悪友

第10話 いつもの4人組

 由美と真人は、お互いの部活が休みである毎週水曜日の放課後に河原で会うようになった。


 あの約束をしてから2週間。そろそろ年度初めての行事である、体育祭の時期となった。体育祭は藤波と洋極の合同で行われ、学園から少し離れた所にある市立体育館を借りて開催される事になっている。


 そして、変わったことと言えばもうひとつ。梅雨の時期に入ったことが挙げられる。初めて会った時にはきっちりと着ていた制服も、今はお互いに薄いカーディガンだけになっていた。


 両学園は校則で指定のカーディガンしか着ることが許されていないのだが、種類が多い。2人の着ているカーディガンは真人が黒で由美がグレーである。そして、それぞれ胸の部分に校章が、カーディガンに合う色で刺繍されていた。


「じゃあ、また来週ね」

「うん。気をつけて帰ってね」


 最近の会話の内容も体育祭の事が多く、明日はお互いの学校で体育祭の種目決めがあるのだと言う。


。。。


「リレーのアンカーは真人で決まりだな!」


 由美と会話をした翌日、真人は自チームである白組の会議中、体育祭実行委員の生徒から突然名前を呼ばれて驚いた。


 ここで言う白組は、真人のクラスである白組の事ではなく、体育祭のために別れたチームの白組である。


 クラスごとに分かれてしまうと、スポーツ選考の赤組が圧勝するのは目に見えている。そのため、組み分けは当然クラス内で適当に振り分けられ、紅白に別れて対戦することになっているのだ。


 そして、真人は白組チームだった。


「ええー! 赤組のさかきでいいじゃん!」

「俺はトップ走るから。正直、北川の方が速いし」


 榊と呼ばれた男は、陸上部に所属しているスポーツ選考クラスの生徒である。去年の秋の大会で好成績を残した彼だが、スパイク無しの運動靴で走ると、真人の方がコンマの差で足が速い。


「そんなに変わらない! 体力ある方がアンカーでいいじゃん!」

「体力があるのはお前の方だろ。サッカー部だし。去年の長距離走のタイムはお前の断トツ首位だったじゃねえか」


 榊は短距離選手なので、真人よりも体力は無いのだそうだ。話し合いの結果、真人の言い分が通ることがなく、そのままアンカーに決定してしまった。


「あーあ。半周ならまだいいけど、一周分多く走らなきゃいけないとか……」


 真人は机に項垂れると、何も話さなくなる。隣に座っていた男にからかわれながら頭をつつかれても、されるがままである。


「借り物競争やりたい奴いる?」

「あ。俺やりたい!」


 その声を聞いて、真人の頭をつついていた男がバッと手を挙げる。


「えー? お前も体力ある方なんだから、もっと真面目な競技に出ろよ」

「借り物競争だって真面目ですー。それに、俺ってばイケメンだから? 女の子に頼めばなんでも出してくれるしー」


 自信満々に言うように、その男はかなり容姿が整っている。ある程度整っているはずの真人の顔ですら霞んで見えるほどのイケメンが、この男なのだった。


「イケメン滅べ!」

「ムカつく! チャラ男め。毎回違う女連れやがって!」

「女取っかえ引っ変えのクズのくせにモテるのが更にイラッとする!」


 近くにいた男共の野次にも笑顔で、彼はこう言葉を続けた。


「モテるから女を取っかえ引っ変え出来るんだぜー?」


 周りで悔しそうな声が次々に上がる。真人はそれを聞いて、相変わらずだな。と気だるそうに体を起こした。


「この馬鹿の話はいいから。さっさと話進めようぜ」

「酷い」

「うるせえ」


 真人は無理やり話を進めるように体育祭実行委員を急かした。そのおかげで、真人達白組チームの話し合いは早々に終わり、好き好きにホームルームの時間を過ごした。


「真人が俺に優しくなーい」

「それなりにいい子にしてたら優しくしてやるよ」


 抱きつこうとしてくる男の頭を押さえ、真人はそっぽを向いた。


「なんだよー。最近、構ってあげられなかったから拗ねてるの?」

「誰が拗ねるか。拓真たくまがいないおかげで落ち着いた毎日を過ごしてましたー」


 すると、男…久谷くたに拓真たくまは思い切り頬を膨らませ、唇を尖らせる。


「久々の登校だって言うのに酷くない!?」


 拓真は真人と同じく特待生。特待生としての待遇も少し変わっていて、彼はある条件が揃えば授業を免除してもらえる。今回はその条件が揃っていたため、今日まで授業には出ていなかったのだ。

 

 この久谷拓真は、姉の手伝いをする探偵助手と言うやつである。履修箇所の小テストで高得点をとることと、調査依頼を受けた際に学校に許可を得られた場合のみ、拓真は授業を免除してもらえることになっているのだった。


「まあまあ。真人も照れてるだけだって」


 真人とは逆隣の拓真の隣に座っている、赤みの強い茶髪の男。彼が拓真の膨らんだ頬を指でつついてそう言った。拓真の肩に腕を回して、穏やかに笑っている。


「純也は寂しかった?」

「そりゃ寂しかったよー。拓真がいないとうちのクラスは盛り上がり2割減だよね!」

「その方が静かでいいだろ」


 赤茶の髪をした男は高井たかい純也じゅんや。彼も特待生だ。一見すると奇抜な髪色は生まれつきなんだとか。幼い頃はもっと赤みが強く、よくからかわれていた。と、真人は以前聞いたことがある。


 ちなみに、彼は商才に長けていてることから特待生に選ばれている。元々お金持ちの高井家だが、彼が手がけた企画や企業もいくつかあるし、名義は成人済みの兄のものだが、お店の経営もしている。それを教員から評価されたのだ。


「もう、真人。また拓真が拗ねるよ」


 拓真とは反対の真人の隣に座っていた幸雄も口を挟んでくる。クラス内でよく一緒にいる4人だ。その4人が、体育祭でも同じ白組チームに選出された。


「俺が拗ねるぞー」

「威張るな。うぜえ」

「いてて!」


 拓真の髪は男性にしては長い。長いので後ろでひとつに括っている。真人はその茶色いうさぎのしっぽみたいな短い結び目を掴むと、軽く引っ張った。


「なんだよう」

「何って、構って欲しいのはお前の方だろ? 遊んでやってるんだからもっと嬉しそうにしろよ」

「いじめっ子みたいなこと言い出したよ!」


 拓真はそう叫ぶと、純也にわざとらしく泣きつく。


「真人がいじめるよう」

「はいはい。いつものじゃれあいでしょ」


 純也にまで軽くあしらわれてしまうが、拓真は満足そうに笑っていた。

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