夜明け

第9話 許せない

――――――ベランダ。


「やい!堕天使出てこい!」

「出ないよー。」

「…んー…。めんどくせ。…可愛い可愛い天使ちゃん出てこいっ!」


「ったく馬鹿じゃないの。」


壁から翔が飛び出てきて、服に着いたホコリを払っている。


僕はお構い無しに翔を抱き寄せて口付けた。


「……。もうやられてるじゃん。」

と翔は微笑んで言った。


「完全に惚れた。」

「でしょ。僕はずっと前からだけどね。」


「……。」

翔が僕の頭を支えて舌を絡めてきた。


「…どうする?『先』に進む?」

「バニラなら。」

「稜太の秘密知ってるからなぁ。。。」

「なんの事?」


翔はニヤニヤしながら僕に耳元で囁いた。

「りょう、後ろ好きでしょ?僕、見たことあるんだよ。」

「……。」

「なんでもない。聞かなかったことにして。」


そう…。僕は何度も翔に…。そういうことをされて…って言うのを…それで本当は…もう受け入れられたりする…。でもこれは誰にも知られたくない秘密。。。



「……無いから。そんなこと。無い!!」

「うん?僕、なんも言ってないよ?」


翔は僕の首筋に人差し指を這わせた。


「……ちょっと…だからっ……」

「女みたいでしょ?こういう事するの…でも稜太はね…これが好きだからさ…。」

「……っ!…」


「危ないね…。別に僕はいいんだよ?でも稜太の変なそのプライドがねぇ…邪魔しちゃうんだよね…?」

「だから…やめろって…それ以上喋んな…」

「どうして?教えて?僕わかんないよ…。」


翔は僕の力の弱った腕を降ろして引き寄せた。


「ちょっと…だからっ!!…っ!!…」

「……本当にどうにもなんないんだから。」

「……お前が…ねちこいから…」

「僕は稜太が求めてることをしてるだけ。稜太が言葉に出せないことをしてるだけ。あの口悪い人が出来ないことを僕は出来るから。あの人は弱いから。僕みたいに出来ない。」


「……。」

「なに?……っ?!なんで?!…?!」


僕は翔を突き飛ばして上に乗って殴った。

頭の回路がどこか切れた気がした。

でも2発目行こうと胸ぐらを掴むと翔が消えた。


……咲だ。あいつが消した。



―――――――――「この世界でも『人殺し』は『人殺し』。それにあの子には女手一つであの子を育てた母親もいるんでしょ?例えあんたでも許してくれないと思うよ?」


「でも咲の事悪く言った!!許せるかよ!!」


咲は興奮しきった僕を後ろから強く強く…力の限り抱き締めた。


「いいの。大丈夫。私は一つも傷付いてない。むしろあの子の方が痛い思いしてる。ちゃんと謝ってあげないと。」

「でもさ!!」

「わかったから。落ち着きな。いいから。あんたには私がいるでしょ?私は私を悪く言わない。私は私を傷つけない。だから私はあんたの味方。これなら馬鹿なあんたでもわかるでしょ?」

「……うん。咲さんは咲さんの味方。傷つけたりしない。」

「そうだよ?昔はね…よく卑下してたけど、あんたが教えこんでくれたから。だから変われたの。…ありがとね。」


「……翔を殺さなくてよかった。」

「うん。そうだね。あんたは私の事になると見境無くなっちゃうから。」

「ごめん。」

「よくないけど、いいよ。あたしが止めればいいから。それだけ私を思ってくれてる証拠だよね。」

「そうだよ。俺は咲さんが大好きだから。」

「うん。わかってるよ。……もうあの子に近付くのはやめな。甘い罠ほど闇深いから。あんたが一番理解してるでしょ?」

「……うん。」








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