第5話 魔物を食い、スキルゲット



 俺の名前は松代まつしろ 才賀さいが

 高校生。


 女神のくそ野郎のせいで、ダンジョン内に破棄させられた俺は、スキル【無】と妖刀【七福塵しちふくじん】とともに、ダンジョン脱出を図る。


【無視】で見えなくし、コカトリスを暗殺した俺。


「先に進むか」

『まあ、待てよおまえ様。魔物を食らっていくといいぞ』


「魔物を食らう……?」

『ヒドラ戦でおまえ様はやっただろう?』


 確かに、ヒドラを捕食した。が。


「あれはほかに攻撃手段が無かったからやったわけで。別に魔物を食う趣味はないぞ、俺は」

『まあ聞け。魔物を食らうと、おまえ様にとって良いことが起きる』


「良いこと?」

『ああ。魔物を食うと、疲労回復+技能獲得の効果があるのだ』


 ……疲労回復。

 それに……技能獲得、だと?


 疲労回復は文字通り疲れを取る。

 しかし技能獲得ってどういうことだ?


『まあものは試しだ。やってみろ』


 妖刀が俺を騙す、という可能性はないだろう。

 こいつは俺と契約を結んだのだ。


 俺にとって不利な発言はしない、嘘はつかない……ってな。


「食べてみるよ」

『それがいい。ああ、そうそう。魔物には強毒が含まれており、食らうと通常は死ぬからな』


「…………食べると宣言したあとに言うなよ」


『無毒で中和できるからな。言わずとも良いだろうと判断したまでだ』

「…………そうかよ」


 やはりこの妖刀、信用ならない。

 完全に心を許すのは危険だ。契約があるからかろうじて味方してくれてるが、それがなければ、俺は魔物を食って死んでいたのだ。


 ……こいつの言葉を鵜呑みにするのはやめておこう。


 さて。

 俺はコカトリスの死骸の前に立つ。


「食べるって言っても……生肉を食らうしかないよな」


 現代日本出身者としては、生食はしたくないな。

 が、肉を焼く手段がない。


 生肉には、サルモネラとかカンピロバクターっていうばい菌がついてるから、そのままくうと腹を下す。

 ……魔物の肉に含まれる毒を無毒で中和できるが、食中毒を同様に、スキルでなんとかできるのだろうか。


「おい。食中毒にも、無毒は有効か?」

『無論』


 ……妖刀は契約で嘘がつけない。よし。

 俺はコカトリスの生肉に、かぶりつく。


 …………な!?

 

「美味いっ」


 思わず声に出してしまうほど、コカトリスの生肉は美味かった。

 そういえば、日本の九州地方には、トリサシといって生で鳥の肉を食う文化があるそうだ。

 食中毒のリスクがあってもだ。つまり、生の鶏肉は美味いってこと。

 このコカトリスの生肉も、結構いける。


 食べた部位は胸肉だ。

 本来脂身が少ない、あんまり美味しくない部位のはず。


 だがしっかりとした歯ごたえと、噛めば噛むほどにあふれる肉汁、そしてうま味。

 体に、力がみなぎっていくのがわかる。


「魔物って……美味いんだな……」


 しかし誰も食べないのは、魔物に毒があるからだろう。

 無毒がない人間には、魔物食いは自殺行為でしかない。


 ……もったいない。 

 こんなうまいのにな。


 俺は、一口試すだけが、コカトリスの肉をすべて食らった。


『相当美味かったようだなぁ、おまえ様よ。無心で食らっていたぞ? ああ、そうそう。敵の接近がないか、ずっと周囲を警戒してやっていたぞ。褒めても良いぞ?』


 ……しまった。

 美味すぎてつい、夢中で食っていたが、ここはダンジョン。

 死と隣り合わせの場所だ。何をのんきに飯食っているのだ……。くそ。


 この妖刀にはあまり借りを作りたくなかったのだがな。


「で、食ったぞ。良いことってなんだ?」

『くっく、我にこびないその姿勢、嫌いじゃ無いぞ?』

「いいからさっさと教えろ」

『まずはステータスを開くが良い』


~~~~~~

松代まつしろ 才賀さいが

レベル 172


HP 1720/1720

MP 2220/1720(+500)

攻撃 172(+1000)

防御 172(+1000)

知性 172

素早さ 172

~~~~~~


 数値を見てぱっとわかるのが、レベルが上がってることだ。

 前は140ちょっとだったのが、172にまで上昇してる。


 次にわかるのが、HPが全回復していた。

 これはレベルが上がったからか、魔物を食ったからかは判然としない。


『魔物を食らうメリットその1だ。倒すよりも多くの経験値を得られる。レベルの上がる速度が上昇する』

「なるほど……じゃあヒドラの時もそうだったんだな?」


『然り。おまえ様が142というすごいレベルになったのは、ヒドラを食らうことの恩恵だ。そしてレベルが上がるとHPが全回復するが、魔物を食うとレベル上昇関係なく、疲労が回復する』


 確かにこいつは、疲労回復効果があるって言っていたな。

 あれは、HP回復って意味だったのか。


『そして魔物を食らうメリットその2。ステータス画面をスライドさせ、スキル一覧を表示してみろ』

「いちいち命令するな」


『ああ、すまない。口調には気をつけるよ。さあ』


 ……俺に不利になる発言はしない、という契約だからな。

 俺はステータス画面に触れて、横にスライドさせる。


~~~~~~

スキル一覧

・【無】(【無毒】【無 】)

・スロット+1

・毒息吹

~~~~~~


「スキルが……3つある?」


 そのうち、【無】は俺が元々持っていたスキルだ。

 そこに加えて、スキルが2つ。


「まさか……増えるのか? 魔物を食らうと、スキルが」

『その通りだ。正確に言うと、その魔物の持つ【魂】を食らうことで、おまえ様は新しいスキルを得る』


 ……魂を、食らう……?

 

「ただ魔物の肉を食っても意味ないのか?」

『そうだな。死んだ魔物の体内に、魂が残っている状態で、魔物を食わないと、スキルは獲得できない』


 こいつの発言からわかるのは……。

 魂、という概念があること。


 肉体が滅んですぐは、まだ魂が残っている状態。

 そこで食わないとスキルが獲得できない。


 裏を返すと、たとえば誰かが倒し、長く放置された魔物の肉を食っても、別にスキルが得られる訳じゃないってことだ。

 ようは、倒してすぐ、新鮮なうちに食べないと、スキル獲得できないってことだ。


「しかしスキルってこんな簡単に手に入るのだな」


 すると妖刀は……。


『あっはっはっは!』


 と急に笑い出した。


「なんだ、腹立つな。馬鹿にしてるのか?」

『すまない、気分を害したなら謝罪しよう。我が笑ったのは、いやなに、おまえ様は本当に異世界人であって、この世界の常識を知らないのだなってことだ』


 やっぱり馬鹿にしてるじゃ無いかこいつ……。


「地下に置いてくぞ」

『それは困る……!』


 妖刀が焦りだした。こいつも、放置されるのは嫌なのだろう。


「だったら小馬鹿にするような発言はするな」

『わかったよ。はは、手厳しいマスターだ』


「で、さっきの発言の真意はなんだ?」

『簡単なこと。スキルとは後天的に身につけるのが、とても難しいのだ』


 ……ふむ。

 スキルの獲得が、とてもむずかしいだと?

 

「そうなのか?」


 ポケ●ンとかだと、レベルを上げればすぐに新しい技を覚えるのだが。


『然り。スキルとは、生まれ持ったもの以上のものを獲得するとなると、長い長い修練が必要となる。しかも、才能のあるごく一部の人間が、苦労してようやくという具合だ』


 ……選ばれた者が、すごい努力しないと、新たらしいスキルが身につかない……か。


『大抵の持たざる者たちは、与えられた1つをどうにかこうにか工夫しながら使って生きてる。が、それでも新しいスキルになることはまずない』


「なるほど……でもじゃあ、なんで俺はこんなあっさりスキルを獲得できたのだ?」


『それは簡単だ。魔物を食ったからだ。だが、この世界の人間は、魔物を食うことが出来ない』

「毒があるから?」


『その通り! 頭の回転が速いな。つまり、無毒を持つおまえ様だけが、この世界でただ一人、魔物を食らってスキルを獲得できる、選ばれし者なのだ』


 ……俺だけが、か。

 無毒スキル、もっと言えば、【無】を持っていたからこそ、この特権が与えられてるってことか。


 ……はは。


「なにがFラン勇者だよ。【無】スキル、やばすぎだろ」


 無限の可能性に加えて、魔物を食ってスキルを得るという、この世界の誰も出来ないことまで出来てしまうんだからな。


『おまえ様を廃棄した女神は、相当……阿呆なのだな』

「気が合うじゃ無いか」


 こいつを完全な敵だと思って行動するのは、まあ、少しだけ控えておくか。

 あくまで少しだけだ。完全に気を許すわけではない。


『さて、食事を終えたところで、おまえ様よ。敵が近づいてきてる』


 ちょうどいい。

 新しく手に入れたスキルを、試してみるか。

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