第6話 見えない敵を新技で余裕で倒す



 ダンジョンにて、3度目の戦闘が行われようとしていた。


『サイガよ。後方から敵がこっちに来る。かなり早いな』

「そういうのって、わかるものなのか?」


『ああ。我は妖刀。魂を感知することができるのだ』


 ……また出たな、魂。

 妖刀はそれを感知できる、と。


 魂の場所から、敵の方角と位置を割り出してるのだろう。

 裏を返すと、それしかわからないのだ。敵がどういうやつかとかな。


『どうするのだ?』

「迎撃するに決まってる。とりあえず、【無毒】【無視】をセット」


 コカトリス戦同様に、ステルスからの毒殺を試みよう。


『剣を振り回して敵と戦う、といったことはしないのだな』

「アホか。俺は普通の高校生だぞ? 戦闘訓練なんて受けてない俺が、物語に出てくる剣士みたいに立ち回れるわけないだろうが」


『なるほど。サイガは学生だったか。覚えたぞ』


 俺は女神から剣士や魔法使いと言った、獲得するだけで一流の戦士になれる、みたいな能力を与えられてない。

 レベル、ステータスの数値は確かに高いが、しかしそれだけだ。


 能力値が高い=戦士のように立ち回れるってわけじゃない。

 なら一番確実に、敵を仕留められる方法をとった方が良い。


 今の俺にとっては姿を隠し、毒殺する、そのコンボが最強なのだ。


 さて。


『サイガよ。気をつけろ。敵はこっちに、【まっすぐ】に飛んでくるぞ』

「! 良い仕事だ妖刀」


 妖刀からもたらされた情報は、とても貴重なものだった。

 相手は迷いなくこっちに突っ込んでくる。


 ステルス状態の俺を……だ。

 つまり。


「向こうも、こっち同様に、敵の位置を特定するすべを持ってる!」


 なら隠れてても意味が無い。

 俺はすかさず【無視】を解除。



「キキキ!」


 ザシュッ!


 魔物の声、そして肌を何かが切りつける音【だけ】が聞こえた。

 本来ならここで、激痛に悶えることだろう。魔物の攻撃を食らったのだから。


「妖刀。敵の正体はわかったか?」

『早くて見えなかったぞ』


「役に立たない刀だな」

『無茶を言う。しかし驚いた、攻撃を受けても痛みを感じないのか?』


「ああ。能力を使った。【無痛】だ」


【無痛】:常時発動型。消費魔力100。一秒当たり魔力10


 装着すると、痛みをゼロにするスキルだ。

 ただし、痛覚を切るだけで、攻撃を受けると普通にダメージが通る。


『なるほど、痛みで戦闘不能となるのを防ごうという意図か』

「まあそういうことだ」


 無痛のおかげで思考が痛みで鈍ることはない。

 俺は冷静になって考える。


 まず、敵はかなり素早い。

 俺も妖刀も敵の姿を目でとらえられない。


 次に、敵は何らかの手段を用いて、俺の位置を特定している。

 おそらく物陰に隠れても無駄だろう。無視ステルスを突破してくるくらいだからな。


『サイガが超動体視力を持つ剣士ならば、敵の動きを見切ることが出来るが、悲しかな、おまえ様はただの学生。敵を見切って攻撃は不可能だ。さて、どうする?』


 俺は物陰に隠れてみる。

 ざしゅっ!


 物陰に隠れても、敵は俺を狙って攻撃ができる。

 やはり何らかの手段で敵は俺の位置を特定しているのだ。


 ステルス、つまり視力に頼らず……なら……。


「よし。新スキルを試すぞ」


 俺は妖刀を構えて、スキルを発動させる。

 そしてしばらく、待つ。


『ただ突っ立っているだけでは、また攻撃を受けるぞ?』

「そんなわかりきったこと、言わずともわかる。まあ見てろ」


 どさっ!


 目の前に、何かが落っこちてきた。


「でけえコウモリだな」

音速蝙蝠ソニック・バッド。ダンジョン内に生息し、高速で飛翔するコウモリモンスターだぞ』

 

 コウモリか。

 なるほどな。だから、視界に頼らず俺の居場所が割り出せたわけだ。


『サイガよ。しかしどうやってこのコウモリを倒したのだ?』

「まあ、正確にはまだ倒してない。ただ、麻痺させただけだ」


『麻痺?』

「周りよく見てみろ」


 俺の立っている周囲には、黄土色の煙が漂っている。


『! なるほど、我の麻痺毒を、毒息吹で体外に流出させたのだな』


 毒息吹。

 コカトリスを食って獲得したスキル。

 体内の毒を吐き出す、という毒持ちではない生物にとっては、あまり使い道のないスキルだ。


 だが、俺は妖刀を装備してる。

 この刀は猛毒を帯びている。その毒を、毒息吹を使ってアウトプットしたのだ。


『妖刀の毒は刀に付与されており、外に出せない。だから相手に毒攻撃を与えるためには、刃で傷つけるしかない。が。毒息吹があれば、我の毒をこうして外に出せるということか』


「ああ。そして俺の周囲に毒を散布。毒が滞留している空間に、この蝙蝠が突っ込んできて、で、毒を吸って麻痺したってわけだ」


 相手は視力を使わないで、俺の位置を特定していた。

 嗅覚、あるいは聴覚が鋭い敵だと考えた。


 しかし物陰に隠れた俺を奴は攻撃してきた。

 遮蔽物を回避してきたって考えると、匂いで位置特定してきたとは思えない。


 よって、敵は音で俺の位置を特定する敵だと推測。

 

『それで毒の罠を張っておいたわけか。いくら耳がよくても、毒があることには気づけないからな。すごいな、こんな作戦、あの一瞬で考え付くなんて』


 無痛を使っていたおかげで、あれこれ考える余裕があった。

 無痛スキル、これもまた結構使えるな。


「ぎ、き……きぎぃ!」

 

 ドスッ!

 麻痺で動けなくなっている、コウモリの腹部に、妖刀をぶっ指す。

 コウモリは悲鳴を上げると、すぐに絶命した。


妖刀の毒が強いからか、こいつの装甲が紙だったからか。

まあ、後者か。こんだけ素早く動けるんだからな。


「さて、食うとするか」


 コウモリとの戦闘でダメージをそこそこ負ったからな。

 コウモリを持ち上げる。


 ……グロ。

 ニワトリ、ヘビはまあ、食べれた。向こうでも普通に食うからな。ヘビはちょっとあれだったけど。あの問いは生きるためだったし。


だがコウモリ……。

 普通にぐろい。食いたくない、と俺の体が拒絶する。


 だが、目をつむって一気に食べる。

 HPを回復させる手段は、現状、魔物の死体しかないのだ。


 回復ポーション等の、他のお手軽回復手段があるなら、そっちを使うがな。

 さて、コウモリの味はというと……。


「な、なんだこれ。意外と食えるな」


 内臓抜きをせず、丸っと食ったのだが、これが意外とまずくないのだ。

 内臓は、サンマのはらわたくらいの、ほどよい苦み。


 コウモリの骨は全然固くない。

 ニワトリの軟骨みたいな感じで、コリコリとした食感がして美味い。


 肉の感じはコカトリス、つまり鶏肉に近い。

 鳥刺しに軟骨、そして魚のはらわた、それらをぴりりとからいソースをかけて食べる……。


 はっきり言って思ったより美味い。


「まさか未調理の生食で、こんなうまいとは……」


 火であぶって食えばもっとうまくなりそうだ。

 火が欲しい。


『疲労は回復したようだな』


 コウモリはかなり小さく、可食部位はほぼないと思われた。

 が、普通に腹は満たされたし、HPも全回復。


 無痛スキルを切っても痛みが尾を引くことはなかった。

 魔物は思ったより栄養価が高いらしい。


『スキルはどうだ?』 

「【反響定位】ってやつを獲得した。特殊な超音波を発生させて、周囲の物体や生物の位置を正確に把握するスキルだってよ」


『なるほど、これでおまえ様の位置を敵が正確に把握していたからくりが解けたな』


 反響定位スキルを使えば、周囲に潜んでいる敵の位置を特定できる。

 遮蔽物の多いダンジョンにおいて、これほど、頼りになるスキルはない。


『それにしても、やはりおまえ様はこの世界で特別な存在なのだな。自在にスキルを進化せ、むげんに魔物を食らってスキルを増やすことができるなんて。我もそこそこ長く生きてるが、そんな人間聞いたことないぞ!』


 俺は妖刀を鞘に納めて先に進む。

 目指すはダンジョンの脱出だ。

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