第14話 突然の雨
今日は座って話をする事が出来ないので、河原で石を拾って二人で水切りをしながら話をしていた。しかし、そろそろ日が傾いてくる時間だ。
「そうだ。浜野さん。俺、実は体育祭の準備を頼まれてて……。多分、来週からは体育祭が終わるまでここには来られないと思うんだ」
「え? そうなんだ……。それじゃあ、暫くは会えないね」
由美はそう言って俯いた。寂しそうな表情をしている。こうして見てみると、由美は随分と真人に懐いてくれたようだ。
「帰りにでも、またほしのねこに寄るよ」
「うん! 待ってるわ。最近は店長が夏らしいデザートを考えてるの。出来たら知らせるから是非食べてね!」
真人の言葉に、由美は嬉しそうに顔を綻ばせた。真人もそれにつられて、ニッコリと笑顔になる。
「楽しみだね」
途中までは一緒の道なので、所々で会話を挟みながら河原をあとにして歩き出す。並んで歩いていると、少しずつ暗くなってきた。
「今日、少し居すぎたかな?」
真人がそう言って、由美の帰りを心配しだした直後。突然、鼻先にポツリと水滴が落ちる。
「え? 雨……?」
「うげ。マジか。今日と明日は降らない予報だったのに!」
降らないなら。と、真人は昨日濡らした傘を庭に干したまま放置して学校に来た。折りたたみ傘も学校のロッカーに置きっぱなしなので、濡れて帰るしかない。
「駅のコンビニで傘でも買うかあ……」
「駅まで近くないわ。家が近いから寄っていって!」
「え?」
いつもならここで別れるはずの分かれ道。だったのに、真人は断る暇もなく、由美にがっしりと腕を掴まれた。彼女に連れられて、知らない道を走っている。
途中で<ほしのねこ>が見える場所まで来た。ここに繋がってるんだ……。そう思ったのもつかの間、そこをも走って通り抜け、由美は大きなマンションの前で立ち止まった。
「ここがうちのマンション。風邪ひいちゃうから早く入ろ」
「いや、え!?」
有無を言わさずマンションの部屋まで連れてこられ、真人は正直戸惑っている。当然、彼女を害する気などないが、本当に
何故なら、真人は知っているからだ。由美との会話の中で、今日この時間は家に誰もいない事を。つまり、この一室には由美と真人の2人きりなのだった。
「ちょっと待ってね。タオル持ってくるから!」
由美も濡れていると言うのに、彼女は急いで真人の分だけのタオルを取りに戻ると、真人に手渡した。
「浜野さんも早く拭いて。それから、服も着替えてきなよ。それじゃあ風邪引くよ」
「あ、うん……。北川くんも着替え用意するね。お父さんの服があるから」
「俺はいいから、浜野さん早く!」
真人が焦ってそう言った。何故焦っているのかと言われれば、カーディガンで隠れない胸元のシャツの隙間から、薄らと見えている下着に指摘出来ないからだった。
2人きりという状態でなければ言えたのかもしない。しかし、今この場で彼女の姿に指摘できるほど、真人に度胸は備わっていない。
「うん」
由美は真人の慌てた様子に不思議そうな顔をしたが、大人しく着替えをしに戻った。数分後、きっちりと着替えて、タオルで拭いた髪をアップにあげてきた由美が着替えを持って帰ってきた。
「北川くんも早く着替えて?」
「あ…ありがと……」
実は帰るか悩んだ真人だが、厚意を無下にも出来なかった。真人は大人しく玄関先で由美の帰りを待っていて、持ってきてくれた着替えを受け取る。
「どこで着替えればいいかな?」
「脱衣所に案内するから、そこで。お風呂は湧いてないけど、シャワーだけでも浴びる?」
「いや。対した事ないし、いいよ。気遣いありがとう」
脱衣所を借りると、真人は軽くため息をついて着替え始めた。幸い、下着までは濡れなかったので助かった。由美の父親はかなり大柄なのか、真人には少々サイズが大きい。
「浜野さん。ありがとう」
着替え終えた真人が脱衣所から出ると、由美に洗濯するから。と、脱いだ制服を奪われた。
「そこまでしてくれなくてもいいよ。どうせクリーニングに出すんだし」
「そう? それならビニール袋にでも入れて持って帰って。そのままじゃなんだから、紙袋もあげる」
「いい? ごめんね。お世話になっちゃって」
「気にしないで!」
由美はニッコリと笑って、真人の制服を持ったまま袋を取りにまたどこかへ行ってしまった。
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