第7話 レア銃ゲットと魔物テイム



 音速蝙蝠ソニック・バットとの戦闘を終え、俺の心に、一つの欲求が生まれた。


「武器が欲しいな」

『ほぅ、この世界最高の妖刀、七福塵しちふくじんを持ち、なおも武器を欲するとは!』


 妖刀がゲラゲラとおかしそうに笑う。

 いや、笑い事ではない。


「そもそも論としてだな、剣道部でもない、ただの一般高校生に、剣なんて持たされても無用の長物なんだよ」


『ふぅむ。サイガの言うとおりだな。剣士としての訓練を受けたわけでも無く、剣士のスキルおまえ様が持ってるわけでもない』


 確かにこの妖刀はすごいかもしれない。あらゆる毒を生成し、しかも生きてる。

 が……この武器の性能を、今の俺は十全に引き出せない。


「剣士スキルを持つ魔物を食らうのが、手っ取り早いか」

『難しいな。職業系スキルを、魔物は持っていないからな』


「……職業系スキル?」

『剣士や魔法使いといった、職業の名前がついてるスキルだ。何の訓練もなく、熟達者になることができる。剣士スキルなら、剣を自在に、魔法使いスキルなら魔法が念じるだけで発動できる』


 なんて便利なスキルなんだ。是非とも欲しい……ところだが。

 魔物を食っても、職業系スキルは手に入らない……か。


「職業系スキル以外で、剣が使えるようなる方法はないのか?」

『剣の使い手のもとに弟子入りする。もしくは……』

「もしくは?」

『我に体の主導権を渡すかだな』


 ……。

 …………はぁ?


「どういうことだ?」

『我はこう見えて剣の達人でもあったのだ』

「……刀鍛冶とかいってなかったか?」


『一芸に秀でるものは、多芸に通ず、という言葉があるだろう?』


 一つの道を究めた人は、ほかの多くの事柄もみにつけることがたやすい、って意味だったか。


『我は刀を作る道を極めるついでに、刀を使う道も極めたのだ』


 ……うさんくさい。

 が、こいつは俺に対して嘘はつけない契約だ。

 本当にすごい刀使い、なんだろう。が。


「おまえに体の主導権なんて渡すもんか。何をされるかわからん」

『安心せよ。自死はせんから』


「きな臭すぎる」

『それは残念だ。取引はいつでも応じるからな、サイガよ』


 ……こいつからこんなくそみたいな取引の話を聞いて、なおのこと、俺は自分の身を守る武器が欲しくなった。


 ただの高校生である俺が、扱える武器。


「武器ってダンジョンで手に入らないか?」

『入るぞ。宝箱からドロップすることがある』


「宝箱。あるのか、ダンジョンに」

『無論。ダンジョンは人をおびき寄せるために、宝箱を設置するからな。迷宮は人間の魂が大好物なのだよ』


 ダンジョンは人間の魂が欲しい。

 だが人間から魂を回収するためには、そもそも人間を危険な迷宮におびき寄せる必要がある。


 そこで、餌として宝を体内に作る……か。

 ここは難易度の高いダンジョンだと言っていた。


 普通のダンジョンよりも危険で、常人では入らないようなこの場所に、人をおびき寄せるためにはどうするか?

 より強い武器や、アイテムを、配置するだろう。


 ここにはレアなアイテムが存在するはず。武器だってな。

 ……よし。


「宝箱を探す」

『では、おまえ様が先ほど獲得したスキル、反響定位を使うのが良いだろう。あれは周囲に超音波を発することで、生物や物体などの位置を詳しく特定できるからな』


 音速蝙蝠ソニック・バットが使っていたスキルだな。


『目を閉じ、手を地面に置いて、スキル発動を念じるのだ』


 反響定位を発動させる。

 手のひらを伝って、地中に音が広がっていく。


 目を閉じてるはずなのに、周囲の情報が頭の中に入ってきた。

 遠くに……魔物。だがまだこちらに気づいてる様子はないな。


 後ろに宝箱。

 しかも、その他から箱からほど近いところに、2つも宝箱がある。


「よし。宝箱の位置は特定できた。回収しに行く」

『【無】スキルを鍛えるという選択肢はないのか?』


「それも同時並行で行うが、現状、【無】でできる攻撃手段が【虚無】や【無敵】とか、MPをかなり消費する技しかないがな」


 途中で【無】をつかった、ほかの、コストの少ない攻撃手段を思いつくかもしれないが。

 現状は【無】で攻撃は使わない方が良い。


 MPを使いすぎて、気絶なんてしゃれにならない。

 

 ややあって。


 1つめの宝箱のもとへとやってきた。

 この周囲に、あと2つある。まずはこれから開けてみるか。


 アマゾンで飲み物をまとめてかってきたときに、入ってる段ボールくらいの大きさの宝箱だ。

 俺はしゃがみ込んで、宝箱を開けようとする。


 ガチンッ……!


『鍵がかかってるようだな。レアなアイテムが入ってるぞ』


 中身を取られたくないから、鍵がかかってるのか。

 想定内だ。


「【無】を使う」

『ほぅ、【無】でどうやって宝箱のロックを解除するのだ?』


 俺は右手を前に突き出し、スキルを発動。


「【無防備】」


■無防備:任意発動型。消費MP200。


 ガチャンッ……!


『無防備か。対象の、外敵から守るための備えを、無かったことにする。鍵のかかった宝箱の備えと言えば鍵。無防備を使えば、それを解除できるということか! 考えたな』


 宝箱を蓋をあけ、中身やる。


「これは……銃?」


 黒光りするリボルバータイプの拳銃が、宝箱の中に入っていた。


『これは【幸運銃トリガー・ハッピー】という、呪物だ』

幸運銃トリガー・ハッピー……呪物か。効果は?」


『この銃で撃った弾丸は、相手に必中する』

「必中? 絶対に当たるのか?」

『ああ。どれだけ使い手がへぼくても、銃弾は必ず当たる』


「すごい武器じゃないか……」

『高難易度ダンジョンの、鍵のかかった宝箱なのだ。それくらいの高スペックアイテムが入ってても不思議ではない』


 なるほどな。

 ……ん?


「呪物ってことは、デメリットもあるんだろう?」

『然り。1発撃つごとに、自分に向かって引き金を引く呪いにかかる。当たる部位はランダムだ』


 ……しっかり呪われた武器だった。一発ごとに自分に銃弾を撃つなんて、死ぬじゃねえか。

 いやまてよ。


「【無毒】を付けてれば、呪いによるデメリットは無くなるんじゃ無いか?」

『正解だ。つまり実質的に、相手に100%当たるすごい銃を手に入れたということになる』


 おお。ラッキー。


「…………ん? 銃弾は?」


 この銃はリボルバータイプ。

 現在、銃弾は6つ入ってる。6発分、引き金を引ける。が。それ以上は?


『ないな』

「どこで売ってるんだ」

『そもそも売ってないな』

「は? なんで?」

『この世界に銃なんて存在しないからだ』


 ……銃が存在しない、か。

 そりゃまあ、中世ファンタジー風世界なら、銃弾がないかもしれないが。


「じゃあなんで、幸運銃トリガー・ハッピーなんてもんがあるんだよ。これどう見ても、現実の世界の銃を参考に作られてるじゃ無いか」

『これを作るときに、頭の中にイメージが浮かんだのだ。それを形にしたら、こうなったのだ』


 ……は?

 ちょっと待て。


「なんだその口ぶり。まるで、おまえが作ったみたいじゃないか、この呪物」

『おう。そうだ。この世界で呪物とよばれるものは、すべて我が作ったぞ』


 ……は?


「刀鍛冶じゃないのかよ、おまえ」

『そうだ。我は刀鍛冶。いろんな形の刀を作った。オーソドックスな刀にはじまり、盾のようなもの、鞭のようなもの。いろいろだ』


「……その課程で、呪物も作ったと?」

『そういうことだな』


 ……この七福塵しちふくじんってやつ、そうとう……やばい刀鍛冶だったのかもな。

 呪物を作りまくってたし、最終的に、自分も呪物になってしまうし。


 ややあって。


「二つ目の宝箱だ」

『これは開けない方が良いな』 


「なんでだよ」

『ミミックだ』

「ミミックっていえば、宝箱の形をしたモンスター……だったか?」

『然り。こやつはに魂が存在する。宝箱には通常、魂がない。よってこれはミミックだ』


 ……妖刀の魂を感知する力が役立ったな。

 正直、反響定位を俺が獲得した段階で、こいつの魂で位置を特定するスキルは、用済みかと思ったんだが。


 偽装を見破るっていう使い方も出来る訳か。

 捨てないでやろう。


 ミミックはあとで殺して食らうとして……。


「最後の宝箱だな」

『魂が感じられないぞ。絶対に宝箱だな。間違いない。100%』


 俺は宝箱に触ろうとして……。


「いや、触らずにスキルを使う」


 さっき無防備を発動させたさい、ちょっと遠くからでも、相手にスキルを駆けられるという感覚を得たのだ。


『おいおい、我を疑ってるのか? これは宝箱だぞ絶対』

「おまえの言葉は、契約で嘘をつけないから、信じてやるが。おまえという存在は完全に信用できない」


『疑い深い使い手だ。まあ好きにすれば良い』


 俺は【無防備】を発動させる。

 バシュゥウウウウウウウウウ!


『な……!?』


 突如として宝箱がはじけ飛んだのだ。

 宝箱は黒い泥となって、あたりに散らばる。


「やっぱり罠じゃ無いか。どこが普通の宝箱だ」

『泥? 黒い泥……まさか!』

「どうした?」

『宝箱があった場所に、黒い液状の球体があるだろう?』


 確かに、黒いぷるぷるとした液体の球がある。


『こいつは、ブラックウーズという、超レアなモンスターだ』

「ブラックウーズ……?」


『万物を喰らい、そして取り込んだものに変化する力を持ったモンスターだ』

「なるほど……宝箱を喰らったから、完璧な宝箱に変化した。だから、魂が感じられなかったと」


 しかし、万物を喰らい、変身できる能力……か。

 よし。


「こいつをテイムする」

『テイム? 飼い慣らすということか。しかし、テイマースキルはなかっただろう?』


「ああ。だから、こうする」

『? 幸運銃トリガー・ハッピーを構えて、どうするのだ? 撃ち殺すのか?』

「違う。【無我夢中】」


■無我夢中;任意発動型。消費MP2000。成否はランダム。


 銃弾がブラックウーズに突き刺さる。


『無我夢中……あることに心を奪われて、われを忘れた状態になること。か。なるほど、このスキルが当たれば、相手は自分を好きになってしまうと。しかし、成否はランダム……あ!』

 

 気づいたようだな。


幸運銃トリガー・ハッピーは必中なんだろう? なら銃弾にスキルを付与して、相手に当てれば、スキルも必中となる」

『きしし! なるほど! そう解釈するのか。いやぁ、考えたな! 頭の良いやつだなおまえ!』


 ブラックウーズは俺に近づいてきて、足にすり寄ってきた。

 どうやらこいつを夢中にさせることに成功したようだ。


『それで、何をするのだ?』

「こうする」


 俺は幸運銃トリガー・ハッピーから銃弾を抜いて、ブラックウーズに放り投げる。

 ブラックウーズが銃弾を取り込んだ。


「おまえの体の一部を、今取り込んだように変形させろ」


 するとブラックウーズは素直に俺に従い、体の一部を丸めて、精巧な銃弾を作り出した。


『これは驚いた。銃弾を魔物で作ってしまうとは! 見事だぞ! しかもブラックウーズが消滅しない限り、無限に弾が作れる! すごい!』

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