第2話 神と名乗る
4人が気付いた時には、不思議な空間に倒れていた。
青白い無機質な空間。数字が何列にも並んで数を変えながら存在していた。それは何かを構築しているように見えた。
4人は混乱していた。何が起きて、どうなったのか、頭の中で自問だけしていっていつまでも答えは出なかった。
「な、何?ねえ…こ、此処…何処なの?」
震えた声で、ゆかりは一番近くにいた遥にしがみつく。
「わかんない…。でも、死にはしない…と思う。多分。」
追いついていない頭を必死に動かして、何とか言葉を紡いだ。4人は何とか力の入らない足を動かして、微妙に開いている距離を近づけた。
「数字は…触れないか。何かの…プログラムなのかな。」
梢は、一番近くにある数列に触れようとしたが、するりと抜けてしまった。何とも言えない感覚が手に伝わって直ぐに引っ込め、紛らわすように呟いた。
「現実じゃないみたい…。」
ツバサが上下左右に視線を動かす。手はしっかりと梢を掴んでいるが、その手は震えていて今にもふっと力が抜けてしまいそうだった。空いているもう片方の手で頬を軽く抓って夢か現実かを判断する。確かに痛覚を感じて現実でないことが分かるが、それでもこの状況を現実であると認めることはできなかった。
暫くその場で辺りを見渡すと、遠くの方で足音がした。4人は唯ジッと足音がする方向を見つめ、警戒している。
姿が確認できるまでになると、4人はその得体の知れなさにぞっとした。
それは人間のように見えた。体つきから女性であると4人は判断した。しかし、肌は漆黒で顔は認識できない。黒いアクリル絵の具でムラなく塗りつぶしたようだった。
目も口も見えないが、何故だか女性は笑っているように、この状況を喜んでいるようだった。
女性は4人から10m程離れたところで止まった。
「誰…?」
ゆかりの口から出た小さな疑問は、女性に届く筈もないのに、それに答えるように女性の方から声が聞こえた。
『貴方達を呼んだ…そうね。神みたいな者よ。』
機械が喋っているような感情の乗っていない声だった。
「神…様?」
『そう。貴方達には私が構築した世界で生きてもらうの。』
女性_神の手に乗った水晶のようなものからどこかの街の映像が映し出される。どうやらその映像の中の世界が、神が構築した世界らしい。
「何で。目的は何。」
疑問符も付かないような冷たい声で梢は神に問い掛ける。その冷たい声は、梢が酷く怒っている証拠だった。梢の後ろではツバサが震えていた。梢はツバサを守るように立っている。
『…そうね。理由…気に入ったから、かしら。』
「…は?」
神の曖昧なその答えに、遥の声は半ば自動的に低くなった。
『目的なんて無いわ。』
その神の言葉に遥はふざけるなと叫びたくなったが、梢が遥の肩を押さえ止めた。
「…話を聞こう。」
『ふふ。ありがとう。
…私が構築した世界_The world built by X RPG_で貴方達には生きてもらう。長いから、Xでいいわよ。』
「…RPG?」
ロールプレイングゲームの世界という事らしい。
神が作ったゲームに付き合わなければならないと考えると、遥と梢の怒りはどんどん積もっていく。
『貴方達の大好きなRPGを頑張って再現して作ったのよ。きっと気に入るわ。でもね、注意事項があるの。3つ位かしら。』
そういって長々と注意事項を話し始める。
神の注意事項は確かに3つだった。
1つ目。HPが0になれば生き返る事ができない。ゲームには、生き返る術ややり直しが効くのだが、本物の人間を生き返させる事は出来なかったらしい。
2つ目。寿命が無い。老いることがない。老衰ができないのだ。運動量や食事で体形や健康状態は変わるが、身長が変わるとかそういう事はないらしい。
3つ目。Xにいる人間やモンスター、使い魔に地球の事を言ってはいけない。聞かれてはいけない。NPCと言っておくが、それらに聞こえない場所で地球の事を言うのは大丈夫とのことだ。
『質問はあるかしら。』
「…NPCに絶対に聞かれないってどう確認すりゃいいの。」
遥が必死に冷やした頭で怒りを抑えながら問い掛ける。
『MAP機能に表示するように設定してあるの。あとは、防音アイテムや防音スキルで聞かれないようにする事もできるわ。』
そう言って、防音アイテムなのであろう、緑色の石が嵌っている黒色の箱に紫のラインが幾つも入ったいかにもゲームのアイテムらしい模型が出てきた。
『他にあるかしら?』
直ぐに防音アイテムを仕舞い、次を促す。
「あの、感覚ってあるんですか…?」
ゆかりはモンスターを殴ったり殴られたりしているRPGの光景を思い浮かべる。痛覚に似たモヤモヤとした感覚が想像によって肥大化していく。
『あるわよ。貴方達は生きているもの。種類によってはステータスで変わるけど。』
「ひ…っ。」
想像していた映像にリアルな感覚の想像が加わる。神に対する恐怖に上乗せされた別の恐怖で治まりかけていた震えが悪化した。
「ゆっち、落ち着いて。」
遥はいつも通り愛称で呼んで、震えを止めようとゆかりの両肩を押さえる。
『…さて、そろそろいいかしら。機能について分からなかったら、それぞれの機能に説明がちゃんとついているから。』
ゆかりの震えがまた治まった所で、神は話を進める。
「…いいよ。」
『では、新しい名前を決めて、それぞれにステータスポイントを150用意しているから、好きに振り分けなさい。』
そして神は、4人の反応を待たずに消えてしまった。
残された4人の前には、それぞれ『名前を入力してください』と表示された青い画面がある。その少しずれて重なるキーボードは、カタカナと数字、メニューを変えるとアルファベットも出てきた。
「あんま、今の名前と被らん方がいいかも。今の名前を呼んでも地球の話判定らしいから。わい、すぐ渾名で呼ぶから1文字でも被ったら怖い。」
「それは気を付けろよ。まあ、でも確かにそっちの方が安全。」
少し茶番を挟んでから名前を決める。
5分程時間が掛かって、4人とも新しい名前が決まった。
ゆかりは『レミィ』
遥は『ランス』
梢は『レイン』
ツバサは『ヴィーネ』
皆互いに一文字も被っていない事を確認して表示された決定ボタンを押した。押す瞬間、親が決めた名前を捨てる事に罪悪感と不快感を感じたが、見ないフリをする様に目を堅く瞑る。
すると『ステータス画面』と表示された文字や数字がたくさん並んだ画面に変わった。
「…遥…えーと、ランスだっけ。」
「おん。」
「変な感じ。まあいいや。ゆ…レミィのフォローして。私、…ヴィーネの手伝うから。」
レインはヴィーネの隣に移動して、ランスに指示する。
「んーと…レイちゃん。ごめんね。ボクこういうの分からなくて…。」
「…?あ、私か。…気にしないで。むしろ、ちゃんとヴィーネの役に立てるって判って嬉しいから。」
『レイちゃん』と言われ誰の事だと戸惑ったが少しして自分の事だと気づき、その後は直ぐに対応した。
「そう?じゃあ、ありがとう。」
「うん。どういたしまして。じゃあ、ステータスを決めようか。私もこれのステータスの仕組みを知っているわけじゃないから、説明を見ながらね。」
ランスと接する時とは違う優しい態度に、少し遠くで聞いているランスが「酷い」と呟いていた。
「はあ~。んじゃ、わいらもがんばろっか。」
「はーい。」
そんな風に各自ステータスを決めていった。
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