第4話 状況整理と方針設定


 俺の名前は松代まつしろ 才賀さいが

 どこにでも居る高校生……だった。


 くそ女神に廃棄されたダンジョンで、ヒドラと出会い、なんとか勝利を収める。

 ドロップアイテムの妖刀【七福塵しちふくじん】、そして呪物【夜笠】を手に入れた。

『我が使い手よ』


 妖刀からは、中性的な声が聞こえてくる。

 男のようにも聞こえるし、女と言われてもまあ納得がいく。そんな感じの声だ。


『名を聞こう』

松代まつしろ 才賀さいがだ」


『ふむ……サイガ・マツシロ。おまえ様はひょっとして召喚者か?』

「なんだよ、召喚者って?」


『異世界より召喚された者のことだ。そういうやからは古来よりいたのだ』

「じゃあ、それだ。くそ女神のせいで、こっちの世界に無理矢理連れてこられた……というか捨てられたんだよ」


 あのくそ女神め。

 俺を悪者に仕立て上げた上で捨てやがった。絶対に許さねえ。


『サイガよ。今おまえ様が置かれてる状況は、そこそこ危ういぞ』

「……どういうことだ?」


『ここは高難易度ダンジョン、【七獄セブンス・フォール】だ』

「七獄……?」


『世界トップクラスに難易度の高い七つのダンジョンの総称だ。ここは七獄の一つ、【憤怒の迷宮】と呼ばれている』


 七つの地獄で、七獄。

 しかも憤怒のダンジョン……。


「もしかして、ほかにも暴食とか高慢とか、そういうダンジョンがあるのか?」

『そのとおりだ。知恵が回るな。ともあれ、ここがものすごい高難易度のダンジョンであることは理解したか?』


「ああ……」


 脳裏に、ヒドラとの戦いがよぎる。

 正直、ギリギリでの勝利だった。


 相手が毒攻撃以外のすごい攻撃手段を持っていたら……。

 あるいは、俺が無毒なんていうヒドラメタな能力を持っていなかったら……。


 今頃、俺は即死していただろう。


『ヒドラはこのダンジョンで出現するモンスターの一つにすぎない』

「ほかにもあれくらいやばい敵がいるっていうのか」


『然り。そのうえ、このダンジョンは全250階層。そしてここはその最下層だ』

「250……」


 気が遠くなりそうな数字だ。

 相当奥深くに、俺は捨てられたってことだな。


『さて、サイガよ。現状は理解したな? その上で、どうする?』

「どうするって……」


『聞いたとおり、ここは七獄セブンス・フォール、高難易度ダンジョンだ。生きて外に出れる保証はまるでない』

「…………」


 この部屋を出たら、そこにはヒドラ並のやばいモンスターが待ち受けてる。

 そして、250にもおよぶ、広大なダンジョンも……。


『リスクを犯してまで、外に出る必要はないだろう。幸いにして、この部屋はヒドラのナワバリだ。ほかの魔物は入ってこない』


 なるほど、さっきから魔物が襲ってくる気配がないのは、そういう理由だったか。


『で? どうする?』


 どうする……かだって?


「決まってるだろ。外へ、出る」

『魔物がうろつくダンジョンを抜けてまで、なぜ外に出たい?』


「決まってるだろ。復讐だ」


 俺を捨てたくそ女神。

 俺をいじめた木曽川。


 俺に呪いがかかっているとかいう、明らかな嘘をあっさり信じて、俺を廃棄することに賛成したクラスメイト。


 あいつらが……憎い。


「あいつら全員に、仕返ししてやらないと、気が済まない」

『くくく……あははは! いやいや、良い使い手に拾われたものだ! いいぞ、ではその復讐に、我も喜んで協力してやろう』


「協力?」

『ああ。おまえ様から聞かれたことに対して、嘘偽り無く答えてやろう。もっとも、我が知ってる範囲でということになるがな』


「……その言葉を、俺がバカ正直に信じるとでも?」


 こいつは妖刀、呪物だ。

 しかも、触れたら意識を乗っ取られるとかいうやばい代物であり、そんな呪いがかかっていることを、俺に聞かれるまで黙っていた。


 信用できる相手じゃない。


『安心しろ。これは契約だ』

「契約……」


『ああ。呪いを扱うものにとって、契約は非常に重要な要素のひとつだ。我はおまえ様に協力し、聞かれたことに嘘偽り無く答える』

「……見返りはなんだ?」


『おまえ様の復讐が完了するまで、この妖刀をおまえ様のそばに置くこと』

「妖刀以外の武器を使うなってことか?」


『解釈は任せる。とかく、我をそばに置いてくれればそれでいい』


 ……妖刀はヒドラの毒を使える。強力な武器だ。

 それをノーリスクで使えるうえ、俺の問いかけに何でも答えてくれる。


 この世界の情報をほぼ何も知らない俺にとって、情報、そしてこいつの毒は武器となる。


「わかった。契約を結ぼう」

『くくく、これで正式に我の使い手となったな。よろしく頼むぞ、我が使い手よ。退屈させるなよ』

「命令するな」


 くっくっく、と妖刀が笑う。


『さて、現状の把握、そして方針が定まったところで……とりあえず今ある手札を確認しておくべきではないか?』

「そうだ。たしか……ステータスが確認できるんだったな」


~~~~~~

松代まつしろ 才賀さいが

レベル142


HP 1420/1420

MP 420/1420(+500)

攻撃 142(+1000)

防御 142(+1000)

知性 142

素早さ 142

~~~~~~


「……まるでゲームだな」

『女神が、おまえ様たちの世界に合わせて、成長の様子をわかりやすく可視化したのだろう』


 なるほどね……。俺たち大抵みんな、ゲームやってるからな。

 ゲームっぽい表示になってるわけか。


「レベル142って……俺、1じゃなかったか?」

『ヒドラを倒し、食らったことで、進化したのだろう。人は魔物を倒すとレベルが上がるのだ』


 そこもゲームっぽいな……。

 しかし、それにしたって……。


「1から142にって……上がりすぎだろ」

『ヒドラはそれだけ強い敵だった、ということだ。強さを等級にすると、S。上から3番目に強い敵だ。ちなみに七獄セブンス・フォールにはSランクの魔物がうじゃうじゃいるぞ』


 しかし改めてだが……。


「女神は、俺を生かす気、ほんとにゼロだったんだな」


 倒し食らうことで、141もレベルが上がる、格上の魔物がうじゃうじゃいるなかに、捨てやがったんだからな。


 ……あのくそ女神。

 勝手に拉致っておいて、使えないからってポイ捨て、しかも絶対死ぬような場所に?


 ……ふざけやがって。

 人の命をなんだと思ってる? おもちゃじゃないんだぞ……?


「殺してやる……あいつだけは少なくとも……」

『まぁ、慌てるなよおまえ様。神のレベルは相当高いぞ』


「142も結構高くないか?」

『そうだな。だが、そのレベルでは神クラス相手は厳しい』


「ヒドラとかのSランクは?」

『まあ、頑張ればなんとかって感じだな。しかしおまえ様にはヒドラを倒し手に入れた呪物、そして……最強にして万能スキル【無】がある』


 ステータスの数値に+補正がかかっている理由は、呪物を装備してるからだそうだ。

 そして、ステータスをスライドさせると、所有してるスキルの一覧が表示された。


~~~~~~

所有スキル

【無】レベル1

~~~~~~


「スキルの横のレベルがあるんだが、これはなんだ?」

『スキルのレベルだ。スキルを使えば使うほど高くなる』


「スキルのレベルが上がるとどうなるんだ?」

『たとえば、効果範囲が広がる、威力が上がる、消費魔力が減る……など、レベルが上がることでいろんな恩恵が受けられる。スキルが派生して新たなスキルを覚えるということもあるな』


 使用すればするほどレベルが上がる……か。

 ステータス画面をスクロールさせる。


~~~~~~

スキル【無】レベル1:スキルスロット2

【無毒】:常時発動型。消費魔力120

【無 】:

~~~~~~


「スキルスロットって書いてあるんだが、なんだこれは?」

『思うに、おまえ様が【無】を進化させられる上限数ではないか? 下のは、おまえ様が今身につけてるスキルだろう』


 確かに無毒は使っている。そうじゃなきゃ、呪物は装備できないからな。


「スロット2ってことは……現状だと、【無】を2つにしか進化させられないってことか? でも、俺、無傷や虚無を使ったけど?」

『付け替えができるのだろうよ』


 つまり……。

 レベル1では、【無~】を2つまで、進化させて装備ができる。

 3つ以上装備したい場合は、1つを外し、【無~】に戻さないといけないわけか。


「無毒はつけておくとして……あとは、虚無かな。攻撃手段は欲しい」

『ふむ、それなのだが、やめておいた方が良いぞ』

「どうしてだ?」


『消費MPが、尋常ではないからな』


 試しに虚無を装備してみる。


~~~~~~

スキル【無】レベル1:スキルスロット2

【無毒】:常時発動型。消費魔力120

【虚無】:任意発動型。消費魔力1500

~~~~~~


「1000か……結構、MPを消費するんだな」

『強いスキルを発動させるためには、そうおうのリスクが居るということだ』


「ちなみにMPが切れるとどうなるんだ?」

『気絶し、しばらく目が覚めない。その間に魔物に襲われたら終了だな』


 ……虚無一発で、1500持ってかれる。

 で、現状のMPでは虚無を発動できない。


 なら……つけておかないほうが無難か。


「【無~】って……これ、自由に設定できるんだよな」

『そうだな。設定自体はおまえ様が決められるが、発動型と消費魔力は、自動で設定されるようだな』


 なるほど……。ん?


「ひょっとして……【無敵】とか、できちゃうんじゃないか?」


 マ●オのスター状態みたいな。

 攻撃を全く受け付けず、触れたら相手を一撃死させるみたいな。


~~~~~~

スキル【無】レベル1:スキルスロット2

【無毒】:常時発動型。消費魔力120

【無敵】:常時発動型。消費魔力9999。一秒あたり1000

~~~~~~


『無敵は、文字通り無敵になるスキルのようだが、装備するのにMPを一万近く必要とするうえに、1秒ごとにMPを追加で1000消費するようだな』


 どう考えても、今の俺には使えないスキルだ。

 装備するだけで気絶してしまう。


「結構、縛りが多いんだな」

『強い武器を使いこなすためには、それなりの技量が必要となるということだろうよ』


 わかったことがある。

 スキルには、常時発動(装備すると常に発動するスキル)、任意発動(装備し発動を宣言すると発動するスキル)がある。


 常時発動スキルは、装備するのにMPを消費し、任意発動は発動するのにMPが必要となる。


「常時発動はコスパがいいな」

『だが、付け替える都度MPを消費するから、注意した方が良い』


 任意発動は装備しただけでMPがかからないが、使うたびにMPを削る……か。


「無毒は装着しておくとして……あともう一つは……」


 まてよ。

 俺には武器があるんだ。だから……


「よし。【これ】でいく」


 俺は二つ目のスキルをセットし、準備を完了させる。


「いくか」

『ヒドラのナワバリの外にでたら、すぐ敵が襲ってくるぞ。準備はいいのか?』

「もちろん」


 出口へと向かう。

 そして……一歩、前に足を出した。


「コケェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」


 突如として、鶏の声が響き渡る。

 ピキピキピキ……!


 俺の周りが、一瞬で石化した。


『みよ、斜め前に、コカトリスがいる。石化の呪いを使うやっかいな敵だ』


 岩の上に、でけえ鶏が鎮座してやがった。

 あれがコカトリスか。


 石化の呪い? 


「俺には効かなかったぞ?」

『無毒を装備してる影響だろうな』


「呪いは毒じゃないだろ?」

『何を言う、呪いとは人体にとって猛毒なのだ。それゆえ、無毒は呪いすらも打ち消す』

「へりくつじゃないか……?」

『違う。解釈だ』


 ああ、そうかい。

 まあなんにせよ、ラッキーだ。


 呪物を装備するために身につけていたスキルで、敵の攻撃を防げたんだからな。

 さて……。


「じゃあ、軽く駆除するかな」


 俺は妖刀を手に取って、コカトリスの方へと……歩いて行く。

 コカトリスは……しかし、首をキョロキョロさせるばかりで、目の前のエサに気づいていない。


「間抜けが。死ね!」


 俺は妖刀をコカトリスの眉間に、ぶっさした。


「ゴゲ!?」


 やつはようやく、俺を認識しただろう。

 そう俺が装備したスキルは……。


【無視】;常時発動型。消費魔力100。一秒あたり10


『はは! なるほど、無視ね。相手の目に、おまえ様の姿が見え無くするスキルか』


 ようはステルススキルだ。

 俺の姿を見えなくして、猛毒の妖刀でぶっさして殺す。


 コカトリスは白目をむいて、その場でぶっ倒れた。


『はは! すごいぞ、コカトリスはランクS! ヒドラと同等の強者を、おまえ様は一撃で倒してしまった!』


 MPによる縛りは結構きついが、やっぱりスキル【無】は、とんでもないなって思った。

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