第3話 ヴィーネ ジョブとステータス

「じゃあ、ヴィーネのジョブに基づいて決めるよ。」

「うん…。でもこの、『ヒーラー』って何?」

 ヴィーネの前に映し出されているステータス画面を指さす。丁度指の先は『job:ヒーラー』と書かれていた。

「この…Xでは、『光属性の魔法使い』のことを指すらしいね。」

 レインは、『ヒーラー』の説明を開く。

「光…?えっと…回復や…補助を得意とする…。…よく分からないよぉ…。」

 ヴィーネは必死に説明を見て、口に出して、理解しようと試みるが、ヴィーネの知能では不可能だったようだ。

「魔法で皆のサポートをするんだよ。例えば、この『HP』を回復したりね。」

 ステータス画面に書かれているHPのゲージを指さす。

 ヒーラーの特徴は、『高度な』光属性の魔法が使えること。


 魔法使いの種類は6つある。

 光属性の魔法使い_ヒーラー。

 闇属性の魔法使い_ネクロマンサー。

 火属性の魔法使い_サラマンダー。

 水属性の魔法使い_ウンディーネ。

 風属性の魔法使い_シルフィード。

 土属性の魔法使い_ノーム。

 自分の属性ならば高度な魔法が使えるが、ほかの属性の魔法は簡易なものしか使うことができない。魔法使い以外は、魔法自体は入手できるが、生活に使えるかどうか程度である。


 ヒーラーとネクロマンサーは他の4つと違う特徴を持つ。

 ほか4つの魔法使いの武器は魔導書_グリモワールだが、ヒーラーは杖、ネクロマンサーは棺となっている。

 4つは主に攻撃するための魔法が多いが、ヒーラーは回復などの補助魔法、ネクロマンサーは洗脳などの支配魔法が多くダメージを与える魔法は少ない。


「まあ、まず大前提としてHPとなる『生命力』の数値は高めに設定しようか。慣れない状態でいつの間にかHPが1割切っている、とかは絶対に避けないと。」

 やり直しの利かない状況で、レインもいつものゲームの設定をする時とは違い、生き残ること第一にステータスを決める。

「生命力…これだよね。どの位がいいの?」

「んー…。生命力1につきHP10か…。HPは500あればLV1じゃ高い位だね。」

 生命力の説明を念入りに見る。1辺りの値、その他関係する数値など。XでのLV1冒険者のHPは、100に設定されているらしい。

「えっと、500ってことは…500÷10?」

「そうだね。」

「50入れればいいの?」

「ヴィーネが安心できるなら。」

「じゃあ、50にする!」

 そう言って、ヴィーネは自分の生命力の数値に50と記入した。

「次は何決めたい?」

「えぇっと、魔法使うときって、このMPっていうのを使うんだよね。そしたら、いっぱいあるといいなあって。」

 MPの説明を開いて、用途を確認する。

「どれを上げればMPって上がるの?」

「生命力の上にある知力っていうのを上げるよ。」

 そう言いながら説明を開く。仕組みは生命力と同じらしい。ただ、X内の冒険者の値だけが違った。LV1冒険者のMPは100ではなく50、つまりLV1冒険者の知力は5に設定されている。

「皆を回復させるためにはMPを使わないとだから…いっぱいほしい…。」

 そろそろ自分でもどれ程分けるかを考えようと頑張ってみるが、どうにもまとまらず、やはりレインに助けを求めた。

「じゃあ、他のを決めてからにしよう。で、余りを全部知力に回す。それで良い?」

「うん!」

 その返事を聞くと、ほかのステータスを見てどれが重要かを決めた。

「…移動速度に関係する敏捷性か、上げれば痛みを軽減する防御力、どっちが先が良い?」

 残りのステータスは、筋力、防御力、敏捷性、器用度の4つだ。

 筋力は物理攻撃スキルを使うためのFP、攻撃力に関係する。あとは一般的な筋力に関係してくるようだ。ただ、ヒーラーは攻撃を殆どしないのであまり必要ないが、一般的な腕力などの力はある程度必要だろう。武器を持つのにも多少の筋力が必要だ。

 防御力は痛覚・反動の軽減、防御成功率に関係する。一般人NPCの防御力は10程に設定されているそうだが、ヒーラー…というよりヴィーネのことは他の3人が基本的に守るのでほぼ攻撃を受けないようにする予定らしく、レインは防御力をそこまで重要だとは思ってないがヴィーネが心配するなら多く振り分けても良いという考えだ。

 敏捷性は移動速度と回避率に関係する。回避率は、やはりヴィーネにはほぼ関係ないのだが、移動速度は生活する上で重要だろう。一般人NPCの敏捷性は30。敏捷性が0のときの移動速度は時速1㎞、そこから敏捷性が1上がる毎に時速1㎞が足される。つまり、一般人NPCは時速31㎞で歩く世界らしい。地球の常識で考えるとかなり速い。日本の100mを走る男性選手と同じ位の人間がX上では普通ということになる。

 器用度は命中率や採取成功率に関係する。これは、殆ど普通に生活する分には影響してこない。回復や補助魔法をかけるのに命中率は関係しないので、ヴィーネが生産する仕事をしない限り使わないだろう。

 よってレインは敏捷性と、おまけに防御力を4つのステータスの中では中心的に上げる必要があると考えた。


「えっと…敏捷性?…は平均位でいいかなぁ。」

「OK。じゃあ、まずは敏捷性に30振ろうか。」

 ヴィーネは言われたとおりに、敏捷性に30を振った。

「さっき言ったのって、あと防御力だっけ?」

「うん。」

 ヴィーネは頭を抱えて小さく唸る。どうすればよいのか分からないようで時間が経つにつれ、抱えている頭の位置がどんどん低くなる。

「へ、平均位ほしい…かな?」

「わかった。じゃあ10を防御力に振って。」

 レインの顔は慈しんでいるようにも見えたが、どちらかというと苦笑に近いような気もした。

「これで、残りは60か。あとは筋力、器用度だけど。」

「なんか、ボクは器用度って関係ないっぽいけど…器用度が0ってちょっと…。」

 だんだん声が小さくなって、最後に言った「おそろしく不器用みたい」という言葉はレインには聞こえなくなっていた。しかし様子を見て何か思うところがあると察したレインは少し考えて、

「じゃあ、15くらい振っておこうか。もしかしたらポーションを作るとかあるかもしれないし。」

「う…うん!」

 不安そうだった顔を少し楽しそうな笑みに変え、器用度に15を振る。

「筋力はどうする?」

「ボク、攻撃はしないんだよね?それならあんまり多くなくても…。」

「でも、あまり少ないと物持てないし…。」

 レインはそこまで言って、「私たちが持てばいいのか」と考えが浮かんでそのあとの言葉を言わぬまま違う言葉に変えた。

「丁度いいのは5かな。これだけあれば、木の椅子位は持てるらしいし。」

「はあい。」

 筋力に5だけ振り、ステータスポイントは残り40になった。その全てを知力に振り、ヴィーネのステータスは確定した。

「ふああ…。お、終わったぁ…。ありがと~レイちゃん。」

「いえいえ。じゃあ、あっちのフォローをしようか。」

 レミィとランスの方を見てみるとまだ終わっていないようだった。長く座っていて痺れてきた足を無理矢理動かして、2人の方へ向かった。

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