第7話

 お風呂が終わるとウォードに呼ばれ移動する。

 村長がいた。


「皆さまのおかげでけが人の治療目途が立ちそうです。錬金術師の回復ポーションだけでは治療が追い付かなかったので、それと物資の供給にも感謝しております。その上でです。この村の地下を皆さまにお見せしたいのです」


 村長の真剣な顔を見てすぐに見る事を決めた。

 村長について行きボロい民家に入る。

 燻製室の隣の部屋が隠し部屋になっておりそこには地下に繋がる階段があった。

 地下に進むと更に大きな燻製室があった。

 たくさんの煙が出てもバレない為の1階の燻製室か。


 そして他の部屋を開けると氷の部屋に燻製肉が冷凍されている。

 多少味が落ちても食べようと思えば数年は持つだろう。


 そこで作業する村人は痩せてはいない。

 ウォードも僕もツッコミはしない。

 だが明らかに最初の3人は痩せていた。


 やせ型の3人で出迎えてこの村の貧困をアピールする作戦だったんだ。

 そしてパッと見える街並みもきれいには見えない。

 でもこの村は本当は豊かだ。

 今思えば子供は全員痩せてはいなかった。


 村が豊かな事がバレると王が目をつける。

 そして納税が行われるようになる。

 わざわざ20日もかけて死ぬかもしれない道を通り燻製肉や毛皮などを納める事になればこの村は終わる。


 王は村が1つ滅びても今納品が増えるなら気にしないだろう。

 今この村は納税をしていない、その代わり兵士や吊り橋の修理があった際は物資の供給が求められるし家を開けなければならない事になっている。


 王都から見たこの村は辺境でモンスターの危険があり戦争をしている国の領土に面している。

 誰もが行きたくないと思える村だ。


 でも、行きたくないのではなく行きたくないと思わされていたが正しい。


 批判はダメだ。

 王に本当の事を言えば餓死が発生したりとロクな事が無い。

 王都に納税の為物資を運んでいる内に兵力が足りなくなった村が半壊する可能性だってあっただろう。


 僕が言うべき言葉、それは兄とは違う。


「村長、僕とウォードに秘密を打ち明けてくれてありがとうございます」

「おお、やはり我らの考えは間違っていませんでした」


 答えは感謝だ。

 批判をしてしまえば向こうは心を閉ざしてしまう。

 それでは信頼を得られない。


「苦しかったでしょう、不安だったでしょう」

「はい、はい、不安で不安で、それでも信じられると、信じようと思いました」


「ありがとうございます。その上で相談ですが兵士の中にスパイがいる可能性はあります」

「おいおい、まさか仲間を疑うのか?」


「うん、その通りだよ。ウォード、兄の性格を考えると何をしてくるか分からない。僕達は弱者、そう思わせておこう」

「納得できねえなあ、仲間を疑い続けるのはおかしいぜ」


「分かるよ、分かりやすく説明するね。例えばの話で聞いて欲しい。兄は優しい僕たちの仲間を脅して、娘を人質に取って『娘の命が大事なら情報を流せ、言っておくがスパイは1人ではない』とか言う。何が言いたいかと言うと、仲間がいい人間だからとかそういうのは通用しない。愛が強ければ強いほど娘を人質に取られた場合情報を売る。もちろんこれは可能性の話だけど、よく考えて欲しい。王は実の弟である僕に呪いの首輪をつけて、更に辺境に追いやって殺そうとした上で嘘の情報を敵に流した。僕も、他の民も王にとっては使い捨てのパーツと何も変わらない」


 ウォードは首をゆっくりと縦に振った。


「分かった。あくまで可能性の話だな? だが、痩せていない村人がいれば食うに困っていないのはバレる。秘密にしても意味が無い」

「うん、どんな情報を意図的に流せば有利になるか考えたい。僕から提案なんだけど最近肉は手に入った、でもモンスターの襲撃が前より多いと、噂を流すのはどうだろう?」


「……そういう事か、肉は手に入ったから飢えてはいない、でもそれはモンスターが多い事の裏返しだ、村の治療が間に合っていないこの状況ならみんなが信じやすくなるぜ」


 村にけが人が多かった状況なら肉を食べられるくらいモンスターが襲撃を仕掛けてくるは自然だ。


「しかしそれでは村人が本当に不安になってしまいます」

「最近多い気がする程度にするのはどうかな?」


 長い間話し合いは続いた。

 この村についての微妙に悪い噂をいくつも流す事で話はまとまり、そして村人から情報を集めて定期的に3人だけで話をする事となった。


 悪い噂を流しすぎるとみんなのやる気を削ぐ。

 全く悪い噂を流さなければ王がこの村に目をつける可能性が上がる。

 はっきりしない作戦だけど、悪い手ではないだろう。


「所で、俺を信頼できるのか?」

「そこは信頼するしかない、誰かは信頼するしかないからね。それに地下室を見ている」

「大胆なのか慎重なのかよく分からねえな、それともう1つ」


「何?」

「マグナムはどういう状態を目指している? この村をどうしたい?」

「国からの独立が理想かな」


「独立したらユニコーン王国が攻めてこねえか?」

「その可能性はあるけど、支配を受けるなら兄が統治するピサ王国よりユニコーン王国の方がまだいいと思う。僕が人質に取られる可能性はあるけどみんなを殺す事は無いだろうね」


 村長とウォードが僕を可愛そうなものを見るような目で見た。


「マグナム、おめえ、ろくな目に合ってこなかっただろ? 家族を信じられないはよっぽどだぜ」

「心中お察しします」

「あの兄は、信じる事が出来ないな、でもさ、今は気が楽だよ」


 ここには王もバロンもいない。

 物事がスムーズに進む。


「おう、約束するぜ、あの王よりは俺達の方がマシだ!」

「私も出来る事ならさせていただきます」


 この村は前より良くなる。


 そう思えた。




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