第12話 悪友達との対面
カランカラン
「いらっしゃい! 由美ちゃん。丁度茉莉ちゃんも休憩中だよ。ほら」
来店したのが由美だと気づくと、店長はすぐに茉莉の座る席を指さした。幸雄が軽く手を振っている。由美はそれに向かって口元を緩ませながら席に近づいた。のだが、興味津々に由美を見つめる拓真と目が合って、足が止まる。
「由美? どうしたの?」
「……?」
真人も由美の方を振り返っていたので、拓真の不躾な視線に気づいたのは視線を戻してからだった。
「おい、ジロジロ見んな。戸惑ってるじゃねえか」
「なんだ。由美ったら、真人くん達と話すようになったから、男性に対する苦手意識も消えたもんだと思ってたわ」
茉莉の言葉を聞いて、真人は由美と初めて会った日のことを思い出す。
(そう言えば…男が嫌いって言ってたような……)
「あはは。ごめんね。真人の友達だって言うから気になっちゃって」
拓真は苦笑すると、怖くないよ。と宥めるようにゆっくり視線を落としていく。由美は未だに戸惑っているが、大人しく茉莉の目の前の椅子に座って、軽く会釈をした。
「えっと、初めまして……」
「初めまして。真人と幸雄の友達で、久谷拓真。こっちは高井純也ね」
「は、浜野由美です。北川くんから、少しだけ聞いてたよ。2人とも、北川くんのクラスメイトなんだよね?」
由美は途切れ途切れに、ゆっくりと言葉を紡いだ。緊張しているのか、表情もどことなく固い。
「そうそう! よろしく!」
拓真が挨拶をすると、由美もまた「よろしく」と言って、ぺこりと会釈をする。
「ごめんね。浜野さん。こいつは本っ当にお調子ものだから。話は9割…いや、全部聞き流していいよ。でも、純也は凄く良い奴だから」
と言う真人の言葉に反応したのは、やはり拓真の方だった。「酷い」と頬を膨らませているが、真人は無視を決め込んで食事に戻った。
「由美ちゃんは何にする?」
店長が茉莉の注文した料理を運んで来るのと同時に、由美に聞いた。
「おすすめ……」
「了解。茉莉ちゃんと同じメニューだね」
そう言って、また料理をするためにカウンターの奥へと引っ込んで行った。
「ここの料理美味しいよねー!」
拓真がそう言うと、由美はその言葉にピクっと反応し、警戒心を少し緩めた。拓真の方へ視線を向けている。
「このおすすめとか、本当に美味しいよ」
由美の視線に気づいた拓真がそう言うと、由美は嬉しそうにはにかみ、お礼を言った。拓真が不思議そうに首を傾げると、真人が疑問に答えてくれる。
「今回のおすすめ、浜野さんが考えたメニューなんだって」
由美の考えたメニューは、あっさりしたソースを使った炒め物だった。見た目はチンジャオロースに近い気がするが、中身は全くの別物である。他にも、由美はデザートなんかも考えたりするそうで、前に真人が試食させてもらったミルクプリンも近々販売が始まるのだとか。
「え!? 凄いんだね! 由美ちゃん!」
「ありがと……」
拓真に正面から褒められた由美は、もう一度お礼を伝える。由美が恥ずかしそうにしているそばで、茉莉は自慢げに胸を張った。
「なんてったって、由美は家政の特待生だもんね!」
「ま、茉莉!」
由美は恥ずかしそうに茉莉を宥めてから、俯く。
家政と聞いて、真人は納得した。何度か話すうちに、由美の性格もそこそこ把握していたのだ。由美はかなり世話焼きだし、しっかり者。家庭のことはなんでもやると言ったような内容も、前に話していて耳にしたことがあった。
「へぇ……。特待生として選ばれる程だなんて、よっぽど家庭的なんだね」
拓真はそう言うと、最後の一口を口に入れる。拓真の頬が緩んでいるのを見た由美が少し嬉しそうだったので、真人はついつられてしまい、頬が緩んだ。
「ふふふ。少しは慣れてくれたかな?」
拓真はいたずらに笑って言った。由美は小さく頷くと、真人の方をジッと見つめた。真人の友達だから。と言う方向の信頼もあって、少しずつ拓真とも打ち解けられた気がする。
純也に関しては、最初から「いい人」と紹介されたので、警戒心もほとんどなかった。
「これからは、たまに俺も来させてもらおうかな」
と拓真が言うと、真人は少し訝しげに、由美は嬉しそうにする。その対象的な反応につい笑ってしまったので、拓真はまた真人に睨まれてしまう。
「ここ美味しいもん。そんなに睨まないであげてよ。真人」
と純也が言うと、真人はムムっと眉を軽く寄せてから小さくため息をついた。そして気持ちが落ち着いたのか、表情も柔らかくなる。純也は真人の表情を見て、ホッと安心した。
「そうだぜー。お前らだけで通うのはずるいよ。純也もまた一緒に来ような!」
そう言って、拓真は純也の肩に腕を回した。真人も純也には何も言わないし、むしろ優しい顔で笑っている。
「ねえ、茉莉。本当に仲がいいんだね」
「そうね」
由美と茉莉は、4人を眺めて微笑ましげに囁きあうのだった。
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