第18話 体育祭の始まり

 開会の時は学校ごとに並ぶ事になっているため、由美達と幸雄達は流石に一旦別れた。


 開会式が終わった後、由美と茉莉はそのまま、学園内の友達の元へと合流する。


「おはよー!」

「今日はお互い頑張ろうね」


 水木みずき里美さとみ山根やまね和実わみ。去年から仲良くしてくれていた2人だ。

 

「みんな同じチームなら良かったのにねえ」

「学校側で決めることだし、仕方ないよね」


 そうは言いつつも、4人は仲良く並んで観戦する。


「一番最初の出番は誰だっけ?」

「私と茉莉じゃない? ハードル走よね」


 和実と茉莉は開会してすぐに出番があるようだ。心境としては当然どちらの応援もしたいのだが、チームとしては里美は紅組である茉莉を、由美は白組である和実を応援する。


「頑張ってー!」

「負けるなー!」


 普段と違って男子生徒も観戦席を行き来しているので、この場は色んな声援で盛り上がっている。


。。。


 滞りなく体育祭は進んでいき、お昼前最後の種目である男子リレー走が始まった。これには拓真と真人が出る。真人は行事の一番最後を飾る男女混合リレーでアンカーをつとめるため、ここでは最初に走るらしい。


「真人くん。速いわね……」

「そうね。余裕でトップを走りきってるもの」


 最近茉莉と由美が仲良くしているという男子生徒の顔を、里美と和実はここで初めて目にした。


「あの人がそうなんだ」

「よく噂されてる人だよね。北川くん……」


 和実は知らなかったようだが、里美は真人の事を知っていた。じーっと真人を見つめて、惚けている。


「てか、紅組の女子も北川くん応援してたじゃん。どんだけ人気なのよ」


 と、和実は敵チームである真人の応援をする紅組女子を見つめて、呆れ顔でそう言った。元々、和実には中学時代から付き合っている彼氏がいるらしい。真人に対しては確かにイケメンだな。くらいにしか感想がなかった。だからこそ、いくらイケメンでも敵チームの応援をする意味がまるで分からないのだった。


「拓真くんも凄いね。さっき以上に女子達が白熱してるじゃない」


 突如聞こえてきた歓声に、茉莉はグラウンドではなく観戦席を見てしまった。それは由美も同じだ。驚いて、条件反射で声のする方を見てしまったのだ。

 

 真人と拓真の違うところは、女子に対するサービス精神だろうか。拓真はバトンを渡し終えたあと、大きな声援を送っていた観客席の方ににっこりと笑って手を振っていた。それで更に歓声が大きくなるので、向かいの洋極の生徒達は不満げである。


。。。


 お昼は、事前の約束通り真人達と一緒に食べることになった。そこでは里美と和実を友人として紹介し、すぐに打ち解けた。


「水木さんって、俺ん家の向かいに住んでる子だよね」

「あ、うん。私って小柄だし、あんまり同い歳って事、気づかれないのよね」


 里美は油断すれば小学生とも間違われてしまいそうなほど背が低い。実際、何ヶ月か前に私服で会った時に、真人は近所の中学生だと勘違いをしていた。最近になって見かけた際に、藤波の制服を着ていて驚いた記憶がある。


「あはは。少し前に制服でもすれ違ったよね」

「あ……。そ、そうだったっけ。忘れてた」


 少し緊張気味に話す里美に、真人は少し気まずそうにする。由美達も里美の様子は気になったが、ここでは何も聞くことが出来なかった。


「じゃあ、2人は茉莉ちゃんと同じクラスなんだ」

「うん。由美だけ特待生になっちゃったから…クラスが離れちゃったけど」

「特待生に選ばれなくても、私は多分黄組だったかなあ……。家庭科科目を伸ばしたかったし」

「ぶれないよねえ」


 藤波も洋極も、特殊なクラス編成をしている。共通の話題にもなるので、無難だと思ってまずはお互いのクラスを教え合うことになった。


「そっちは、みんな白組なんだ」

「うん。しかも、拓真なんかは条件付きだけど授業免除もあるんだよ」

「うわっ。凄っ」


 他愛もない会話をしていると、真人が「次の種目の準備があるから」と言って抜けてしまった。昼休憩もあと少しで終わるが、観戦はどの席にいてもいいので、せっかく仲良くなったのだし。と思い、そのままみんなで一緒に観戦する事にした。


「あら? この鍵って倉庫の鍵よね?」


 真人は由美の目の前に座っていたので、忘れ物にもいの一番に気がついた。鍵のタグには<一番倉庫>と書かれている。


「体育倉庫の鍵だ。あいつ、忘れて行ったのか」


 純也はそう言いながら鍵を拾う。


「ないと困るよね? 届けてあげた方が……」


 由美がそう言いかけると、茉莉が面白そうにニマニマと笑って、由美の肩を叩く。


「届けてあげなよ! 由美!」

「え? う、うん……?」

「由美ちゃんが行ってくれるの? はい! 鍵!」


 拓真もニマーっと笑みを深くして、純也から鍵を奪い取ると由美に手渡した。


「行ってらっしゃーい」

「うん…行ってきます……?」


 由美は戸惑いつつも、真人が困っているだろうと思い、急いで体育倉庫へと走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る