第9話
【マグナムの兄、レイス・ピサ王視点】
マグナムが辺境に旅立って2か月近くが経過した。
気に入らん。
魔道エレベーターは今だ直らん。
タワーの傾きも酷くなっている。
一番頭に来るのが最上階で暮らさせてやっていた美女が消えた事だ。
どこに行ったのだ!
俺が生活をさせてやっているというのに1人もいないのはおかしい。
更に気に入らんのが目の前にいる兵士だ。
マグナムが辺境の村に着く頃合いを見計らって情報収集の兵士を送り出していた。
だがもどってくるまで一ヶ月かかった。
兵士の動きが遅すぎる。
ただ情報を持ってくるまでにどれだけかかっているのだ?
いつまで待たせた!
そして兵のみすぼらしい姿は何だ?
ただのお使いだけでボロボロになっている。
サボりか、無能か、どちらにせよ腹立たしい。
跪く兵士の隊長に向かってワイングラスを中身ごと投げつけた。
パリン!
兵士の鎧にグラスが当たって割れる。
「報告が遅い、俺を待たせるな」
「……申し訳ございません」
「報告しろ」
「はい、まず村の様子からです」
「マグナムは無事か?」
「はい、生きています」
「報告を続けろ」
「はい、マグナムは10才の姿のまま毎日笑顔で戦っているようですが、どうやら皆を不安にさせぬためにそうしているとの噂も流れています」
「10才の姿のままか?」
「はい、呪いの首輪は消えたようですが呪いは消えていないようで姿が10才のままとの事です」
「くっくっく、村は潰れそうか?」
「その情報は得られませんでしたが『このままでは村が危ない』と言ってモンスターを狩っているようで負傷者が多く出ているようです。他の情報も報告してよろしいでしょうか?」
「俺が聞いた事だけ話せばよい」
「……かしこまりました」
「敵軍の動きは?」
「不審な人影を見た村人が数名いるようですが村を攻める様子は今の所無いようです」
「ち、監視のみか、まったく、マグナムは陽動で軍を動かす事すら出来ぬか」
「……」
まあいい、敵には無数の情報をばら撒いている、マグナムの陽動はその1つに過ぎない。
王の弟が村にいるのに村に攻めこまない、ならばもっと揺さぶるまでだ。
「少し待て」
俺は手紙を書いた。
「辺境に村カントリーヒルにこの手紙が届き次第村を独立させる」
「……そ、それは、カントリーヒルをピサ王国の庇護に置かないと言う事でしょうか? ユニコーン王国が村に攻め入り制圧される可能性がありますが?」
「よい、今は辺境の村を守る余裕はない」
「……」
兵士は黙って手紙を受け取り、礼をして下がって行った。
しばらく1人でワインを飲んでいると無能な近衛兵が部下2人を連れて歩いてきた。
「何だ?」
「重大な報告があります」
「はあ、すぐに言え、無能が」
「これをご覧ください」
「魔道爆弾か?」
「はい、10秒後に爆発します」
「……何を言っている?」
兵士3人が俺に魔道爆弾を投げつける。
王座に投げられた爆弾を俺は素早く避けた。
チュドドドーン!
クルシュタ!
王座が吹き飛んだ。
俺は素早く床を転がり攻撃を回避した。
俺でなければ回避できなかっただろう。
「レイス王は王にあらず! これより我らは西の国に亡命する! レイスが治める国は終わっている!」
兵士3人が螺旋階段を走り降りていく。
3人だけでなく他の兵士も何人か一緒に降りていく。
俺はあっけに取られた。
なぜ護衛はすぐに奴らを殺さない?
なぜすぐに追わない?
「お、追え! 追いかけて殺せ!」
「「了解しました!」」
兵士が続々と降りていく。
そして犯人を追った多くの兵士は二度と戻ってこなかった。
レイス王は重大な話を聞き逃した。
『この国の民や兵士が西の国に引き抜かれている』
王の間は前よりもがらんとして兵士が少なくなった。
【マグナム視点】
「ぷはあ、風呂上がりの牛乳が美味しい」
ウォードが急いで入ってきた。
「どうしたの?」
「ボロボロの兵士4人が王からの手紙を持って来た」
「すぐに行くよ」
村長とウォードだけでなく村人も集まってきた。
手紙の封を開けて目を通す。
「……」
「何が書いてある?」
「簡単に言うと、この村は独立だって」
周りにいた村人に少し笑顔が見えた。
出来れば顔に出さないで欲しいとは思ったけど兵士はやる気が無さそうだ。
報告される心配はないか、いや、王に、何かされた?
兄なら、人のせいにする、話を聞かず後から怒る、話の軸を歪める、何でもしそうだな。
「手紙は受け取ったよ、ご苦労様、所でお腹は空いてない?」
「我らを恨んではいないのですか? 王はこの村の独立の噂をユニコーン王国に流すでしょう。最悪東から軍が迫ってきます」
敵が攻めてきたら向こうのつり橋を落とす用意は出来ている。
それと、向こうが攻めてくるとは限らないし、ここに来るかどうかも分からない。
「恨んでいないよ、みんなは兄の命令に従っただけだよね?」
「あ、ありがとうございます」
兵士が涙を流した。
パンサンドとスープを持って来てもらうと口に詰め込むように胃袋に収めていく。
そして食料を渡して西の国に亡命すれば歓迎される事もアドバイスした。
僕は話をしながら兵士の目を見て確信した。
亡命するだろう、少数の兵だけでモンスターが現れる街道を通ってここに来る事が出来る彼らは優秀だ。
他国でもやって行けるだろう。
別れの時になり、1人で兵士を見送る。
吊り橋を渡る前に兵士が決意したように口を開いた。
「マグナム様、1つ伝えておきたい事があります」
「うん、言って欲しい」
「話を聞いてくださりありがとうございます。本当に助かります」
兄は兵士の話を聞かなかったんだろうなあ。
「この村が独立した今、影響はないかもしれませんが、この村に移住した兵士の中から情報を得ていました」
スパイがいるのか。
警戒はしていたけど、いると厄介だ。
「貴重な情報をありがとう」
「いえ、ただそれが誰なのかは分かりません、特定の場所に紙を入れられており、それを受け取る仕組みでしたので誰なのかまでは分かりません。ですが王の言葉によれば兵士の誰かから情報を得ていると話していました。」
「十分だよ、分かった、気を付けるよ、新しい国で頑張ってね」
「……新しい国に行くと、言いましたか?」
「言ってないね、でも、僕に情報を渡したのなら、そういう事かなって思っただけだよ」
僕に情報を出したことがバレれば兵士は王に殺されるかもしれない。
違う国で暮らす、その決断が出来たからこそ情報を僕に出した、そう思えた。
国が傾いている事に兄は気づいているのか?
分からないが、今ピサ王国はいい状態ではない、それだけは分かった。
この村の悪い情報が独立を後押ししたのかは分からないけど、結果いい方向に進んでいる。
「そう、ですね。西の国に民や兵士が流れている事を王に言おうとしましたが、聞く耳を持ちませんでした。もしも、マグナム様が王であればどんなに良かった事か」
「王なんてまともな人間なら嫌がるよ。喜ぶのは独裁者だけだろうね」
「そうかもしれません、幸せになってください」
「皆もね」
僕と兵士は握手をした。
そして兵士が吊り橋を歩いていく。
これからは堂々と村を発展させても問題無い。
今もスパイがいる可能性はある、それでも独立をしたのならもう兄の国とは関係ない。
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