する」
『弾の補充?』
俺は左手を広げる。
ブラックウーズ・コートの一部が変形して、俺の手の中に、1発の弾丸が握られる。
『ブラックウーズの一部分を銃弾化させたのか。なるほど、これならブラックウーズが消滅しない限り、銃弾を無限に生成できるのだな』
弾丸を幸運銃に装てんし、無音を発動しながら、狙撃。
ドガン!
銃弾は音速蝙蝠へ向かって飛んでいく。
だが途中でコウモリは銃弾に気づいた。
コウモリが高速で飛翔、銃弾を回避する。
『音はしなくても、銃弾が消えるわけじゃない。目のいい敵には初弾を交わされる可能性があるのか』
コウモリがこっちに向かって高速移動してくる。
だが……。
ドガン!
「ギ!」
初弾はコウモリの右の翼膜を打ち抜いていた。
『!? 一発目は外れたのではなかったのか?』
「ああ、外れた。だが銃弾が壁にぶつかって反射し、狙った場所に着弾したんだよ」
『跳弾か!』
幸運銃による必中攻撃は、相手がこちらに気づいて避けると、外れてしまう。
だが壁にぶつかって銃弾が反射すると、そこでまた必中攻撃が再開するんだよ。
まあ、跳弾も避けられたら当たらないのだが。
しかしはじきかえってきた銃弾も必中になる、と知らなければほぼ狙った場所に銃弾が当たる。
翼を打ち抜かれたコウモリは、その場に倒れてしまった。
二発目を急所である頭部にぶち当てると、コウモリは完全に動かなくなった。
『跳弾で敵に攻撃するなんて高等テクニック、凄腕のガンマンにしかできない。が、幸運銃を使うことで、同じようなことが、ただの学生であるおまえ様にもできるのだな』
ただ壁に向かって撃てばいいだけだからな。
技術なんて必要ない。
ブラックウーズにコウモリを食わせる。
「消化していいぞ。あんまりうまくないからな」
『消化させる理由は? 取っておいておまえ様の食料にしたほうがよくないか?』
「こいつにも栄養を与えないと、死んでしまうからな」
『なるほど……体の一部を銃弾に変えると、その都度ブラックウーズの細胞を消費する。銃弾を作り続けると細胞をすべて失いやがて死んでしまうから、定期的に飯を食わせる必要があるということか』
まあようするに、魔物を倒し死体をブラックウーズに食わせ続ける限り、銃弾を無限に作れるということ。
ほかにも、銃弾を【減らなくする】方法も、【無】を使えばできなくはないが、その場合だと魔力を消費するからな。
【無】スキルの文字数が増えると、消費魔力も跳ね上がるからな。三文字でも結構持ってかれる。
魔力、というか【無】スキルはできれば温存しておきたい。狙撃では倒せないような、強い敵と相対したときのためにな。
『しかしすごいな、サイガよ。地下にいる強力な魔物を、こんなにもあっさりと倒せるようになるなんてな』
二匹とも銃弾一発で倒しているからな。
「けどまあ、こいつらはどんな能力を持っているかが割れてるから、即死できたようなもんだ」
防御系のスキルをもっていた場合、必中による狙撃は防がれてしまう。
今の二体は防御スキルがないってわかっていた相手だったからな。楽に狙撃で倒せたのだ。
『なるほど……と言ってるそばから、来たぞ。新手だ』
魂を感知できる妖刀が敵の接近を知らせる。
俺は【無視】で姿を隠しながら、敵の姿を確認する。
バッファローみたいな魔物だ。
特徴的なのは、全身を鋼のような鎧で覆っている。
『
「銃弾ははじかれそうだな」
『然り。さて、どうする? 先ほどまでのように、不意打ち狙撃で倒せる相手ではないぞ』
確かにそうだが、しかし。
俺には倒す手立てがある。
「ブラックウーズ、特殊弾を出せ」
『ふむ? 特殊弾?』
コートから黒い触手が伸びて、俺の手のひらの上に、黄土色の弾丸が握られる。
幸運銃に装てん。
俺は【無視】を解いて鋼鉄牛の前に躍り出る。
「ブォオオオオオオオオオオオオ!」
鋼鉄牛が俺めがけて突っ込んできた。
無視を解いたのは、相手に逃げられないためだ。的が小さいからな、今回は。
「いけ!」
ズドン!
必中が付与された銃弾は、俺の狙い通り、鋼鉄牛の右目に着弾した。
『なるほど、目なら鎧におおわれてない。が、威力が足りてないぞ!』
この銃弾で即死させるためには、不意打ち+急所(心臓や頭)をつぶす必要がある。
目を銃弾で打ち抜いただけでは相手を仕留められない。
鋼鉄牛は俺めがけて突進攻撃をしかけてきた……。
が。
ドサ!
『なんと!? 倒れただと!? どうなってるのだ?』
牛が白目をむいてぴくぴくと痙攣している。
『これは……我の麻痺毒! どうなってるのだ、毒なんていつ相手に付与したのだ?』
俺が相手に毒を与える方法は、2つ。
妖刀を敵にぶっさすか、毒息吹で毒ガスを吸い込ませる。
しかし妖刀だと敵に近づく必要があり、毒ガスは息を止めれば防ぐことができる。
いずれにせよ、毒攻撃は当てるのに、かなり難易度が高い。
いや、高かった。
今まではな。
『そうか! 銃弾に毒を混ぜたのか!』
ブラックウーズにあらかじめ、妖刀の毒を食べさせておく。
そして、銃弾を生成する際に、体内にストックしてある毒を混ぜる。
結果、妖刀の猛毒を付与した特殊な弾丸、特殊弾が完成するのだ。
「と言っても弾丸サイズに込められる毒は少量だからな。即死には至らない。が……」
麻痺毒で動けなくなってる牛の、つぶれてない目玉に、俺は妖刀をぶっ指す。
そして、猛毒を一気に流し込んだ。
結果、毒を体内に大量摂取してしまった鋼鉄牛は、絶命。
『すごいぞ、おまえ様よ! こんな固そうな敵でさえも楽に倒してしまうなんて!』
「ブラックウーズ、鋼鉄牛を食え」
コートから黒い触手が伸びて、鋼鉄牛を包み込む。
そしてその体内に取り込んで消化する。
『おまえ様が食べないのか?』
「俺じゃ硬くて食えない。だが、ブラックウーズは相手が固いとか関係なく、なんでも食える。そして……」
■黒衣(ブラックウーズ・コート)→防御力+1500
『! 黒笠の防御力が上がった。そうか、こいつは魔物を食い消化することで、成長し、防御力を上げることができるのか』
呪物・黒笠を失ったのは痛いが、こうしてブラックウーズに魔物を食わせれば、コートの防御力を無限に上げることができるのである。
『すごい、頭がいいなサイガ。応用力がある』
新しい武器を手に入れ、さらに強くなった俺は、先に進むのだった。
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