第24話 成績の話

 暫くはみんな集中して、黙々と勉強をしていた。現在時刻は6時過ぎである。一般的な夕飯の時間だ。当然お腹も空いている。


「なあ、俺そろそろ食事頼みたいんだけど、お前らはどう? 腹減ってない?」


 やはりと言うべきか、一番最初にテスト勉強を止めたのは拓真である。拓真は注文の提案をする前から、うだうだと勉強中の純也を軽く邪魔しながらスマホをいじって暇を潰していた。


「そうだね。俺もお腹すいてる」


 と、純也も拓真の言葉を肯定した。


「ったく……。純也も構ってあげないで、ちゃんと怒ればいいのに」


 席を由美の傍から元いた場所に戻りつつ、真人は拓真の頭を軽く叩いた。拓真は不満げに唇を尖らせているが、自業自得だと言わんばかりに真人がまた手を構えれば、頭を押えて大人しくなる。


「だーって! テスト勉強とかめんどくさいじゃん」

「それで一番成績がいいから腹が立つんだよな」


 向かいから幸雄もそう言った。その顔は先程真人に叩かれた拓真以上に、不満げである。


「へへっ。まあねー」


 拓真はそれに軽く返すから、幸雄は更に不快そうに眉を寄せるのだった。

 

 由美達も食事にするつもりのようで、勉強道具を鞄にしまっている。そして、拓真に声をかけた。


「家では勉強してるの?」

「んー…今はあんまり? 俺は姉貴と2人暮らしなんだけどね」


 拓真の言葉に、由美と茉莉は首を傾げた。姉と2人暮しであることと、家庭での自主学習。なんの関係があるのだろうか。と疑問に思う。


 由美と茉莉が同じようなポーズをとっているので、拓真は思わずくすりと笑った。


「あのね、俺が中学受験して上京するって決めた時、仕事を手伝うって条件で姉貴の家に一緒に住まわせてもらうことになったんだ。そん時に姉貴から色々と詰め込まれたせいで、俺は勉強しなくても余裕でいい点取れちゃうってわけ。学校の授業も、姉貴に詰め込まれた知識の復習みたいなものなんだよ」

「あの人、スパルタだもんな」

「まあ、俺ってばやれば出来ちゃうタイプだったから? そんなに苦労はしてないけど!」


 拓真がニヤッと笑ってそう言うので、隣に座っている真人はイラッとした。眉を寄せて拓真を睨みつける。


「あはは。真人もどちらかと言うと俺と同じタイプでしょ?」


 真人の睨みを軽くいなして、拓真は笑う。確かに、真人は授業を聞けばある程度は内容を理解する。テスト前に軽く復習するだけで高得点を取れるので、どちらかと言えば拓真寄りのタイプだった。


「それで言うと、一番勤勉なのは幸雄だよね。自習の時も真面目に勉強してたの、幸雄くらいだし」


 純也は純也で、家に優秀な家庭教師が付いている。拓真と同じように、中学時代には既に高校の勉強も始まっていた。そのため、あまり勉強せずとも軽い復習をするだけで事足りてしまう。また、テスト期間中は家庭教師も当然のように対策問題を作ってきてくれるので、自ら復習をしなくとも、自然とテスト勉強が出来る仕組みになっていた。


「みんな凄いね」

「頭いい人っていいなあ……」


 由美は真人のおかげで、ある程度の内容は頭に入った。しかし、今までのテストがあるので自信はない。しゅんとした顔でテーブルに置いてあったオレンジジュースを飲み干した由美は、少々不貞腐れた顔をしていた。


「浜野さんは飲み込み早いし。平気平気」

「そうだといいなあ」


 飲み物が無くなったので、料理と一緒に追加しようと店長を呼んだ。


「私、オレンジのおかわりと、今日は…今日の日替わりってなんですか?」

「今日はピリ辛冷やしうどんだよ」

「え。美味しそう……。この後、俺達も注文いいですか」


 由美が注文をしている横から、拓真がチラッと由美達のテーブルの方へ身を寄せて店長に声をかける。

 

「もちろん。少し待っててね」


 最近暑くなってきたこともあり、全員が日替わりメニューのピリ辛冷やしうどんを頼んだ。


。。。


「この間会った水木さんと山根さんも、やっぱり成績いいんだ」


 テストの話の延長で、茉莉と同じクラスの里美と和実の成績の話に繋がっていた。由美達いつもの4人の中では、里美が一番成績が良いらしい。ちなみに、ワースト一位は由美だそうだ。


 由美はしょぼんと肩を落として、静かにオレンジジュースを口に含んでいる。


「副教科の成績なら張り合えるんだけどな」


 そして、小さな声でそう呟いた。


「残念ながら、中間だから副教科はないのよね」

「うん……」


 そうこう話をしているうちに、冷やしうどんが出来上がったようだ。店長と詩音がそれぞれのテーブルに持ってきて、置いてくれる。


「美味しそう」

「香辛料のいい匂い。いただきます!」


 今のところハズレがないほしのねこの料理は、このピリ辛冷やしうどんも当然のように美味しかった。


「辛さが丁度いい」

「ごま油がいい味出してるよね」

「美味しい!」


 後味が残るというほどの辛さではなく、絶妙だった。口に含んだ時にピリッと刺激してくるのも癖になる。お肉と野菜の量も絶妙なバランスだった。


「夏って感じするな」

「そうだね」


 一足先に夏を感じた真人達は、食べ終えた後も少しだけ勉強をしてから、今日も満足してほしのねこを後にするのだった。

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