第4話

 クリフ街道は険しく道が悪い。

 崖に差し掛かると狭い崖の道に岩が落ちていたり土砂崩れで道が塞がっていたりした。

 更に吊り橋の底が腐っている場所もあった。

 その度に土を落としたり荷車を解いて樽と荷車に分解して担いで運び、難所を抜けるとまた樽を荷車に固定する。


 僕は歩くたびに体力が上がっていた。

 それと反比例するようにみんなの疲れが貯まっていき倒れる人も出てきた。

 空の荷車に人を乗せたりおんぶして進む。

 これが兵士の体力を奪いモンスターとの戦いで更に疲れが増していく。


 ウォードが話しかけてきた。


「マグナム、大丈夫か?」

「うん、僕は大丈夫、だんだん体力がついてきた気がするよ」

「そんなに早く体力は上がらない、無理が過ぎると苦しさを感じなくなる、苦しさが麻痺して来るんだよ」

「違うって、本当に体が軽いんだ」

「錯覚だ、それよりも呪いの首輪は大丈夫か?」


「うん、体力と魔力は吸われて体は10才だけど、それ以外は何も問題無いよ」

「それが問題なんだがなあ」


 後ろの兵士が叫ぶ。


「ヒーラーのファニーが倒れた!」

「もう少し進んで開けた所に着いたら休憩だ! あそこまで運んでくれ!」


 崖を切り取ったような道を抜けて岩のある平地に着くと休憩する。

 俺はファニーおばあちゃんの所に歩いた。


 ファニーは紫色のイヤリングをつけたおばあちゃんだ。

 おばあちゃんなのに姿勢が良くて元気に見えたけど今まで無理をしていたのかもしれない。


 僕はファニーおばあちゃんの横に座った。


「大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですよ。甘いパンがあるから食べますか?」

「あ、ありがとう」


 硬めに作られたパンをパクパクと食べるとファニーおばあちゃんが僕の頭を撫でた。


「銀色の髪とうるうるとした黒い瞳で本当に可愛いですね」

「そ、そっか、でも僕は15才だからね」

「ふふふ、これは失礼しました、王子様ですよね?」


 正確には王の弟だから王子とはならないけど問題はそこじゃない。

 僕が何を言っても子供の言葉に取られてしまうのが問題だ。


 ファニーおばあちゃんが僕の頭を撫で続ける。

 きっと僕が何を言っても『僕子供じゃないよ!』的な感じに取られそうだな。

 

「ファニーおばあちゃん、鼻血が出てるよ!」

「あら、ごめんなさい」

「やっぱり疲れてるんだよ。僕が背負うから」

「それは助かりますけど、小さな子供に背負ってもらうのは、ダメですよ。それに呪いの首輪もありますし」


「大丈夫、僕は元気だから!」


 ファニーおばあちゃんは僕のおんぶを何度も断った。

 そして休憩が終わってもファニーおばあちゃんは立ち上がらない。

 無理をして背筋を伸ばして、魔力を使って皆を癒して、鼻血を出して、それでもファニーおばあちゃんは僕にパンをくれて人を気遣っている。


 おばあちゃんにこれ以上無理をさせるわけにはいかない。

 それに荷車には体調を崩した人が寝ている。

 他の体調不良者は兵士が背負っている。


 これ以上兵士に負担をかけるわけにはいかない。

 僕は何も背負っていない。

 強引におばあちゃんをおんぶした。


 今は道が広くなっている、どんどん前に進める気がする。


「む、無理ですよ」

「大丈夫、10才の体になっても体力はあるから」


 みんなも僕を止めた。


「王子! 無理ですよ!」

「マグナム王子! そりゃ無茶です!」

「王子まで倒れちまう!」


 こ、これは、ヒーロー的な展開だ!

 無理だと言われるこの状況。

 どんなに小さくてもやり遂げれば僕はヒーローになれる。

 ロボットアニメの熱い展開まで行かなくても僕はここでファニーおばあちゃんを背負って歩く。


「大丈夫だから! 僕だけ何も背負わずに歩くわけにはいかないから!」

「無理はしないでください!」

「無理はしてないから」


 僕はファニーおばあちゃんを背負ったままほぼ最後尾からぐんぐんと前に進みみんなを追い越して歩く。

 次第にみんなの声が応援に変わっていく。


「頑張ってください!」

「俺も頑張ります!」

「おいおい! そんな小さな体でそこまで頑張るなら俺もやるしかねえだろ!」


 やる気が湧いてくる。

 途中から兵士が背負うバックパックを前に背負い更に重量を増やす。

 ウォードが心配するけどどこまで歩いても歩き続けられそうだ。


「マグナム、無理すんなよ」

「大丈夫」

「ダラダラ汗を搔いてるだろうが」

「汗を掻いても苦しくないんだ」


 ウォードに何度も心配されるけど僕は平気だ。

 ウォードが首をかしげる。


「おかしいぜ、その体力は異常だ」

「きっとこの首輪の力だろうね」

「その首輪は体力と魔力を吸うんだろ?」

「うん、吸われすぎて死ぬ人もいるけど」


「みんな死んでいる」

「そうだけど、でも鍛えている人が使えば死なないし、成長率が増すって本に書いてあったから」

「成功した奴がいるのか?」

「無いけど、でもほら、ここに体力がアップしてる僕がいるよ」


 ぴょんぴょん!


「ファニーの負担になるからジャンプはやめてくれ」

「あ、ごめんね」

「ふふふ、元気が出ました。私も頑張りますよ」

「こんな小さな子が頑張ってるんだから私も頑張りますみたいな言い方だね」

「ふふふふ、はいはい、王子は大人ですよ」


 ファニーおばあちゃんが僕の頭を撫でた。

 この体は威厳が無いな。

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