第8話
辺境の村に着いてから一ヶ月、僕たちは村になじんだ。
ウォード隊長はモンスターからみんなを守る中心人物となった。
ファニーは毎日笑顔でみんなを治療し慕われている。
アイスザックは銃を節約しつつも杖でモンスターをソロで倒して帰って来る。
そして大物モンスターの運搬を他の人に任せていた。
王は皆を殺そうとしたけどみんな優秀だと思う。
口やかましいバロンも嫌がらせばかりの王もいない朝はいい。
窓から差し込む光で目を覚まして身だしなみを整えて外に出る。
1人暮らしの小さな家が可愛く思える。
護衛をつける話もあったけど断った。
人が少ないのに手間を増やすわけにはいかない。
でも、今思えばファニーと一緒に住んでも良かったかもしれない。
さみしいから一緒に寝たいと言えばOKしてくれたかもしれない。
失敗した。
家は外から見るとぼろく見えるけど中は住みやすいように工夫されていて作り自体はしっかりしている。
国の兵士が来た時に備えてぼろく見えるようにしているだけなのだ。
歩くとコーヒーのいい匂いが漂ってくる。
村にある酒場兼カフェ兼定食屋に入るとおばちゃんが明るく声をかけてくれる。
「いらっしゃい、いつものでいいかい?」
「おはよう、うん、お願い」
あらかじめ焼いてあるパンを温め直して野菜と厚い肉を挟んだパンサンド、そして燻製肉と野菜でだしを取った具が多めのスープが手早くテーブルに置かれる。
「ありがとう」
「あいよ」
村の雰囲気がいい。
そして麦から肉、果物にコーヒー、鉱石まで色々取れる。
食のバリエーションの多さは豊かさの証でもある。
パンサンドを口に入れると肉のうまみとパンの甘さが広がる。
パンはハードタイプでよく噛んで食べる為満足感がありシャキッとした野菜の食感が気持ちいい。
スープはダシと塩の美味しさが満足感を上げる。
食事を食べ終わりそうになると1杯のコーヒーを置いてくれた。
「ありがとう」
「あいよ、1人でさみしくないかい?」
「うん、僕は15才だよ」
「はっはっは、そうだったね。よしよし」
おばちゃんが僕の頭を撫でる。
15才である事が信じられないようだ。
でもガトリングでモンスターを倒しているから力は認められている。
そしてモンスターの肉を売って一ヶ月単位で食事代を前払いしている為信頼も得られたとは思う。
客商売をする側からすれば前払い程安心できる事は無い。
「今日もアイシアとモンスターを倒しに行くのかい?」
「うん、いいお肉を持てくるよ」
「そうかい、撃って吹き飛ばないように気を付けるんだね、はっはっは」
そう言っておばちゃんが僕の頭を撫でて厨房に戻って行った。
ガトリングを撃つと衝撃で後ろに下がる。
みんなから『頑張ってるね』とか『かわいい』と言われる。
僕は普通に戦っているだけなのに凄く頑張っている感が出るらしい。
コーヒーを飲みながらぼーっとするとアイシアが来た。
コーヒーをくいっと飲み干す。
「急がなくていいわ」
「丁度飲み終わった所だよ、行こう。おばちゃん、ご馳走様」
「あいよ!」
外に出るとアイシアが作ったゴーレム2体が待機している。
1体は盾を持っていて1体は槍を持っている。
村の外に向かって歩くとファニーが笑顔で近づいてきた。
そして僕の頭を撫でながら言う。
「おはようございます」
「うん、おはよう」
「ファニー、おはよう」
目の前にファニーの胸がある。
やっぱり大きい。
「ファニーは忙しい?」
「はい、とっても。毎日使えるだけ治癒魔法を使っています、空いた時間は洗濯をしたり料理を手伝ったり、子供をお風呂に入れたりと時間はあまりありません」
モンスター狩りが始まってから武具の消耗が早まった。
アイシアは錬金術で忙しくなりファニーが子供をお風呂に入れるようになった。
「うわあ、倒れないように気を付けてね」
「はい」
ファニーが僕を撫で続ける。
ファニーの胸に吸い込まれそうになって何とか意識を保った。
パイブラックホール、その魔境に埋まればもう出られない気がした。
恐るべし。
「行ってくるね」
「はい、気を付けてください」
村の外に歩き出す。
いつになったらファニーと温泉に入れるんだ?
今の僕ならファニーに抱き着いても大丈夫なのでは!?
いや、落ち着け、まだ一緒に温泉にすら入っていない。
まだ始まってすらいない。
今みんなが周囲のモンスターを狩りまくっている、それが落ち着けば治癒の頻度は減るだろう。
だがファニーの仕事を減らす事も必要だ。
この村は豊かではあるけどみんなが色んな作業をしている。
人が少なく1人の役割が大きい。
ファニーの大きな胸を思い浮かべた。
もっと村を豊かにしたい、でも今は目立つのも良くない気がする。
幸いな事にこの村は王都から離れている。
いい物資があっても届ける方がコストがかかる山脈のバリアのおかげもあり注目されていない。
兄が僕達に興味を失う頃合いになったらもっと発展してもいいかもしれない。
スパイがいるかどうか、モンスターを狩りながら今は様子見中だ。
もう少し時間が経ってからゴーレムを増やしてもらおうかな。
「マグナム、眉間にしわが寄ってるわよ」
そう言いながらアイシアが僕のおでこに手を当てた。
「作業用のゴーレムって増やせないかな?」
「そうね、モンスター狩りが落ち着いて、鉱石を取りに行けるようになって時間が出来れば作れるわ、それにモンスターがいなくなればこの2体も畑を耕すくらいの事は出来るわよ」
時期的には丁度いい。
様子を見てから発展を目指そう。
「そっか、うん……いる」
「え?」
「モンスターだよ」
左腕にガトリングを出した。
左の拳を前に突き出してその上にあるガトリングがいつでも撃てるように構えた。
ガサガサガサガサ!
森の茂みから音がする。
「イノシシ! 大きいわ!」
「倒すよ」
ドガガガガ!
後ろに下がりながらガトリングを撃つとイノシシがドスンと倒れた。
「相変わらず、凄い威力ね」
ガトリングのフィッティングが終わった。
サイズの微調整が終わり命中精度が上がった。
呪いの効果かどんどん威力が上がり続けている。
15才の体なら他のスキルも使えたけど他のスキルはサイズ調整中だ。
アイシアが血抜きの処理をした。
イノシシを掴んでみた。
「それを運ぶのは難しいと思うわ」
ずるずるずるずる。
動かせるけど、中々運べない。
僕のウエイトが軽すぎて足が滑る。
「凄い力ね」
両手でイノシシを持って引きずるように運ぼうとした。
時間の無駄だ、少しずつしか運べない。
ピタ!
「……ふう」
「ふふふ、急に止まってどうしたの?」
アイシアを見て言った。
「運ぶのが大変だから手伝って」
アイシアが後ろから僕に抱き着いた。
「もお、無理しなくていいのよ、ゴーレムで運びましょう」
「うん」
「帰ったら温泉に入りましょう」
「うん!」
子供の体のままなのはお得だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます