縮まる距離
第23話 テスト勉強
体育祭が終わったら、学園はすぐにテスト期間に入る。神奈川県内では偏差値が高めだと言われている藤波、洋極の両学園は、全体が次のテストのためにピリついていた。
「息詰まるわぁ……」
優秀生徒が多いとされている洋極学園の白組でさえも、教室内の空気は張り詰められている。そんな中、退屈そうに机に項垂れたのは、前回のテストで学年トップだった拓真である。
「勉強しろよ」
「飽きた」
自習時間、拓真は早々に自習課題を全て終わらせて暇をしていた。ちなみに、いつもつるんでいる4人とも、課題は全て終わっている。
この時間、純也は家業に関する資料を読んでいて、幸雄は苦手な古典のテスト勉強をしていた。真人は先生に薦められた論文を読んでいる。
「ねえ、暇なんだけど」
「知るか。飽きたなら本でも読んでりゃいいだろ」
拓真の言葉に素っ気なく返した真人は、論文が載っている冊子を1枚捲った。
「面白い本ないの?」
拓真はめげずに真人に声をかける。
「この論文か現代文の教科書しかない」
「楽しくねえ」
拓真がうだうだとしていると、周回の先生にペシンと下敷きで軽く頭をはたかれてしまう。拓真は一気に力が抜けて、ふしゅんと大人しくなった。
「……ねえ、今日ほしのねこ行こうよ」
それでも暇なことに変わりはなく、拓真は机に向かうフリをして真人達に声をかけた。
「いいけど。急すぎじゃない?」
「退屈になると、いつも唐突に何か始めるんだもんな」
幸雄と純也も自分の作業をやめ、拓真を見て困ったように笑った。
「あそこ、テスト勉強とかさせてくれっかな?」
拓真がそう言うと、真人が眉を寄せる。
「ファミレスじゃあるまいし。迷惑だろ」
「むぅ……」
。。。
真人は迷惑だと思っていたが、ほしのねこに着いたら由美と茉莉がテーブル席で教科書やノートを広げているのが見えた。
「テスト勉強?」
4人でいつもの席に座り、隣のテーブルに座る由美と茉莉に声をかける。2人は集中していたのか、声をかけられるまで真人達に気づかなかった。パッと顔を上げて、驚いた顔をしている。
「今来たの?」
「うん。こんにちは。浜野さん。山里さん」
真人が挨拶をすると、2人も挨拶を返してくれる。店長がお冷を持ってくる際に、真人達4人に向かってこう言ってくれた。
「洋極もテストが近いんだろう? 夜は混むこともないだろうから、みんなも良かったら勉強に使って」
迷惑ではないか。と思っていたのだが、店の主に肯定されたのなら、それはもうお言葉に甘えるしかない。いの一番に勉強道具を取り出したのは、4人の中では成績が一番低い幸雄だった。それでも学年の中では上位なのだが、とにかく他の3人がずば抜けて高いのだ。
「その代わり、注文も頼むよー?」
店長は茶化すように言っているが、4人は当然そのつもりだ。しかし、せっかく許可を貰ったので、晩御飯の前に軽くテスト勉強をしようと思った。そのため、4人はまだ料理は注文せず、とりあえず飲み物だけ注文する。
「かしこまりました!」
店長が飲み物を用意してくれている間に、真人達もそれぞれ勉強道具をテーブルに並べる。
「ねえねえ、4人とも勉強は得意なの?」
茉莉が小声で聞いてくる。由美は邪魔をしてはいけない。と茉莉を咎めつつも、気になるのかちらりとこちらを見てくる。
「一応、俺達は全員上位キープだよね」
「一番成績がいいのは拓真だな。サボり魔のくせに」
「仕事の手伝いは仕方ないじゃん」
ブースカと文句を垂れる拓真を放って、真人は逆に質問をしてみた。
「2人は? 山里さん、青組って事は1年次の成績も良かったんじゃない?」
言っては悪いが、2年次からのクラス編成で黒組以外を選ぶには、それなりの成績を修めていなければならない。特に青組と緑組は、基礎が出来なければ選択できないようになっている。当然、選択制なので黒組にも成績のいい者はいる。しかし、1年次に良い成績を修めていた者は、大抵の人が青組か緑組を選んでいた。
「まあまあかなあ」
「わ、私は…その……」
「由美は得意教科と苦手教科の差が激しいわよね」
得意なものはとことん得意だが、苦手な教科に関しては赤点ギリギリの時もあるらしい。由美は元々黄色組を選考したいと考えていたので、基本の5教科よりも副教科の方が得意だった。特に家庭科に関しては当然、文句の付けようの無い成績を修めていたのだ。
「何が苦手なの?」
「社会が一番苦手……。特に地理が苦手なの」
「茉莉ちゃんは苦手教科ある? 教えてあげよっか?」
さっきまで自分の勉強に集中していた幸雄が、茉莉に言う。広げた古文の教科書そっちのけで、デレッと表情を崩していた。それを横目に苦笑して、真人も由美に対して教えようか。と提案してみた。
「数学が一番苦手。幸雄くんは?」
由美からの返事を待つ間、真人は茉莉と幸雄の会話に耳を傾けていた。
「数学なら得意! 教えるよ」
幸雄は茉莉の役に立てる。と喜んで、数学のノートを鞄から取り出した。
「教えてあげるのはいいけど、テスト後に提出の古典の課題、ちゃんとやりなよ?」
「まだ時間あるし、家でやるから平気だって。純也は心配性だな」
幸雄は席を茉莉の隣に移動して、茉莉が解いていた問題を見た。本当に幸雄は数学が得意で、軽く目を通しただけで茉莉がつまずいているところに気づく。
「俺もそっちに行っていいかな?」
由美が提案を受け入れてくれたので、真人も由美に勉強を教えるため、席を移動しようとする。由美が頷いたのを見てから、真人は社会のノートを自分の鞄から取り出して、由美の隣に座った。由美は真人の分のスペースを空けると、真人を見つめて眉を下げた。
「暗記系ってあんまり得意じゃないのよね。正直、歴史も苦手だし……」
「地理は歴史よりも暗記は少ないよ。歴史に通ずる所もあるかもしれないけど、背景を思い浮かべることが出来たら自然と答えは出るし」
「?」
苦手教科の前で思考が止まっていたのか、由美は不思議そうな顔をしている。真人は小さく笑うと、テスト範囲を聞いて1から説明を始めた。
「地理のテストって、意外と問題用紙に既に答えがある。みたいなのが多いから、必要なのは暗記力より読解力かなあ。国語は得意?」
「社会と比べたら、得意な方よ」
「なら、ひとつの事象に対して色んな問題を解いて理解していけば、高得点も狙えると思う」
真人は新しく鞄からプリントを取りだした。洋極の課題プリントだが、藤波とは少し内容が違う。
「これ貸してあげる。同じ国の事象についてまとめられてるものだから、藤波のと見比べてみて。グラフから読み取る問題は結構出るかもね」
「う、うん……」
統計や分布のグラフを見るのは、あまり得意ではなかった。由美はじっと問題を凝視して、顰めっ面をしている。
「これはここを見ると…で、この国の気候は……。だから…………」
「あれ? そうだったっけ? だってここって……」
「ああ。それはね、地図見るとわかりやすいんだけど……がここまでで……になるから…………」
「そっか! わかりやすい!」
「それは良かった」
問題を解けた由美がキラキラとした瞳で真人を見つめるものだから、真人はつい照れてしまう。それを誤魔化すように苦笑した。
「あの、また分からないところがあったら聞いていい?」
「もちろんいいよ」
「ありがとう! 北川くんも自分のお勉強、進めてね?」
「うん」
折角鞄から持ってきたノートがあるので、真人も勉強は地理にした。
「飲み物お待ちどう様。どうしよう。2人の分はこちらのテーブルがいいかな?」
「そうしてあげて」
「ありがとうございます」
店長はそれぞれに飲み物を置くと、ニコニコと微笑まし気な笑顔でふんわりとエールをくれた。
「お腹がすいてきたらまた声をかけてね」
「「はーい」」
と元気に返事をして、由美達はそれぞれ勉強を進めていく。
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