第5話

 僕の体力はどんどん上がっていく。


「そろそろ吊り橋だ! 荷車を解いて1つずつ運べ!」


 僕の出番がまたやってきた。


「皆は少し休んでて!」


 おばあちゃんを吊り橋の向こうに渡すとみんなをおんぶして吊り橋を渡して樽も運ぶ。

 そして荷車を引いて橋を渡る。

 それが終わると荷車に樽を積んでロープで縛りファニーおばあちゃんをおんぶして進む。


「マグナム、凄い体力だな」

「うん、首輪の力だね」

「でも死なないとは言い切れないだろう。今までみんな死んでいる。あまり体力を消費すれば危ない」


「でもみんなの方が疲れているよ、そろそろ暗殺者の事は気にしなくて良さそうだね」

「……そろそろいいか、ファニー、変身を解け」

「変身?」

「そうですね、もういいでしょう、王子、下ろしてください」


 ファニーおばあちゃんが降りて立ち上がる。

 そして紫色のイヤリングを外すとおばあちゃんの姿が変わっていく。


 しわが無くなり、若い姿に変化していく。

 バストトップまで伸びた白い髪が桃色に変わる。

 更に胸とお尻が膨らんでくびれが出来ていく。

 ファニーが髪をかき上げると髪がなびいた。


「本当の姿は楽でいいです」

「ええええええええええええええ! な、何才なの!?」

「15才ですよ、ふふふ、驚きましたか?」

「……」

「口をあんぐりと開けて可愛いですね」


 なでなで。

 美少女だ!

 かなりの美少女、しかもスタイルも良くてファニーおばあちゃんの性格って、かなりいい。

 この世界の人は成長が早い、15才でもう体は大人になるし15才はこの世界で成人だ。


 今までのナデナデ、その意味が僕の中で変わっていく。

 きれいなお姉さんのナデナデ最高!


「驚いたか? 王に犯されない為に今まで秘密だった」

「あ、そっか、暗殺者の心配がいらないなら変装は必要ないもんね」

「はい、よろしくお願いします。ファニーです」


 ファニーが僕の右手を両手で包み込むように握った。

 まるで芸術に出てくるような美しい姿。

 優しい風が吹いてファニーの髪がなびく。


「先を急ごう」

「……そうだね、ファニー、おんぶしよう」

「マグナム、やる気に満ちてねえか?」


「やる気に満ち満ちてるよ!」

「ふふふ、ではおんぶをお願いしますね」


 いい肉感だ。

 ファニーは肉付きがいい。

 惜しむべきは服のバリアだ。

 せっかくの柔らかい感触が台無しだ。

 皮膚を集中させてぬくもりを感じる。


「さあ! どんどん行こう!」

「急に元気になりやがった」

「女性と触れ合う機会が無かったからね!」


「ん? 王と同じでヤリまくってるって聞いた」

「王が僕を貶める為に言っただけだよ。一回も経験はない」

「マグナム、せめてシャキッした顔をしてくれねえか?」

「シャキーン!」


「それとファニー、また鼻血」

「これは失礼しました、ふふふ、シャキーンと頑張りましょうね」


 ファニーが優しく僕の頭を撫でる。

 最高だ。

 まだまだ頑張れる。


「はあ、また吊り橋か」

「吊り橋どんとこい!」


 僕は吊り橋で10往復した。

 みんなが僕に声援を送る。


「王子! ありがとう!」

「王子様、偉いですよ」

「疲れ知らずですね」


「ちっちゃいのに偉いです!」

「生きてて偉い!」

「任せて!」


 ファニーを背負って歩きだす。

 僕はエロとヒーロー展開とスーパーロボットが好きで今でも好きだ。

 みんなが疲れるのとは逆にどんどん力が湧いてくる。

 でも戦えるわけじゃない。


 スキルさえ使えればもっとみんなに貢献できるのに。

 ヒーロー展開が出来るのに。

 

「そう言えば辺境の村カントリーヒルには温泉があるみたいですね。一緒に入りますか?」

「え? いいの?」

「おいおい、マグナムは15才だぜ」


「15才ですが小さな子供でもあります。私は一緒に入れますよ」

「入る! 入ろう!」

「マグナム、楽しみにするのは結構だが辺境の村がどうなっているのか分からない」


 確かにそうだ。

 浮かれてはいけない。

 温泉があってもモンスターの襲撃もある。


 肉は大量に取れるかもだけどこっちが食べられる側になる可能性だってある。

 物資がいつまで持つかも分からないしユニコーン王国から兵士が攻めてくる可能性だってある。

 でも、どうなるかは分からない。


 今は温泉だ。

 ファニーと一緒に温泉に入りたい。

 ファニーは僕を小さな子供扱いしてくれる。

 ファニーに体を洗ってもらうのもいいし洗うのもいい、夢が膨らみまくる。


「えへへへへ」

「マグナム、シャキッとな」

「シャキーン!」

「シャキーンですね」


 僕とファニーが笑う。


 僕たちは20日ほどの道のりを終えようとしていた。

 そして最後のつり橋を進むと丘の上に村が見えた。


 みんながほっとして村に着く前に座り込む。

 ウォードと僕、そしてファニーだけが前に進んだ。


「ついに、たどり着いたか」

「長かったね、温泉」

「ええ、私もお風呂に入りたいです」


「分かるよファニー」

「……まずは村長に挨拶だな」


 ウォード、僕の事を『エロガキ』みたいな目で見ないでよ。

 そうだけども!

 その通りだけれども!


 村長と思われる男と、2人の若い男が家から出てきた。


 ボロボロの服、そして3人は皆痩せていた。


「辺境の村、カントリーヒルへ、ようこそ。私がこの村の村長です」


 村長が覇気のない声で出迎えた。


「俺の名はウォードだ」

「ファニーです」

「マグナムです!」


 僕は王子として紹介された。

 王子じゃないんだけど、どっちでもいいか。


「この村は大分貧しそうだな」

「ええ、食料は多くはありません、そして、モンスターの襲撃でけが人が多くいます」

「食料を配ろう」


「おお、食料を恵んでくださいますか!」

「飢えたままには出来ないからね、でもごめんね、あまり荷物を持ってくれなかったからたくさんはあげられないんだ」

「ファニーはヒーラーだ。傷を治療出来る」

「あ、ありがとうございます!」

「ああ、それと、マグナム、王の弟を温泉に入れたい。これが王からの手紙だ」


「……なるほど、分かりました。温泉はあちらです、案内して差し上げて」

「はい」

「ウォード様とファニー様はこちらへ」

「え? 温泉は? 私もう汗と埃で汚れています。汗と土で体がべとべとです」


「後にしろ、俺達は今日からここに住むんだ。けが人は出来るだけ治しておきたい、歩み寄る姿勢は大事だ」

「そ、そんなあ」


 村の向こうから声が聞こえた。


「サーベルベアだ!」

「5体一気に来たぞ!」

「矢倉に登れ! 矢を放て!」


 ウォードが斧を構えて走り出す。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 サーベルベアの叫び声で座っていた兵士が立ち上がり駆けだす。

 サーベルベアは腕の手の爪がサーベルのように長いクマだ。


 またモンスターか。

 みんなが戦うのに僕だけ戦わないのは嫌だな。

 スキルを使えれば、旅をしている時に何度もスキルを発動させようとして駄目だった。


 魔力を込めてみた。


 パキン!


 首輪にヒビが入った。

 全力で魔力を込めてスキルを発動させるように力を込めた。

 1つだけでいい。

 ガトリングだけでいいんだ。


 パキパキパキパキ!

 パリン!

 

 首輪が粉々に砕けた。


 そして左腕にずしんと重い感触を感じた。

 

「やっと、『銃』のスキルが使える」

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